涙は愛に変わる
【お前さんは今までしてきたこと全部が正しかったのだと】
【嘘偽りなく話す事ができるか?】
その問いに、僕は………。
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まるでトリエルと一緒に暮らしていた時と同じ家だ。
リビングがあって、キッチンがあって、子ども部屋もある。
リビングにはソファが置いていて、そこでトリエルが本を読んでくれたのを思い出す。
遠いようで近い過去。
本当は遠い遠い過去の話なのかもしれない。
それが分かるのはResetの力を持つ人間…フリスクだけだ。
本棚にある本を手に取る。
【砂漠に緑を与えるために】【砂漠化を止める手段】【だれでもできるお菓子作り】
砂漠に関する本が大半、わずかにお菓子作りのための本。
お菓子作りの本には色とりどりの付箋が所せましと貼られている。
使い古しているのだろうか。
中を開くとところどころ汚れている。まるで生地を落としてしまったかのようだ。読める所と読めないところがあり、その汚れを取ろうとしたのか、ページがくしゃくしゃになっている。
特に目を引いたのが”バタースコッチシナモンパイ”だ。
これはトリエルがフリスクに作ってくれたもの。
思い出の深いお菓子だ。
このページだけたくさんの付箋が貼られている。
付箋には”焼きすぎ注意” ”前はここで失敗した”など書かれている。勉強熱心なのだろうか。
しばらく本に目を通して、キャラを見る。
キャラはテーブルを見つめていた。
トリエルと一緒にいた場所にはテーブルに椅子が3つあった。
ここには椅子が4つある。子供用の椅子が二つ。
椅子の一つに腰かけてキャラは深くため息をついていた。
ここはキャラにとっての本当の家。なにか思うことがあるのだろう。
声をかけず、そっとしておくことにした。
キッチンへ向かう。
ここも、トリエルと暮らしていた家と変わらない。
違う所があるとすれば、とても汚いことか。なにかがこぼれている。おそらくさっき見たお菓子の生地かなにかだろう。白い粉…小麦粉だろうか、それすらも床にばらまかれて放置されている。
トリエルくらいの大きさでなければシンクの上になにがあるかが分からない。椅子を引っ張ってきてもいいが…どのみち役に立つものはないだろう。
ナイフなら、このポケットに入っている。
このキッチンに必要になるものはない。
リビングに戻ると、キャラが立ちながらうつ向いたままフリスクを待っていた。
「………………………」
キャラはなにも話さない。
「……キャラ?」
フリスクの声にも反応しない。
ただ自分の手を自分で握っていた。
そして振り絞るように、声を出した。
「…っ……あのね……自分の部屋に行きたいの…私一人じゃ…入れなくて…それで…」
キャラがまたうつ向いた。
それもそうだ。ここはキャラの家ではあれど、苦い思い出も多い。
アズリエルが一緒にいたあの部屋に一人で入るのはとてもツライだろう。
「いいよ。行こう」
キャラの手を繋いで先を歩く。
さっきまで手を繋ぐことに抵抗があったのはフリスクのはずだ。
だが、今自分から繋いだ。そのほうがいいと思ったから。
子供部屋。
元はキャラとアズリエルの部屋。
真ん中に大きな窓がある他、部屋の両端にベッドが二つ、鏡合わせのように置かれている。窓の外は夕焼けで満ちている。
ここは地下のはずだ。日の光が届くようになっているのだろうか。
机に、プレゼントの箱が二つある。
キャラの机に一つ、アズリエルの机に一つ。
白い箱に赤い紐。かわいらしくリボン結びをして置かれている。
キャラの机にあるプレゼントは開けられているようだが、アズリエルの机のプレゼントは開けられていない。
「…それね…誕生日プレゼントだったの。私が赤ちゃんの時に、この砂漠に来て…その日にアズリエルが生まれたんだって。私の本当の両親は死んじゃったんだって。だから私の誕生日が分からなくて……生まれてきたアズリエルと同じ誕生日になったの。2月8日。それが私とアズリエルの誕生日」
キャラがマントの中からあるものを取り出した。
変な形のペンダント。雫の形にも似ている。
金色のペンダントは夕焼けに照らされて輝いていた。
「これは、私がここで暮らした最後の誕生日にくれたものなの。パパったら”誕生日にはサンタという摩訶不思議な赤いモンスターがプレゼントを届けて来てくれるのだ!!”って言っててね。パパの部屋に赤い服あるの分かってるのに。アズリエルはそれを信じちゃって…ママは少し呆れながらパイを焼いてくれるの」
楽しそうに話していたのに、途端に暗い表情へ変わる。
楽しかった思い出を前に今の現状はもう戻ることのできない過去なのだと告げているような気がした。
それでもキャラは話す。
「…もし…金色の花を見つけたらお願いをするんだ……」
「私の家族ともう一度幸せな時間を過ごしたいって。アズリエルもパパもママも…私も…みんな帰ってきて美味しいごはんを食べるの。そうしたら、サンズもパピルスもマフェットも砂漠にいるみんな、ここに呼んでパーティするんだ」
声が震えている。
「………」
どう声をかけるべきなのか分からない。
フリスクにはその楽しかった時もなにも、この砂漠には来ていない時なのだから。
「…あのプレゼントの中…開けてみよう」
出た言葉はそんなことだけだった。
「……そうだね」
アズリエルの机の上のプレゼント、箱自体は小さく、手のひらサイズといっていい。
長時間放置されていたせいか、リボンも箱もほこりをかぶっているようで、フリスクは少し手で掃ってからゆっくりと箱を開けた。
中にあったのはクッションの上に置かれた、キャラの持つペンダントと全く一緒の物。
金色で、夕日に照らされ、輝いている。
雫のペンダントだった。
「…私と同じ。もし…同じなら…。フリスク…そのロケット、中を開くことはできる?」
言われてみるとこのペンダント…もといロケットには側面に横線…溝がある。
そこに爪をひっかけ、力を加える。
力を加えられたロケットはあっさりと中を見せてくれた。
中を開くと、雫の形だったものはハートの形になった。小さいが、写真を入れることができるようだ。
そして、文字が刻まれていた。
【あなたに砂の加護があらんことを】
「…やっぱり私のと同じだ」
キャラも自分の持つロケットを開く。
同じ言葉が刻まれていた。キャラのものにも写真を入れるためのスペースがある。ただ、写真を入れていないようだ。
「…二つで一つのものだったのかもね」
フリスクの言葉にきょとんとした表情を見せる。
「ほら、これ」
アズリエルとキャラのロケットを閉じ、くっつける。
雫の形だったロケットは少しだけ歪なものの、開いた時と同じようにハートの形に変わる。
そして中を開いて二つをくっつけると、四枚の花びらのようにも見える。
「……フリスクってロマンチストなの?」
「え…いや…そんなことはないとは思うけど…」
少し怪訝そうな顔をして質問する彼女。
思ったことをやっているだけなのに…そんなに変だっただろうか。
「でも…そうだね。アズリエルと私は二人で一人だったのかもね」
窓に向かって歩いて、そう言った。
「本当に…どこに行ったんだろうね」
その答えをフリスクが知っているのだろうか。
少なくとも答えを知っていても教えることはないだろう。
彼女がフリスクに振り返る。
夕日のせいか、顔が見えずらい。
「そのロケットは君が持っていて。私はもう持ってるからね…もし、アズリエルに会ったら言って欲しいんだ。”このバカ弟。早く帰ってこい”……ってね。頼んでいい?」
「…わかった」
*片割れのロケットペンダントを手に入れた。
*装備する?
→はい
一度、ゴーグルとフードを取り、首に下げた。
あと思い残すことはないだろう。
向かうべきは、この城の地下。
長い階段のように思える。
あの出来事があったからと言って足取りが軽くなったわけでもない。
いくら信頼を得たところで心が軽くなるわけでもない。
進んでいくごとに空気が徐々に重くなり、息苦しいようにも感じる。
長いと錯覚するような階段を降り、その先に、光が差し込む回廊に出た。
ステンドガラスが夕日に照らされ、回廊をオレンジ色に染める。
二人の人間の足音だけが回廊に響き渡る。
ここにいるのは二人だけ。二人の人間だけ。
そのはずだった。
コツコツ……コツコツ……
足音が聞こえる。
真向かいから。誰かがこちらに歩いてくる。
回廊にある柱が影を落とし、それが一体誰なのかを隠している。
それも束の間、歩いてきたそれは黒い足を見せた。
「………………………よう」
サンズだった。
片手をあげ、挨拶でもするかのように飄々とした態度で目の前に立っていた。
「…サンズ? どうしてこんな所に?」
キャラが少し驚いて彼を見る。
「実際、お前さんがどう言おうが、俺には関係ないんだ」
「…どういう意味?」
キャラの問いにサンズは小さくため息をついて頭を掻いた。
「でも仕方ねぇじゃん、そうやって話せって言われてんだから」
「話せ…って誰が…」
サンズはその質問を無視し、話し続ける。
まるで自分に言い聞かせるような言い方なのが気になったがフリスクもそれを聞かなかった。
「これからお前は王に会う。この世界の行く末はお前次第だってことさ。…お前さんは今までしてきたこと全部が正しかったのだと…嘘偽りなく話す事ができるか?」
「………………………」
「いつから心を失った?」
「………………………」
「いつから自分自身を遠ざけた? 」
「………………………」
「いつから自分が傷つかなくなったか、覚えているか?」
「………………………」
「……フリスク…? サンズ……?」
キャラが心配そうに顔を覗かせている。
それでもサンズは続けて話す。
「……答えられねぇならそれでもいいさ。その沈黙が答えだ。この薄汚い兄弟殺しが」
一瞬だけ、サンズの目が真っ黒になった気がした。
二人の顔を何度も何度も見合わせておどおどとするキャラは蚊帳の外にいるかのようだ。
それでも動じないフリスクにサンズが首を横に振ってため息をついた。
「…”カマかけた”ってんのに、お前、何にも喋らないんだな…。俺の言おうとしている事からは何も学べそうにないってか?え? …お前さんの瞳には何が映っている?」
それでもフリスクは答えない。
「…ま、さっき言った通り…どう答えようが重要なことじゃないんだ。大事なのはお前さんが自分の心に正直か否かだ。自分の心に正直で生きる限り、正しいことができる。お前さんが持つものが愛かLOVEか…それも含めてな」
フリスクは何も言わずにサンズを横切っていく。
一瞬だけ、目が合った。
影のなか、藍色の瞳が静かにフリスクを見つめて光っていた。
いくら仲良く接していたとしても彼はモンスターだ。
その瞳は真意を問う瞳。心から信頼していたわけではなかったのだろう。
今まで、勝手に仲が良いと思っていたのはきっと自分だけ。
死んでしまえば全て忘れられてしまうのだから。
ろくな会話もできていないにも関わらず、フリスクが奥に行ってしまい唖然としていたキャラは慌ててついていこうとすると、それをサンズが止めた。
「キャラ、お前はダメだ。この先には行ってはならない」
「………どうして?」
純粋に分からないという顔をしてサンズを見上げていた。
サンズはフードを深くかぶり、マフラーで口元を隠す。
「なんでも。ここでは俺が絶対だ。いくら王族のお前でも通すことはできない」
「だめ。フリスクが危ない目に遭うかもしれないんだよ。いいから通して」
「ダメだ」
「………………………」
走ってサンズを通り抜ける。
止めるかと思いきや、あっさりと通した…かと思われた。
「ガアアアァァァァァァァァァァ………………………」
なにかが唸る声。
影で見えなかったのか、いつからいたのか…。
そこにコアの入り口に似た竜の姿の骨が大きな体でキャラの前に立ちはだかっていた。
「どけて」
竜はそれでも退くことがない。
「どけてって言ってるの…!!」
「無理だぜ。そいつ、俺の言う事しか聞かねぇから」
背後から声がする。サンズだ。
「なら早くどけてって命令して」
キャラは少し苛立っているように見えた。
そのせいか、サンズは威圧を感じていた。
跪いてキャラに進言する。
「…申したはずですキャラ王女。ここでは私が絶対。誰であろうと」
「………………………そう」
キャラは竜の先にある扉を、ただ、見つめていた。
「…信じるしか…ないんだね」
フリスクは向かう。
最後の戦いへと。
涙は愛に変わる end
お待ちかねの審判でした。サンズの審判を待っていた方はかなりいたのではないでしょうか。
しかし、どのルートを辿ったのかが分からなくなってしまうのがこの小説の長所であり短所でもあります。
ですがどのルートへ行こうとも矛盾が起きぬよう書かせて頂きました。皆さまの解釈でお楽しみください。
そしてようやく片割れのロケットペンダントが出てきました。
念願のロケットです。作者は最初ロケットのことを宇宙に行く方のロケットと勘違いをしていました。ロケットの着ぐるみを装備したのかと…。(それはそれで可愛いですね)
本家UNDRETALE、クリスマスの期間にアズゴアの部屋のクローゼットを調べると…?
お分かりですね。そんな小ネタもUNDRETALEには残っていたりします
日本ジョークで【愛】と【藍】をかけていますツクテーン
これだから日本語は面白いです。日本人でよかったなって思います。