sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

Waterfall 歌う砂



走る。ただ走る。
走りにくいこの砂漠の中を。


まさかサンズが助けに来てくれるとは思っていなかった。
もしかするとパピルスとの稽古も見られていたかもしれない。
そう考えて冷や汗が出てくるような気がするが、今はそんなことよりもあのアンダインと呼ばれたモンスターから逃げるのが先決だ。


後ろで、なにかがぶつかり合う音がする。
戦っているのだろうか。


フリスクは振り向かずに前だけを見て、矢印が向く先を行く。




ブォンとアンダインの槍が形成される音が聞こえる。


それも一つではない。
10…いや、20はあるだろう。矛先を目の前の藍色のモンスターに向けて確実に当たるように一斉に降りかかる。


藍色のモンスター、サンズは口角をニヤリと上げて、20ある槍をしゃがんだり体を反らしだり、自分の体を巧みに操って悠々と躱しながらからかうかのように言った。


「わぁ…こりゃまるで雨だな。しかも甘くもない飴だ。あぁ。今のはかけたんだぜ?雨(飴)と攻撃に甘さがないって意味でな。…これ褒めてるからな?だが…槍の雨(飴)なんて正直欲しくはないな」


「サンズ!ふざけているのか!!いいからそこをどけ!人間が逃げたらどうするんだ!」


サンズがジョークを言っている間に槍の猛攻が終わった。
彼にはかすり傷ひとつない。それどころか、長いマントすら破れているところがない。


「あいつは逃げねぇさ。焦る必要なんてないだろ。俺としても今あいつに死なれちゃ困るって言ったろ?」


「……キャラ様か」


「あぁ、そうだ。だけど無理に王のとこに帰すのは俺が許さない。わかってるな?」


「………キャラ様はアズゴアと一緒に暮らしたほうが幸せに決まってる!家族と暮らしたほうがいいに決まって…!」


「家族全員がバラバラになったまま、父親のところに帰して…それからどうするんだ?キャラが本当に独りぼっちになる可能性だって否定できない」


「…それはアズゴアがあの人間にやられると…?お前はそう言いたいのか?」


「……可能性としてもないわけじゃない。だが、もうこれで最後だ。決めるのは王だ。今までも、これからも」


アンダインはうつ向いて肩を震わせて歯を食いしばっていた。


「……だから全ての責任をアズゴアに押し付けるつもりか!!!!お前は何も分かっていない!!!あの方がどれだけ苦しんでおられるか!!たった独りで6人の子どもを殺してきたこと……!!お前にあの方の苦しみなど理解できるわけがないッッ!!!!」


アンダインがまた槍を構える。


「はぁ~……”理解できるわけがない”ね……それは俺が言いたい言葉だよ…。逆に聞くが、この世界が全くの別物だったーなんて言われたらお前は信じられるのやら……。はぁ~…俺の考えてることなんて誰も理解できねぇよ。ましてや、あんなチビがカ……おっと、これは言っちゃまずいな。忘れてくれ」


セリフを無視して、アンダインはサンズにとびかかるように襲い掛かる。


サンズはその攻撃を受け入れるかのように砂を蹴り上げてアンダインに特攻する。


アンダインが右手に持つ槍を薙ぎ払う。


それを目で追って、前腕で受け止める。


受け止められ、アンダインは左足を蹴り上げる。


ニヤニヤとした表情は変わらない。


槍を受け止めた腕を離し、逆に掴んだと思えば、そのまま左に倒れこんだのだ。


片足だけで体を支えている今のアンダインでは骨であるはずのサンズの体重でもいとも簡単にバランスを崩し、一緒に倒れこむ。


サンズはその様子を見逃さない。


手から槍を離し、両手を地面につけたと思えば、肘や膝、体を曲げ、逆立ちのような状態になる。


アンダインが焦りの表情を見せる。


体全体をばねにするように勢いをつけて


バランスを崩し、倒れそうになるアンダインの顎へ


一気に蹴り上げる!



「…!!!」



咄嗟に首を動かして回避。


サンズの左足が顔を掠る。


躱したことをすぐに理解して口角が上がり、左手でサンズの足を掴む。


不安定な砂の上、しかも今にもバランスを崩し、倒れそうになっている。
ただ、二人とも意味は違えど、その表情は笑っている。
サンズはアンダインと遊んでいるという楽しげな笑みで、アンダインは捕まえたとでも言いたげな獲物を捕らえ、喜ぶ獣のようだ。



まだ戦いは終わらない。





「……はぁ……はぁ……」


歩きにくいうえにまだお昼ではないにも関わらず暑いこの砂漠を走り回るのは流石に危ないものがある。


キャラからもらった水筒から水を出し、ごくごくと飲む。
喉が渇いていたせいか、勢いよく飲んでしまったせいか、口の端から水がこぼれてしまい、顎に向かって流れていく。


「くそ……もったいない……」


口端から零れてしまった水を拭い、手に付いた水をなめる。


必死に走っていたから気づかなかったが、看板には【あと少しでオアシスだよっ☆ファイトファイト☆】と書かれている。


なんとなくむかつく文面なのは置いておこう…。
きっと暑さと走った疲労でこんな思考になっているだけだ。


息を整える。
空は嫌になるほどの快晴だ。
砂が小さな山になっているかのようで、前が遮られ、地平線は見えない。
砂の山を登っては降りて、登っては降りてを繰り返す。


急斜面の山もあれば緩やかな山もあって、疲労していく。


そういえば、初めてこの砂漠に足を踏み入れた時もこんな感じの砂漠の地形だったような気がする。


山を登る。
膝が悲鳴を上げそうだ。
あと少しで着くっていつだ。もう疲れてきた。
でも休憩していたらいつアンダインがくるか分かったものじゃない。


キュッキュッ


わずかに足元から音が鳴っている。
視線を下に向ける。


………………………?


足を動かしてみる。


キュッキュッ


砂を踏むと音が鳴るようだ。
わずかな音だから、よく耳を澄まなければ聞こえないが、確かに聞こえる。


踏むと音が鳴る砂。不思議な砂だなと思いながらも、今はオアシスに向かう事が先決だ。
追われたり、砂漠を進んだりで、水筒の水が減っている。
あとどのくらいだっただろうか。無計画に飲みすぎた。
これからは水の残っている量を把握して、計画的にこまめに飲まないといけない。


はぁはぁと息を切らす声とオアシスに近づくたびにキュッキュッと音が鳴る砂だけが少年の耳に届く。


どうやらオアシスに近づいていくほどに砂を踏む音は大きくなっていくようだ。
日はいまだに容赦なく襲い掛かる。


砂山を登って一息つこうと思った時、見下ろすと青々しい草が生えているのが見えた。
その草の中心には透き通った色の大きな湖が見える。


はぁはぁと口から息を吐き出し、看板を見やる。
【おめでとう!オアシスに着きそうだね!!ヽ"(❍´∇`)ノ】


ムカつくのはやっぱり気のせいではないようだ。
看板をへし折りたい気持ちに駆られる。


とりあえず…あそこがオアシスであることは間違いないようだ。
ならここで休憩するよりもあそこのほうがいいだろう。


登った砂山を慎重に降りていく。
急な坂ではないが、足場はよくない。
滑り落ちそうになると砂はまるで悲鳴でも上げるようにキュウウウウウウウウと鳴く。
なんとも面白い砂だろうか。今はそんなことを考える余裕はないのだが…。


【ここがオアシスだよ!お疲れ様!お水はオニオンさんに聞いてね!】


看板にはそう書かれている。


オニオン?


青々とした草むらに入る。あのちくちくした植物は見当たらないのが救いだった。
上から覗いたときは分からなかったがフリスクの身長を容易に越える植物が中にある湖を守っているかのようだ。幸い、フリスクでも通ることのできる幅はあるようだ。


草をかき分けて進む。砂漠にも関わらず思った以上に草が生い茂っている。
どうしてだろうか?


疑問が浮かぶが、今はそんなことよりも先に水を補給して早く行かないと…。


進んでいくとなにやら話し声が聞こえる。
声は少し低い。アンダインやサンズではないようだ。


少し草むらに身を潜めて様子を伺う。


「オニオン、最近元気がないね。なにかあったのかい?」


「………あのねー今日の雨が少なかったのーこのままだったらオニオン、ここのお水もなくなって、生きられなくなっちゃうかもーって思ったら…あ!…ちょっと怖くなっただけだよー心配しないでー」


湖の中に大きな頭が見える。遠目から見ても明らかにフリスクの何倍、いや、何十倍も大きい。
その近くに白い羽のようなマントで髪を三つ編みにした人が見える。


あれは…人間…?似ているような気もする。
よく見ようとして植物から身を乗り出すとキュッと砂が鳴く。


「?誰かいるのか?」



まずい、隠れないと。


そう思い、隠れようとするも砂がフリスクの場所を知らせるように鳴き続ける。


「そこにいるんだね。大丈夫だよ。出ておいで」


隠れているフリスクに声をかけているようだ。


もうばれてしまっている、仕方ない。


植物の中から現れる。後ろから遠目で見ただけでは分からなかったが三つ編みの人物は灰色の髪の中に橙色のメッシュが三つあり、右目を隠している。
肌も灰色で、腕は明らかに人間に似ていない。
人間ではないことは確かだった。


「ん……ずいぶんと可愛らしいお客さんみたいだね」


「初めましてだねー!お水貰いにきたの?」


大きな頭のモンスターが目をキラキラさせて僕に質問する。


「あ…うん。そうなんだ。少し貰ってもいいかな?」


「いいよー。オニオンさんのお水あげるよー」


キラキラした目からぽけーと呆けた顔をするモンスター。
なんというか、すごくアホ面をしているなぁ。
気の抜けるというか、表情が豊かというか…。


水筒を出して水を汲む。
濁り気のない水は太陽でキラキラと輝いて水面からフリスクの姿が反射して見える。
三つ編みのモンスターが話しかけた。


「えっと…ここに来るのは初めてかい?いや、この辺りじゃ見ない顔だからさ…」


顔を上げて彼を見る。すごく優しそうな目つきだ。


「あ…そっか、こういう時は私から名乗らないとね…!私はメタトン、初めまして」


メタトンと名乗ったモンスターはお辞儀した。とても礼儀正しいようだ。悪意はなさそうに見える。


「メタトンはねーみんなのアイドルなの!色んなところに行ってみんなに声かけてくれるの!とっても良いモンスターなの!」


「お…オニオン…そんなことないよ。アイドルだなんて恥ずかしいよ…」


「でもこの辺りに住むモンスターみんな、メタトンのこととっても大好きなのよ!ボクも大好きなんだー!今日みたいにボクの所に来て楽しいお話いっぱいしてくれるし、面白いこともいっぱいしてくれるんだー今日だってねー…」


「オニオン、もうやめて…」


メタトンが恥ずかしそうに手で顔を覆っている。


「えーメタトンの魅力、まだ語り終えてないよー」


「いいから!!えっと…んんッ……君、名前は?」


咳払いをして僕に質問しているようだ。


「僕はフリスク」


「フリスクねーいい名前だねーボクはオニオンさんだよーよろしくねー」


そういうと湖から身を乗り出して腕であろう触手を出してうねうねとフリスクの前に差し出した。握手…ということだろうか。
触手を掴むと湖の水で濡れていてこっちの手も濡れてしまった。


「わーい!握手ー」


オニオンは目を輝かせて嬉しそうだ。
それを見てメタトンが微笑んでいる。


「じゃあ、私はそろそろお暇するよ。新しいお友達もできたみたいだしね」


「えー行っちゃうの?メタトンとフリスクと一緒にお話ししたかったのにー残念…」


「ごめんね、オニオン。アルフィスに呼ばれてるんだ。最終調整のためにね。本当は完成してるんだけどさ、アルフィス、心配性なんだ…一大イベントだからね!渡した端末、なくさないようにね」


「はーい、分かったよーメタトンまたねー」


「じゃあね、ダーリン♪」


ニコッと笑いかけてメタトンはオアシスを出て行ってしまった。
砂を踏む音が遠ざかっていくのが分かる。


その音をオニオンとフリスクは聞こえなくなるまで耳を澄ませていた。


……これからどうすればいいのだろう。
メタトンについていけばよかったのだろうか…。


そう悶々としながら考えているとオニオンが話しかけた。


「あのねーこれね、メタトンがくれたのー。これから使うらしいんだけど、ボクにはよくわからないんだ。フリスクは分かるー?」


オニオンが手に持っていた物を見せる。
四角い黒い物体。モニターのようなものがついているようだ。
思いついたものがあるのでそれを伝えてみる。


「テレビか…それに似てないかな…?」


「テレビってなあに?」


オニオンが首をかしげて問いかける。


どう説明したらよいだろうか。


「えっとね…遠くにいる人が見えるものなんだ…分かるかな…」


「んー?そうなの?すごいねー。あ…メタトンにこれ返すの忘れてた…」


オニオンがなにかを草むらから取り出した。
これは赤い大きめの容器に……虫眼鏡か…


「これねーメタトンが使うんだーって言って見せてくれたんだけどそのまま置いていっちゃって…中身はなにか臭いし大事なものだと思うんだけど返すのいつも忘れちゃって」


赤い容器の蓋を開けて匂いを吸い込んでみる。


うえっ……!!
なんだこの匂い


勢いよく吸い込んでしまったせいで鼻が曲がりそうになる。
匂いを体内から逃がそうとしてゲホゲホとせき込むも匂いが口の中まで充満するようだ。


うえええ…………


「ご…ごめんね、大丈夫…?」


オニオンが心配そうに背中をさする。


「うん。気持ち悪いけど大丈夫…」


「これね、あんまりお日様に当てるとマズイんだって。だからお日様に当たらないように日陰に隠してるの」


メタトンに渡しに行ってもよいのだが、かなり大きい容器で、運ぶのは出来なくはないのだが今はアンダインに追われていることもあって容易に渡しにいこうかと言う事ができない。


「そっか。オアシスに住んでいるのはオニオンさんだけなの?」


「え?そうだよーみんな陸に上がって行っちゃったの!砂だらけの場所より水の中のほうが快適なのにね!まぁ…ボクは体が大きすぎて出られないんだけどね。でもいいの!みんながオアシスにくるの楽しみだから!」


コロコロと表情を変えて話すオニオン。


「あ、アンダイン今日はまだ来てないなーアンダインって分かる?」


アンダイン、フリスクを殺す気でかかってきたモンスター。
あの獣のような顔を思い出すと少し顔が青ざめるのだが、きっと嘘はよくないだろう。


「う…うん…分かるけど…」


「アンダインはねー!すごいモンスターなの!毎日ボクの所にきて声かけてくれるんだ!今日はまだ来てないけど」


「そ…そっか…」


「アンダインはねー!みんなに声をかけてね、オアシスの周りのごみを拾ってくれてるの。ほら、この辺りって砂の音が鳴るでしょ?」


「うん」


「一度ね、この一帯にごみが溢れちゃって、砂の音が鳴らなくなっちゃったんだ。だから定期的にごみ拾いをしてくれてるの!ボクも綺麗な砂が好きだから嬉しいの!」


キュッ


砂が肯定するように鳴く。
ごみがあると鳴くことができなくなる砂。
まるで誰かに殺されてしまったかのようだと少し思った。


キュッキュッ


少しでも動けば砂は鳴く。


「なんだか歌を歌ってるみたいだよね、この砂。ボクはとっても好きなんだけどねーみんなもこの音が好きで来るモンスターも多いんだー。このオアシスは特に音が鳴りやすいの」


「そうなんだ」


確かに言われてみれば、このオアシス周辺はかなり大きな音だ。
メタトンやオニオンに居場所がばれても仕方が…………。


!!!!!
ここに居続けたら音でアンダインに場所がばれてしまう!!!


「オニオンさん!ごめん!僕、もう行かないと…!!」


「え?もう行っちゃうの?んー残念…またいつでもおいでー」


「うん!お水ありがとう!」


「ばいばーい!」


砂の音を鳴らしながら走り去るフリスクに、オニオンが手を振っていた。


ガサガサと草をかき分けて、オアシスから出る。


看板には【ホットランドはこっち!!かもんかもん!】と書かれている。
来た方向とは逆方向のようだ。


水は貰った。あとは計画的に飲んでいけば大丈夫なはず。


近くでキュッキュッと砂を踏む音が聞こえる。
しかも速足でかけているようだ。



まさかアンダインがサンズに勝って追ってきたのか…!!


音のする方を見る。
アンダインらしき姿は見えない。


その代わり、小さな生き物が走ってくる。


「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい!!!!!!こまッたのーーーー!!!!」


大きさがフリスクの膝下ほどで猫耳…?の他に左右に垂れ下がった耳…?耳が四つ…?の動物のようなつぶらな瞳のがモンスターがこちらを見ている。


………………………


なにか用なのだろうか……。


………………………………


にらみ合ったように沈黙し、見つめ合う二人。


そのモンスターがガクガク(プルプル?)と震えている。


あれ…顔がずれていってないか…?


「んんんんんんんん………!!」


目の前のモンスターが唸る。
これは、どう対応したらよいのだろうか。


「いやァァァぁぁぁぁぁぁぁ!!!やっぱり手ミーさんハズかしいのー!」


いきなり叫びだし、砂の上を転がり始めた。
砂はキュウウウウウウウウと大きく鳴きだす。


…なんだろうこのモンスター…手ミーって言った?


「え…えっと……どうしたの…?」


しゃがんで声をかける。


すると手ミーというモンスターはフリスクの顔を見て話し始めた。


「h0i!! 手ミーさんだよ! 手ミーさん、人間さんだいスコなの!! あとね! 手ミーさんきょうかしョどこかにわすれた!」


「教科書?」


「ソウ‼ それないと手ミーさん大学いけないの!」


教科書…今までのことを思い出してみてもそんなものはどこにもなかった。


「ごめん、僕もわからないや」


「イイの! いッかいおうちカエッテみる!」


そう言うと、手ミーはホットランドでもウォーターフェルへ行く方向ではない方へ進んでいってしまった。


大丈夫かな…手ミーの家ははずれのほうにあるのかもしれない。
ついていったところでなにかできるわけではないだろう。
今はアンダインから逃げるのが先だ。


ホットランドに向かおうとして、前を見据えた時だった。




目の前に色のない、灰色のドアがあった。




さっきまではなかったはずだ。
しかもこの広大な砂漠に家もなく、ポツリとドアだけが佇んでいた。


どういうことだろうか。


ドアの裏側を見てみる。
……なにもない。


開けてみるか…?


そう悩んでみるも、その思考は好奇心には勝てず、ドアノブに手をかけた。


が、フリスクがドアノブに手をかけるとドアは下から一気に消え始めた。
そのスピードはあまりにも早く、ドアを開く前に全て消えてしまった。


掴んでいたはずの手が空を掴む。


………? 一体なんだったのだろう。
疑問は浮かぶ。だが、その思考をかき消すようになにかが聞こえる。


………………………。


遠くで激しく砂が鳴く音。目を凝らすとそこには青いマントに青緑色のマフラーをしたモンスターと青く光る槍を形成して襲い掛かる茜色の髪のモンスターだった。


!!!!
まずい!もう来たのか!


フリスクは急いでホットランドへと続く看板を頼りに進んでいく。





まだ猛攻は止まない。


たくさんの槍を形成し、何度も何度もサンズに襲い掛かる。


サンズは反撃することなく、ただひたすらに躱す。


「サァァァァンズ!!いつまでそうやって躱し続けるつもりだ!!」


余裕そうに躱す彼は言う。


「えー?なんだって教え子に本気にならなきゃいけないんだよ。だいたいその戦闘技術を教えたのは俺"も"だろ?行動パターンくらい読める」


「なめやがって……!!!!」


アンダインが右手で握りこぶしを作る。


その腕を真下めがけて振り下ろす


砂が悲鳴を上げ、舞い上がる。


視界が砂に覆われる。


その機を逃さんと、今度は左手で握りこぶしを作る。


そしてサンズがいるであろう場所に向かって


真っすぐ正拳突きを放った!


その左手はサンズに当たる……はずだった。


アンダインの正拳突きをした周辺から砂がばらまかれ、地面に落ちる。
そこにサンズの姿はない。


「どこに消えたッッッ!!!」


苛立ちを隠せないアンダインが大声を上げる。
その声は遠くにいるフリスクにも確かに聞こえるほどだ。


「ここだぜ?」


真上。


その声と同時に背中からアンダインを踏みつける。


地面に伏せったのを、サンズは確認したかと思えばアンダインの左手を背中側に回した。


自分はアンダインが立ち上がらないように押さえつけながら。


関節技だった。


「もう終わりか?」


左手を徐々に回して痛めつける。


「………くっ……」


「だーかーらー、言っただろ、お前は感情に任せて敵に突っ込みすぎだ。そこはお前のいい所でもある…が、たった一人で戦うとなるとそれは命取りだ。さっきの砂で視界を奪うのはいい戦法だったがな。相手が悪かったな」


ぎりぎりと左腕の関節技を強めていく。


そのたびに痛みで表情が歪んでいく。


「ふざけるな…! アタシはお前とは違う! あの方のためにアタシは全てを捧げてやる!! いつまでも子供扱いをするなァァァァァァァァァァァァ!!!!!」


その声と共に先ほどとは比べ物にならないほどの数の槍を形成する。


矛先はアンダインとその上に立つサンズだ。


「おい……! お前、まさか……」


「ともに死ね」


槍が一斉に二人に向かってくる。


このままでは二人とも槍でハチの巣になってしまう!


サンズはすぐにアンダインの拘束を解いて、槍を両腕で薙ぎ払い続ける。


全方向から向かってくる槍を骨や格闘ではじいていく。


バキバキと槍を折る音と砂の音だけが耳を支配する。


「ちっ……どんだけ作ったんだよ…!! アンダイン!! これ止めろっつの!」


何度も槍をさばきながら、嫌味を言う。


アンダインはゆっくりと立ち上がり、体を一回転させて勢いをつけると無防備になっているサンズの背中を蹴り上げた!


サンズの体は抵抗する間もなく砂の上に何度も体をぶつけ飛んでいく。


「悪いな…本当は後ろから狙うなんてことはしたくなかったんだが……」


目を逸らし気味に言っていたが、次に口を開くときには冷たく見下ろす瞳をしていた。


「”ちょっと”イラついたんでな」


飛んで行った方は砂が舞いあがっている。
だいぶ遠くに飛ばされたようだ。


「………後ろから狙うような奴に育てた覚えは全くないんだがな…」


砂が風にあおられて、周辺の砂ぼこりが消える。
彼の周りには大きな骨の竜が包み込んでいた。


マントは砂だらけで片膝をついた状態で、首の長い骨が、まるでサンズを守るように肋骨をむき出しにしてひどく唸っている。



にらみ合う両者。



「……仕方ねぇか。俺じゃ、止めることは無理みたいだな。こうなりゃやっぱ、こうなった原因である本人がどうにかしねぇと意味ねぇなこれ…」


ちらりと周辺を見る。


足跡が見える。子供の足跡だ。おそらく、フリスクのもの。


ニヤリと口角を上げる。


「よう、アンダイン、人間のとこに行きたいんだろ?連れてってやるよ」


サンズの言葉に面食らったのか驚いた顔をする。
すぐに疑いの目になったが。


「どういうつもりだ」


サンズが服についた砂を払いながら話す。


「いや、信じなくてもいいぜ? せっかく助けてやったのに恩を仇で返すような狭い心の持ち主に言うようなことじゃないもんなー」


その煽りの言葉にイラっときたのか、アンダインが叫ぶ。


「んがァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!! そもそも!! お前が来なかったらすぐに捕まえていたものを!! 勝手に邪魔したんだろうがァァァァァァァァ!!!!!!!」


「heh 鬼さんこちらー♪」


右目をウインクさせて砂を滑り降りる。
砂は悲鳴を上げている。


「まて! この野郎!!!!」


アンダインもサンズに続いて砂を滑り降りて追いかけっこが始まった。





後ろでなにか聞こえる。


振り返りたくはない…が見ないことには…。
振り返るとそこには、おちゃらけた表情のサンズとそれを鬼の形相で追いかけるアンダインだった。


「ひえっ……!!」


思わず、小さな悲鳴を上げてしまった。


二人とも走ってこちらに向かってくる。
人間の子どもであるフリスクが逃げ切れるはずもない。


走ることは走るが、案の定走ってきたサンズと並走する形になる。


「よう、ちびっこ。その様子だとちゃんと迷子にならずにオアシスに着けたみたいだな」


後ろからの殺気と走ることの疲労から、返答ができない。


「あー…突然で悪いんだけどさ…俺さ…そろそろ眠いんだわ。アンダインのお守り、頼んだぜ」


はい!?


そういうとサンズは大きなあくびをして、走っていたにも関わらず、急に転んだ。砂がまた大きな声を出す。
フリスクが驚いて立ち止まり、サンズを見る。


砂が柔らかいから怪我はなさそうだ。
アンダインも驚いたのか立ち止まり、一緒に様子を見ている。


「zzzzzzzzzz…………」


………寝ている…?
まさか…この状況下で…!?


「zzzzzzzzzzzzzzzz……………」


えっ…!?
嘘だろ……?本当に寝てる…!?


思わず、先ほどまで殺気の塊だったアンダインと顔を見合わせてしまう。


……………………………。


こういうときは……。


「逃げるが勝ちッ!!!」


即座に踵を返して走る。


「あっ……まて!人間!!」


眠ってしまったサンズを置いて、今度はフリスクとアンダインの追いかけっこが始まった。





Waterfall 歌う砂      end


なんだこの終わり方…。
追いかけられてばっかりですね。
オニオンさんと手ミー、そしてメタトンが出ましたね。
メタトンとはまた会うことになるでしょう。
手ミーさんのあの村はNルートでは行きません。Pルートをお楽しみに…。
今回は、”歌う砂”と明記させていただきましたが、本来の名は”鳴き砂”です。
あと…そうですね。あの灰色の扉の向こう、ある人物が慌てている様子が見えますね…。
さて、一体誰なんでしょうか。
次はアンダイン戦になります。いつもの如く、ACTかFIGHTか、どちらかになります。
よろしくお願いします。

Waterfall 信仰の遺跡

茶色に似た白い砂。黒い粒がところどころに見えている。


スノーフルの砂と同じくサラサラとした砂。違うところがあるのなら至るところに生えている緑色の謎の物体だろうか。
明らかにチクチクとしたとげがついている。触らない方が賢明だろう。


看板が立っている。ようこそウォーターフェルへ!と書かれており、行く方向へ矢印がつけられていた。
どうやらこの砂漠一帯はウォーターフェルと呼ばれているようだ。
スノーフルといい、名前に矛盾を感じる。


看板は、この広い砂漠のせいか、たくさん立てられていた。
だいたい20M、いや15Mくらいの間隔で立てられている。
そのせいか砂漠の見栄えは悪い。


砂はフリスクの足首まで浸かるように覆っている。
パピルスと戦った時は砂嵐があったが、今は風はなく、ゴーグルをかける必要もない。
まだ朝ということもあり、暑さはまだない。まだ過ごしやすい気温だ。


だが、なにがあるかわかったものではない。
茶色のマントを少し整えて、フードの角度を直す。
ウォーターフェルへ足を踏み出そうとした時だった。
なにか聞こえる。


「フリスクー!フリスクー!!」


後ろから聞こえる。振り返ってみると、キャラが洞窟の中から姿を現した。
フリスクの目の前に来てしゃがみこみ、はぁはぁと息を切らした。どうやら走ってきたようだ。下手をしたらパピルスとの稽古も見られていたかもしれないなと思うとほんの少しだけヒヤッとしていた。


「よ…よかった。フリスクってば何も言わずに出て行っちゃうんだもん。はい、これ!」


キャラが風呂敷に入れたなにかを差し出す。


「朝ごはん!なにも食べてないでしょ?私たち人間はモンスターと違って食べないと生きていけないから…」


気を使ってくれているのだろうか?
受け取ることにした。お腹が空いていたこともあったからだ。


近くに座る場所がないので仕方なく、砂の上に座る。
幸い、風がないため、食べ物に砂が入る心配はなさそうだ。


柔らかい砂のせいでズボンの中にまで砂が入りそうになる。
なんとか入らないようにと考えているものの完全には不可能だった。
タイツをしているものの入り込んだ感覚がある。不快に感じるが仕方ない。
キャラは正座をして袋の中身を出す。


透明な箱に入った…これはパンだろうか。丸い形をしていて硬そうなパンが4つ入っている。
キャラはパンを一つ出して、フリスクの前に差し出した。
そのパンを受け取る。


「ありがとう、キャラ」


「ううん、どういたしまして」


もらったパンにかじりつく。見た目通り硬い。硬くてかみちぎるのが大変だ。
でも硬いのは外側だけで、中身はふわふわとしていておいしかった。
それにほんのりとまだ温かい。焼きたてなのだろうか。


「これ、美味しいでしょ?これね、私が作ったんだよ!パピルスとサンズの朝ごはんはいつも私が作ってるんだ。でも食料があまり取れるわけじゃないから、パピルスとサンズはいつもご飯残して、私にくれるんだ…。私が人間だから食べないと生きていけないのは分かってはいるんだけど……そこまで気を使ってくれなくてもいいのにね」


少しだけムスッとした顔をしながらパンを頬張っている。
フリスクは返事をせずに同じくパンをかじる。


「あ、お水、一応持ってきたんだ。パンだけだと喉が渇いちゃうからね」


そういうとキャラはパンを口にくわえ、残りのパンが入った透明の箱を膝の上に置いたままマントの中から肩掛けの水筒を取り出して蓋を取り、その蓋に水筒の中の水を注いでフリスクに渡す。
硬いパンなので、喉の通りをよくする水は嬉しかった。


「ありがとう」


ごくごくと喉を鳴らすように片手で水を飲む。
キャラが食べながら話をした。


「あのね、フリスク…金色のお花……見つからなかった…」


キャラの顔を見る。顔を下に向けて暗い表情をしていた。


「金色の花って願いを叶えるんだっけ…?」


「うん…」


キャラはその金色の花がモンスターであることを知らないのだろうか?
なら教えてあげるべきなのかもしれない。


「金色の花、僕、見たって言ったよね?あれ、花じゃなくてモンスターだったよ?」


「えっ……?」


キャラが顔を上げて驚いた顔をする。やはり知らなかったようだ。


「確かに金色の花だったんだけど、おしゃべりしてて、緑色の蔓を出していたんだ」


「金色の花がモンスター…?だから見当たらなかったのかな…」


やはり、フラウィーのことについては知らなかったようだ。
話しておいて正解だったのかもしれない。


フリスクがパンを一つ平らげた。
それを見てか、キャラが気づいて、もう一つのパンをフリスクに手渡す。


「私はどれだけ探してもなにも見つからなかったのに…フリスクはすごいね」


「さぁ…僕にもどうしてかは分からないけれど…いきなり目の前に現れたんだ」


「…そっか…私にはなくてフリスクには何かがあるんだろうね。なんだか羨ましいや」


キャラもパンを食べ終えてもう一つのパンを取り出したが口には運ばず、手で持ったままだ。
互いに気まずい雰囲気が出ている。それもそうだ。キャラが必死になって探している花をフリスクは簡単に見つけてしまったのだから。


なにか、話題を作らないと…。


「キャラは…サンズとパピルスとはどうやって出会ったの?」


キャラが顔を上げてフリスクの方を見る。


「…家を飛び出して、最初はホットランドのお店がたくさんある所にいたんだけど家から出た事がなかったからいろんなモンスターに声をかけられてね、困ってたところをサンズが助けてくれたの。帰る家がないって話をしたらすぐスノーフルまで連れてきてくれて…。彼は、私のヒーローなんだ」


そう話すキャラの顔がわずかに微笑んでいた。


「パピルスも、最初サンズが私を連れてきたときは「サンズ!なんだそれは!まさか…新しいペットでも買ったの?まさか育ててから食べるつもりなんじゃ…!」って言って驚いていたのはすごく印象に残ってるよ。そのあとサンズが「使い用途(養豚)はないぜ」って言ってた。最初は意味がよく分からなかったけど、後になるとなるほどーってなったよ」


ふふふと思い出し笑いをしている。


「………………………そっか」


「本当に、あの二人には救われてきてるんだ。だから力になりたいって思ってる…んだけど……。………………………」


キャラが持っていたパンを膝の上に置いて右腕を押さえ始めた。
顔を下に向けているからわかりにくいが、苦しそうな表情が見てとれた。


「…キャラ?」


「………………………」


話ができるほどの余裕すらないようだ。
いったいどうしたのだろう。意味が分かっていないため、どうしたら良いかもわからない。
とりあえず、背中をさすることにした。
何の効果も得られないことは分かっているけれど、いまフリスクにできることと言えばこうして心配することしかできなかった。


痛い、のだろうか。だが、キャラは何も言葉を出さずにただ耐えているように見える。
顔を覗き込むと額にじんわりと汗がにじんでいる。その汗は静かに頬を伝い、顎から落ちていく。
それだけでとても汗をかいていることは明白だった。


しばらくしてキャラは、はぁはぁと息を整えるように呼吸をする。
少し落ち着いた様子を見計らい、フリスクは水筒の中の水を出してキャラに差し出した。


「ごめんね、フリスク。心配かけさせちゃって…。ありがとう」


「大丈夫…?」


「うん。今はね」


「腕、痛いの?」


「うん。たまにこうやってとても痛い時があるんだ。最近は特にひどいの。だから痛み止めのお薬を貰っているんだけど効かないみたいで…」


顔の汗を袖で拭いた後、心配をかけさせないようにか、にこっと笑いかけた。
そういうのならもうフリスクから言えることはもうない。


フリスクから渡された水を飲む。この砂漠の中では少しの水分でも体からなくなってしまうのは危険を伴うからだ。


「フリスク、ありがとう。このパン、フリスクにあげるよ。私、サンズを探してくる。家に一度帰りたいのはあるんだけど、パピルスが私のマントを作るのに夜遅くまで起きてたらしいから帰るに帰れないんだ。起こしたら申し訳ないし」


キャラはフリスクにまだ手をつけていないパンを渡すと立ち上がる。


「この矢印に沿って行くと、ホットランドに行けるんだ。その前にオアシスがあるはずだからそこに行くといいよ」


キャラがスノーフルのほうへ歩いていく。


「あ!待ってキャラ!」


咄嗟に彼女を引き留める。
僕は彼女の力になれないだろうか。
そんな思いから声をかける。


キャラがフリスクの声に気づいて振り返った。
表情はなんだか憂いを帯びているように感じる。
無意識なのか僕はキャラにこう言った。


「あ…ぼ…僕も探す!探すよ!金色の花!だから、そんな顔しないでよ」


彼女はフリスクの言ったことに少し驚いて目を丸くした。
そのあと、体を完全にフリスクに向けて、にっこりと口角を上げ、屈託のない笑顔でこう答えた。



               「ありがとう」







キャラと別れて、一人になる。


キャラからもらったパンも平らげて、前を見据える。
矢印の看板だらけで、改めて驚いてしまうがこの広大すぎる砂漠で迷子になる心配はなさそうだ。


砂は相変わらず、柔らかく足首まで埋まってしまう。
誤ってどこかに落ちてしまうのではないかと不安になるくらいだ。


風はまだない。
歩きやすくはないが、風がないだけでとても楽なように思える。


お腹はいっぱいになった。
さぁ、キャラのためにもフラウィーを捜さないといけない。
どうしてか、彼女の力になりたいと思った。同じ人間だからだろうか。
その前にアンダインというモンスターとも会わなくてはならない。
そのモンスターならフラウィーのことを知っているかもしれない。


いや、よく思い出してみると、フラウィーは「見ている」と言っていた。
まさか、今も見ているのか…?


そう考えて周りを見渡す。あるのは矢印の看板と茶色に似た砂、チクチクとした植物と嫌になりそうなほど澄んだ水色の空とサンサンと輝く太陽だけだ。


進んでいけば会えるかもしれない。


HOMEやスノーフルは探索し終えていないが、もしかするとキャラが捜してくれているのかもしれない。
そう願おう。


矢印の方向に進んでいくとオアシスがあるって言っていたから、まずはそこに進もう。


一人の子供は日差しの強くなる砂漠の中、矢印を頼りに進んでいく。


パピルスと稽古していた時よりも太陽は攻撃的に、熱を発してくる。
その熱は砂の上で籠り、触ると熱くなっていく。


まだ昼時ではない、が暑い。直射日光では頭が焼けていたかもしれない。
足もタイツがなければこんがりと焼けていただろう。


魔法の影響なのだろうか、キャラから渡されたマントはつけていても暑苦しさを感じない。


暑くなる日差しの中、一つの影が揺らめいた。


影は青い光を手の平から作りだして、細長く先端の鋭い何かを握りしめた。


影は足を大きく広げ、大きく振りかぶり、青い光から作られた棒を子供に向かって一直線に投げつけた。


ブォンと空を切る音。


「!」


フリスクが何かを察して振り返った。
青い光がこちらに向かって飛んでくる。咄嗟のことに驚いて上半身をのけぞる。
光はフリスクの鼻の先端ギリギリを通っていく。


フリスクは心臓が飛び出るほどに驚いて、そのまま尻もちをついてしまう。
砂が柔らかいため、尻ポケットに入っているお守りでお尻を傷めなくて済んだ。


飛んできた方向を見る。


茜色の髪が見える。
青い肌…?黄色い服…?眼帯に、耳は人間とは違うヒレのようなものがついている。
足も胸元もそうだが、だいぶはだけた服装をしているようだ。


「ちっ外したか…!」


舌打ちをするモンスター。明らかに、フリスクに対して敵意が表れている。


これは逃げた方がよさそうだ。


すぐさま立ち上がり矢印の方向へ走っていく。


「!! 逃がすか!」


後ろを走ってくるモンスターはフリスクを追いかけていく。
その姿は振り返らずとも鬼の形相で追いかけているのは確実に分かっていることだからあえて振り返らない。振り返って後悔するのは目に見えている。


ブォン、と何かが聞こえる。
察して、後ろを振り返ると青いモンスターが自分の肌と同じ色の光を放つ、槍の形状をした武器をフリスクに向かって投げつけた。


それも一つだけではない。一つ、二つ、いや、ざっと数えて10はある。
魔法の力か、宙に浮いた10の槍はまっすぐではないもののこちらに飛んでくる。


後ろを振り返りながら、飛んでくる方向を見定める。
この槍は僕に当たるもの、これは当たらないもの、正確に判断をしながらしゃがんだり、右や左に躱していく。


その様子を見てか、モンスターは舌打ちをしている。


「逃げるなこの臆病者!!」


罵倒が聞こえる。
そんなこと言われても、攻撃をしてくる相手の前で立ち止まるはずもなく、聞く耳を持てない。
言葉を無視して走り去る。


相も変わらず、槍は飛んでくる。
そのたびに攻撃を躱そうと逃げながらこの打開策を思考に張り巡らせる。


これじゃ埒が明かない。どうすれば…。
キャラとの約束もある。こんなところで立ち止まるわけにはいかない。


そうは思うが、すべての槍を躱すことはできずに何度か体を掠っている。
痛みは確かにあるが、それよりも逃げることのほうが先決だ。


走るも、この柔らかい砂では走りづらい。
それに躱しながらのせいで、どんどんと距離を詰められてしまっている。


打開策……!話し合う…?
振り返ると口角をにやりとあげ、目を見開き小動物を捕らえる野獣のような顔のモンスターと会話ができるはずがない!聞く耳を持たない!
あと少しで捕まってしまいそうな距離まで詰められる。


捕まってしまったら…そう考えるも考えたくないと自分の思考が拒否する。
嫌な予感だけがフリスクの思考を支配する。


走り続けていたときだった。


「!?」


急に滑り落ちた。体はバランスを失い、滑り落ちたほうへ転がっていく。
モンスターを見ていて前を見ていなかった。意味が分からず、空が回転するように視界が目を回す。


転がり落ちて、気づいたころには遅かった。
右足が砂に囚われていた。動こうとしても身動きがとれない。
フリスクを追ってきたモンスターが見下ろしていた。
よく見れば、砂が動いている…?フリスクの右足を中心に。
しかも右足がどんどん沈んでいっている…?


「……!!!」


助けてと言おうにも近くにいるのは追いかけてきたモンスターしかいない。
そのモンスターは太陽を背にしているせいか表情が全く読めない。


ただただ、砂に埋もれていく人間を見つめていた。





足が砂に巻き込まれ、沈んでいく。
息ができず、沈んでいくことに抵抗しようにもそれを許さない。
このまま息ができずに窒息してしまうのだろうかという考えが浮かぶ。


何秒たっただろうか。足がどこかの空間で出て動けるようになった。


まさか、どこか息ができる場所があるのか…?


じたばたと足を動かす。
意味はないかもしれないが、何もしないよりかはマシだと思った。
腰まで、動かせるようになる。どんどん体が出てきているようだ。だが、よくよく考えると足が宙に浮いている。つまり体全部が出れば落ちるということだ。
高い場所だったら生きていられる保証はないだろう。
だが、息もできないこの状況下では早く出たい気持ちの方が勝っていた。


まだ、まだ顔が砂から出ない。そろそろ息が限界に近い。


肩が出た途端、頭も同時に抜ける。
急に視界がクリアになった驚きもあるが、同時に体は下に落ちていった。


落ちる感覚に一瞬ヒヤッとしたが、すぐ地面にお尻から落ちる。
砂が溜まっていたおかげで衝撃は軽い。
落ちてきた所からはまだ砂がさらさらと落ちてきていて、フリスクのフードの上に落ちる。
全身が砂にまみれたせいか、顔も服の中も砂だらけだ。


砂の落ちてくる場所から離れ、砂まみれの顔、体を手で払う。


ここは……。
周りを見渡す。広い。なにか、石だろうか。石の壁だ。
そして、誰かがいる。丸い影と小さな影だ。太陽の光は届かないのに二人の姿が見えるのはその二人が持っている光の恩恵だろう。


「おぉ…やっと落ちてきたか。どうじゃ、生きてるか?」


影が振り返る。
白い顎髭と眉毛を長く伸ばし、右目が開いていない。緑色の肌、ごつごつとしている。長老なのだろうか。その割に茶色の冒険家のような服装をしている。
隣の小さな影は黄色いマントに大きな目と角が生えている。まるで昔読んだ恐竜のようだ。


僕はこの通り生きているのに生きているかという問いはなんだかおかしい気がするが、答えよう。


「うん。生きてる」


「なら大丈夫じゃな。ほれ、お前さんも何か言わんかい」


黄色いマントのモンスターが年老いのモンスターを見る。


「話してもいいのかじじぃ」


「あぁ、ええぞ。それといい加減じじぃと呼ぶのはやめんか。わしは一応偉いんじゃぞ」


黄色いマントのモンスターが近づいてくる。
身長はフリスクよりも小さい。


「お前!誰だ?」


ずかずかと近づいてくる。なんだか威圧的なようにも見える。

「ぼ…僕はフリスク」


その様子に少し引けを取り、後ずさる。
なんだろうかこのモンスターは。まじまじと上から下までフリスクを見つめてくる。


「おいじじぃ!こんなモンスター見たことないぞ!どんなモンスターなんだ?」


黄色いのモンスターが年老いのモンスターに尋ねた。
かなり生意気そうな口調だ。


「おぉ、そうかお前は会ったことがなかったか。こやつは人間じゃよ」


「はぁ!?」


「黄色い肌に頭から毛が生えているじゃろ?それに……なんじゃったかな。そうじゃな。お前さんと比べてちゃんと腕があるってことじゃ。たぶんな」


「じじぃ!オレが腕がないモンスターだからってバカにするな!!」


声を荒げる黄色のモンスター。マントを着ているから分からないが、腕を持つモンスターではないようだ。
よく見るとマントはオレンジ色の横線が一本入っている。
その怒る様子を見て、ふぉっふぉっふぉと年老いのモンスターは笑っていた。


「ところでお前さん、いやフリスクと言ったか。なぜこんなところへ落ちてきたんじゃ?」


この石の壁の部屋に行き着いた経緯のことを聞いているのだろうか。


「なにかに追いかけられたんだ。気づいたらここに落ちてた」


年老いのモンスターは顎に手を当てて考えてから大きく頷いた。


「ふむ、きっとあの子じゃな。あぁ…大丈夫じゃよ。悪いやつじゃあないからな。ふむ…ここにいるのもあれじゃな。どうじゃ、お前さんもついてくるか?」


「え?」


それはありがたい。でなければ真っ暗な部屋で一人きりになり、ここから出られなくなるという事態になりかねない。
それだけは本当に避けたい。


「ただし、今はこやつと歴史の勉強中でな。お前さんも付き合ってもらうぞ」


「オレは勉強なんてしたくなかったのに、じじぃが無理やり連れてきたんだ」


ムスッとした顔をしている。その様子を見てか、頭の上にポンッと手を置いてなだめるように撫でた。


「悪いな、こいつは昔から口が悪くてな。まぁ…あるやつの影響もあるんだが…こいつの名前はキッドだ。仲良くしてやってくれんか」


「おいじじぃ!勝手に名前を教えるなよ!あと頭を撫でるな!!」


「まぁまぁいいじゃないか。どのみちすぐにバレることじゃ」


「…おじいさんの名前は?」


フリスクが恐る恐る聞いてみる。いまこの状況で襲われても抵抗できないことは明白だったからだ。


「…そんなに警戒しなくてもよい。わしはただのじじぃじゃよ。キッドにもそう呼ばれておるしな。じじぃでよい」


いやいやいや、助けてくれるって言うモンスターにそんな言葉づかいはできないだろう…


そんなツッコミは心の奥にしまっておくことにしよう





「ここが一体どこか、分かるか?」


老父がフリスクに聞いてくる。
この遺跡から落ちてきてから廊下に出て、歩いている。壁には古代文字だろうか。
子供のフリスクでは読むことができず、聞いてきた言葉を返す。


「なにが?」


「この遺跡じゃよ。ここはわしらモンスターが昔々に人間から逃れるためもともとあった遺跡をちょっとばかし開拓して作った場所であり、古くからの言い伝えが眠る場所でもあるんじゃ。わしもこの遺跡を作るのに尽力を尽くしたんじゃが、時が進むにつれ、砂漠化の進むこんな土地じゃすぐに砂に埋もれてしまって、なんの意味も持たなかったがな」


フリスクの顔を見ず、話しながら前を進んでいく。
老父の持つ明かりがなければなにも見えないだろう。


どうやらここはもともと遺跡だったようだ。それが、砂のせいで埋まったってことか。


「砂漠化の激しいこの場所じゃあ、ここから逃れようとしても不可能に近いんじゃ。出ようとすれば砂が拒む。まるでここから出さないようにな…まるでこの砂漠そのものに意思が宿っているかのようじゃ…」


最後の言葉は小さく呟いた。この狭く閉鎖的な空間では声は反響して二人にもはっきりと聞こえる。


「でも、ソウルがあればここから出られるんだろ!?」


キッドがムッとした顔をして、老父に声を張り上げた。
老父はその声に驚いて耳を塞ぐ。そしてキッドの顔を見やる。


「お前は声が大きい。少しくらい静かにせんか。お前の声は耳に響くんじゃ」


「だって!!じじぃはそう言ってたじゃん!!そのソウルが7つあればこんなところから出られるって!!」


老父がフリスクの顔を見る。


……?
僕の顔に何かついているのだろうか…?
それに、ソウルとはいったいなんなのだろう?


「あー…この話はまた後にでもしようじゃないか」


「いや!この話はとても大事なことだってじじぃ言ってたじゃんか!!!こいつにも教えてやんないといけないだろ!この嘘つきじじぃ!」


罵倒が遺跡の中に響く。
老父は眉間にしわを寄せながらまだ耳を塞いでいる。


「あーあー分かった分かった。話す。話すから、だから大きな声を出すのは止めてくれ。間違って遺跡が崩れることがあったらワシらは生きてはおれんぞ」


その答えを聞けたおかげか、それとも崩れて生きていけなくなるという脅し…?の影響かキッドは黙った。
それを見て老父は深いため息をついた。


「あぁ…確かにソウルの力は強大じゃ。たった一つでたくさんの命を救うことができるが、いくつもの町を…いや…国を破壊することもできる。じゃが、それはあくまで強い意志を持つ者のソウルだけじゃ。意志の弱い者のソウルを手に入れたとしても神になれるわけではない。”ソウルを操る者の意思”と”ソウルに宿る意志”がかみ合って、ようやくなせることなんじゃ。まぁ…ワシには無理な話じゃな」



話が長いし、ソウルが…意志が…なんて言葉を一気に出されても何を言っているのかよく分からない。
それはキッドも同じなようで二人とも目を丸くする。


「ふぉっふぉっふぉっ…子供にはまだ分からぬ話じゃったかな…では違う話をしようかの…金色の花についての言い伝えじゃ」


!!!


金色の花と聞いてフリスクがすぐさま反応した。
老父が気づいて話を続ける。


「金色の花はあくまで言い伝えじゃ。ワシは長い時間を生きてきたが見た事はない。言い伝え、というよりも予言じゃな。予言をしたのは誰じゃったかな…。………………………忘れてしまったわい。そんなことはよいか。いずれ思い出すかもしれんからな。お前たちも知っているかもしれんが、金色の花がこのフィリア砂漠を救うとされている。だが見たものはほとんどが子供なのじゃ…お前さんは見たのか?」


老父は濁りのない瞳で真っすぐに見つめてくる。
その問いは明らかにフリスクに対しての質問だった。だがキッドが割り込んでくる。


「オレ!一度だけあるぞ!!って言っても遠目でしか見たことないし、砂のせいで見えなくなっちゃってさー本っ当に、残念だよな!もしあの時に花を取れていたらこんな砂漠から出られたかもしれないのになー」


キッドは悔しそうに地団駄を踏んでいる。


「こらキッド。むやみに遺跡を揺らすでない。本当に崩れたらどうするんじゃ。ここに入る前もそう言ったじゃろう。お前さんを連れて行ってくれと言われた両親に言いふらしてしまうぞ?」


「むむむ……」


脅しのような言葉を受け、キッドは地団駄を止めて黙り込んだ。


「ワシはお前さんに聞いていたのじゃが……まぁ、その様子だと見ているようじゃな」


思っていることを察知されていることにフリスクは驚いた。
表情の読めないため、何を考えているのか分からないと言われてきたからだ。
ただの老父ではないのかもしれない。


こくりと頷いた。


「そうか…やはりか…なぜ金色の花が砂漠を救うのか、なぜ子供の前にしか現れないのか、謎は多いのじゃ。だからワシはこうして遺跡を訪れて調べているというわけじゃ。ここの他にも遺跡はかなり埋まっていてな。この遺跡は”信仰の遺跡”と呼ばれておる。ほれ、これじゃこれじゃ」


老父が壁に向かって明かりを向ける。


壁には何か、紋章が描かれている。
真ん中に丸に翼が生えたような絵。その下に三角も模様が三つ、上の二つの三角は上向きに隣同士に並んでおり、最後の三角は他の三角とは少し下に、下向きで描かれている。
この紋章は…トリエルが着ていたローブについていた模様と同じだ。


老父が指でなぞりながらフリスクとキッドに分かりやすいように説明する。


「これは、神に捧げる紋章らしいのじゃ。真ん中の丸と翼のような部分は神を表し、下のそうじゃな、並んで上を向いているこの二つの三角はワシらモンスターを表し、一番下にあるこの紋章はいずれ現れる希望を表すそうじゃ。確かこれも予言をした奴が考えたものなんじゃが…名前と顔を忘れてしまったようじゃ……おかしい…なぜ思い出せんのじゃ…」


頭を抱える老父にキッドが一言。


「歳だからじゃないの?」と残酷な声をかけた。


少し顔をしかめてキッドを見る。


「うーむ…否定はしないがな……それとな、もう一つ話があってな。ワシらがフィリア砂漠に逃げ込んで少し経った頃じゃったかな、空に七色の光が出た事があってな。あれは…とても美しかった。一切、泣くことのなかったアズゴアが静かに涙を流すあの姿…人間に敗戦し、撤退するしかなかった悔し涙なのか、感動の涙だったのか…その印象だけは今も目に浮かぶようじゃ……。あれは後々に分かったんじゃがあれは”虹”というものらしい」


虹。パピルスも虹が見たいという話をしていた。
僕は虹を見た事があっただろうか…。………………………まぁいいか。
話を聞きながら歩いていくと奥に光が差し込んでいるのが見える。遺跡の出口だろう。


「そろそろ外に出る。お前さんはこの先に進むのか?」


老父が僕に聞いてくる。
答えは簡単だった。


「うん。僕は花を探すよ。そうキャラと約束したから」


キャラという単語に驚いた表情をした。


「ほう…キャラに会ったのか。あの子はとてもいい子じゃ。そうか、ということはキャラも花を探しておるんじゃな…フリスク、ワシからも頼む。あの子の力になってはくれんか」


真剣なまなざしをフリスクに向ける。
その瞳は前にも見たことがある。嫌な気持ちにはならない瞳。
その瞳にこくりと深く頷いた。


「うん。わかったよ。僕はキャラの助けになりたい」


答えに安心したのか老父は微笑んで頷いた。


「おいこら!!オレを置いて話をするな!」


「別にお前さんは割り来なくてもええんじゃ。まだ信仰の遺跡を調べなくてはならないからのう…」


「おい、フリスク…だっけ?もう行くのか?」


キッドが僕の顔を覗き込んでくる。


「うん。行かないといけないんだ。約束してるからね」


「……そっか。じゃあさっさと行けよ。もう会うこともないだろ」


キッドが目を逸らす。
その様子を見てか老父は小さく笑った。


「どうやらキッドはお前さんと別れるのが寂しいようじゃ。この辺りには子供もモンスターは数少ないからのぅ」


「じじぃ!余計なことを言うなっつうの!!」


「前は王子がよく遊びに来てくれたんじゃが、ある日ぱったりと来なくなってしまったんじゃ。なにかあったのかもしれんな…っとあんまり話すと本当に怒られてしまうのぅ…」


キッドが老父をにらみつけている。かなり怒っているようだ。


「あいつはっ…風邪でも引いて寝込んでるだけだ!!大人たちの悪い噂なんて聞くつもりなんてない!!!」


顔を伏せてしまう子供のモンスターの頭を優しく撫でた。


「悪いことを言ってしまったな。悪いのぅキッド。そうじゃ…きっと病に伏せっておられるだけじゃ…お前さんももう行くといい。ここを出て矢印の通りに進めばオアシスがある。そこで一休みしていくといい。そこには水があるからのぅ」


「おじいさんとキッドは、まだここを調べるんだね」


「あぁ…もしかすると砂漠から出られるヒントを得られるかもしれんからな」


「そっか…じゃあキッドともお別れだね。”今回は”あんまり話せなかったけど、またどこかで”もう一度会うこと”があればその時はちゃんとお話ししようよ」


「うん。わかった。その時はもっとちゃんと話そうぜ」


老父とキッドに別れを告げて、光へ向かって歩いて行った。
信仰の遺跡には届かなかった光。あんなに嫌だった光。
外へ行けばその光はまた身を焦がすように灼熱の熱を放ち、容赦なくフリスクに立ちはだかるだろう。
それでも、光を追い求めずにはいられないのは生ある者の性なのだろうか。
その光を求めて足は進む。


遺跡の中ではあまり感じることのなかった熱が肌に感じられる。
嫌になる暑さを感じる。外に出たくない気もしなくはないが、進まなければ、このままだ。


眩しい光に目が眩む。
目が慣れてきたら、周囲を見渡す。
茶色の砂。柔らかい砂。さっきの砂と同じだ。
矢印の看板が見える。遺跡から出てきた隣にはまた看板が置いてあり、[信仰の遺跡]と手書きで書かれていた。


オアシスがあると老父は言っていた。進んでいけばあるとも言っていた。
とりあえず進むべき目的はオアシスだ。


足を動かした、その時だった。


「お前の後ろだ、人間」


上から声が聞こえた。
振り返って上を見る。


遺跡の上にあの青い肌のモンスターがいた。
にやりと口角をあげ、獲物を見据えた瞳。もう逃がさないとでも言うかのようだ。


「七つだ」


…?


「七つのソウルがあれば、我が王、アズゴア・ドリーマー王は神になる。私たちをこの砂漠に追い詰めた人間たちに報復を与えるのだ!これは、お前ができる最初で最後の償いだ」


「…?一体何を言っているの?」


償い?報復?神?
フリスクはそのモンスターが言っている意味を全く理解できない。


「その命を私に差し出せ。さもなくば…」


モンスターが青い光を手のひらから作り出す。
その光は形状を変え、フリスクを攻撃してきたあの槍に変えた。


「私がこの手でお前を討つ!!!」


モンスターが遺跡の上から高く飛び上がった。
それはまっすぐこちらに向かって飛んでくる。


戦わなければならない!


咄嗟にポケットに入っているお守りに手を伸ばす。


戦闘が始まる。二人がそう確信していた、その時だった。


フリスクの目の前に音もなく、青いフードを被り、青緑色のマフラーをした影がいきなり現れたのだ。


サンズだ。


フリスクが呆気に取られているが、それと同時にやってきた行いに対して背中になにかが這い上がるのを感じた。
だが、その間にもモンスターの攻撃は自分に向かってくる。


サンズが手をかざした。するとサンズとフリスクを中心に白く鋭い大きな物体が何本も形成される。まるで、二人を守るかのようだ。
これは…サンズの体と同じ骨だ。体の部位で言うなら肋骨の部分。


モンスターがそれでもかまわずに槍を振り下ろした。


ガキィィィィン!!!


振動のせいなのか音が大きい。


さすがに骨を砕くことはできなかったようでモンスターは一度距離を取った。
その顔には汗がにじんでいるように見える。


「おおぉぉ………すごいすごい。アンダイン、お前強くなったなぁ。俺の防御の骨にヒビが入っちまってる」


ケタケタと笑うサンズに苛立った顔を隠しきれていないまま問いかける。


「………………サンズ……お前なんのつもりだ」


「んー?いや、ただ単にこいつに死んでもらっちゃ困ることがあるからな。それと、もう一つあるって言うなら……」


フリスクからでは見えないが、サンズの左目が藍色に染まり始めた。


「久しぶりにお前と遊びたくなった。それだけだ」


ニヤリと口角が上がる。
その返答と態度にアンダインと呼ばれたモンスターはプルプルと震え始めた。


「そんなことのために…?お前は分かっているのか?あと一つ。あと一つのソウルで私たちは人間に裁きを与えることができるんだぞ!!!」


「あー?知らねぇな。俺は俺のために生きてやる。それだけだ。だからお前がこいつに手を出すのは俺が許さない」


アンダインは槍を作り出す。
殺気が尋常ではない。思わずフリスクが殺気を感知して身震いする。


「サンズ…お前は私を本気で怒らせたようだな……あの世で後悔しろ」


「わー怖い怖い♪フリスク、オアシスまで走れ。アンダインは俺がなんとかしてやるよ」


サンズに声をかけられてハッとする。


「う…うん…分かった!ありがとうサンズ」


二人に背を向けて走り出す。
それを見届けて、サンズはアンダインに向かってこう言った。


「さってっと!じゃあ、遊ぼうぜアンダイン」


サンズとアンダインの戦いが、始まる。





Waterfall   信仰の遺跡       end


わーお、さすがSANDTALEサンズくんは戦闘狂だぁ。
更新をもう少し早めにやりたかったのですが、様々な事情により遅れざるを得なかったことをお詫びさせてください。申し訳ありません。


今回は言い伝えについてお話させていただきました。
原作と違う部分も多々あります。紋章の意味、ソウルが持つ意志、ソウルを操る者の意思。これらは私なりの原作への解釈も含まれていたりします。
ウォーターフェルはもう一話書いてから、アンダイン戦になると思われます。


では、またいつの更新になるかわかりませんが、よろしくお願いいたします。

パピルス戦 FIGHT


にやりと口角が上がっていた。


なにかの意思に操られたわけでもなく、尻ポケットに入っている折りたたみナイフを取り出し、刃の部分を出す。
砂嵐が吹き荒れる。それは今から始まるこの戦いを祝福するかのようだ。


ナイフを出して刃を出すまでの判断力の早さにパピルスは驚いている。


「そんなに俺様と稽古がしたかったのか!?これは予想外だったな!」


パピルスは意味を理解しているのだろうか?
いや、していないだろうな。


だからこそ滑稽だった。


さて、稽古を始めよう。



*Determination



「本当は何も武器を持っていないと思っていたからフリスク用の武器を持ってきていたんだが、自分の武器を持っているのならこれは必要ないな!」


フリスクの体に合った骨の武器をひょいと後ろに投げた。
投げ捨ててからパピルスは気づく。


「あ…そんな小さな武器で俺様の攻撃は受けきれないと思うぞ……」


この折りたたみナイフのことを言っているのだろう。
本当におかしいな。


「だいじょ……そんなことないよ。確かに受けきれないと思うけれど、躱せばいいだけの話になるからね」


「そっか!ならちゃんと躱すんだぞッ!」


パピルスがゆっくりと近づいている。
なぜかその額には汗がにじみ出ているようだ。何度も自分の手で拭う姿が見える。
汗はフリスクに近づけば近づくほどに止まることなく流れていく。
その異変にフリスクが気づいていることを察してパピルスが苦笑いで答える。


「……あれ、おかしいね…まだ汗をかく時間じゃないはずなのに汗が止まらないんだ。どうしてだろうね…」


「熱でもあるのかもしれないよ?風邪かもね」


「なっ…!?風邪!?やった!!俺様、風邪なんて一度も出したことなんてなかったから風邪になってみたかったんだよね!!」


無邪気に喜んでいる骨のモンスター。両手で頬骨を挟んで目をキラキラと光らせている。
なんと一片の屈託もない光だろうか。このモンスターに誰かが救われてきているのだろう。


あ、そうだ。思いついた。
ちょっと簡単すぎるかもしれないけれど、致し方ない。


「パピルス、少ししゃがんで」


「? ……あぁ!そうか、お熱が出たときはおでこを触って風邪をひいていないか確認するんだったな!」


「ん? よく知ってるね」


「あぁ!一度キャラが風邪をひいてしまったことがあってな!その時におでこに当てて熱があるか診るんだって兄ちゃんが言っていたんだ!……あっ!今の兄ちゃんって呼んだのは兄ちゃんには内緒にしてよね!」


「え?どうして?」


「だって恥ずかしいじゃないか…今更兄ちゃんって呼ぶのもさ…」


そんなこと言われてもフリスクには理解できない。
なぜならそこまで成長していないからだ。


「うーん…僕にはちょっとわからないけれど…言わないでおくよ」


「それなら助かるぞ!」


パピルスがフリスクの前にしゃがんだ。
それでも目線がフリスクよりも少し高い。それに気づいてパピルスは背中を丸めて正座をしてくれた。フリスクの身長では届かないので助かった。


右手を背後に回して汗まみれのパピルスの後頭部に左手を回す。
そしておでこをくっつけあう。
骨だからかコツンと当たる音がする。
ゴーグルを目につけているため、おでこをつけあうのはやりにくかったが仕方ない。


「フリスク、どうだ?熱はあるか?」


「んー……骨だからかな、ちょっとわかりにくい……目閉じて感じれば分かるかな?」


「そっか!目を閉じればいいのか!わかった!」


純粋な子供のようにぎゅっと目を閉じたのを確認した。
その表情はなんの疑いも持っていない。


…………………………。


にやりと口角が上がる。


次の瞬間、フリスクはパピルスの首の頸椎を思い切り掴んだ。


「!?」


想定外の出来事にパピルスが驚いて目を見開いた。
その怯みをフリスクは見逃さない。
右手に持っていた折りたたみナイフを彼の首元へ突き刺した。


ザシュッ


骨にも関わらず、肉を切ったような効果音。
一突き、たった一突き。しかも子供に、パピルスの首は簡単に胴と別れてしまった。


胴は力なくうつ伏せに倒れる。
頭を失なった体はサラサラと塵へと変わっていく。


フリスクはパピルスの顔を見ない。
その逆にパピルスは首だけになったにも関わらず、絶句しながらもフリスクを見つめていた。


「へぇ。骨って首を切り落としても頭はまだ消えないんだね!勉強になったよ!」


新しいものを発見した喜びからなのか、なぜだか嬉しそうに笑っていた。


「……フリスク…?……いや、貴様は本当にフリスクなのか…!?」


彼にしては珍しい警戒心をあらわにした表情。
パピルスの問いにフリスクは答える。


「僕はフリスクだよ。それだけは変わらない。一体何を言っているの?…あ、そっか、そうやって時間でも稼いでサンズに助けてもらうつもりなんだろう?」


「…いや、そのつもりはない。兄ちゃんは忙しいやつだからな。手を借りるまでもないッ!フリスク!目を覚ますんだ!お前は本当にこんなことがしたかったのか?」


フリスクがパピルスの頭を前に掲げるように持ち上げて、パピルスの目をしっかりと見て言った。


「君は覚えていないかもしれないけれど、僕たちがこうして”稽古”をするのは初めてじゃないんだよ」


「初めてじゃない……?何を言っているんだ…?」


意味の分かっていないパピルスの問いに対して目の前の子供はほんのわずかに微笑んでいた。
それはなにやら楽しんでいるようにも見える。


「じゃあ教えてあげようか。僕はね、戻る力を持っているんだよ。その力で前の時間に戻ることができる。だからパピルスと一緒に仲良く稽古したことも覚えてるよ」


「だから、もし、この稽古でパピルスを倒しちゃったらどうなるかなって思ってさ」


パピルスのとっては何もかも初めての経験に関わらず、そう答える目の前の子供。


「フリスク……いや、貴様はなんだ?楽しいからって理由でこんなことを…?まさか、ほかのみんなにまで同じことをしようなんて思っていないだろうなッ!!」


パピルスが声を荒げる。
だが、この砂嵐の中で耳に届くのは人間ただ一人だった。
人間が薄目になっていたゴーグルを外し、目を開く。吊り上がった目つき、浅緑色の瞳。それはとても綺麗でありながら今のこの状況では歪でしか捉えられない。


「んー……どうだろう…この力、やろうと思ってすぐにできることじゃないんだ。あ、フラウィーはこの力のことを”リセット”って言っていたよ。まぁ、そんなことどうだっていいけれどね」


パピルスが人間をにらみつける。だが、首だけになった今の姿ではなんの意味も持たない。


「必ずしも見ているものだけが一つの道だけだとは思わないことだよ。もしかしたら僕はもうすでに何度も繰り返しているかもしれないからね」


人間がパピルスの骨を砂の上に落として右足で踏みつけた。力強く、何度も何度も。
彼の骨が砕けるまで。


砂嵐のせいで踏みつける音はかき消されていく。


体が無くなってしまったしまったせいか頭蓋骨は呆気なく踏みつけるたびに割れていった。
彼のつけていた橙色のバンダナは取れ、右側頭部はほぼなくなってしまった。


「アンダイン……アルフィス……キャラ…………兄ちゃん……っ……」


遺言だろうか。そんなことお構いなしに止めと言わんばかりに人間は思い切り力を入れて骨のモンスターに向かって足を振り下ろした。





砂嵐が治まった後のその場所に藍色のパーカーを着た人影がいた。
その手には橙色のバンダナが握られていた。


「…………………………」


何を考えているのか、それは安易に理解したと言っていい物ではないだろう。


藍色の人影は人間がその先に行ったであろう洞窟を見ていた。


どんな表情をしているのか、フードを深くかぶっているためよく見えない。


ただ、いつも笑っていたはずの顔ではなかったことは確かだった。




パピルス戦  FIGHT      end


いつから時間軸が同じだと錯覚していた?
私たちが見ているこの時間軸や、これから始まる時間軸が同じとは限りません。
何度も繰り返されたかもしれないし、本当に初めてかもしれない。
そう考察していただいて構いません。
次からはウォーターフェルになります。