戦う理由
……。
今度は階段を上がっていく。
キャラがついてこない。当たり前だろう、サンズが止めたのだから。
長い…長い階段。
長かったようで短いこの冒険が終わる。
何を成し遂げようとしているのかさえ分からなくなるほどに長い道。
終わりが全く見えない道。
トリエルと出会って数日は二人で暮らし、帰ってきてと約束をした。
キャラに出会ってパピルスとサンズと出会って、花を探す約束をして。
アンダインに追われ、流砂に飲み込まれ老父とキッドに出会い遺跡のことを教えてもらった。
砂が鳴くオアシスでメタトンに出会った。
アルフィスの研究所で傘をもらってコアに向かった。
思えばいろんなことがあった。
その全てが大切なことだったのか、それは分からない。
そろそろ階段を上がり終える。
近くに大きな扉が見えた。
あそこが玉座だろう。
フリスクの身長の倍以上ある大きな扉。
手をかける。大きいが重くはない。
重々しい音と共に扉が開いていく。
誰かがいる。
夕日に照らされた玉座の前。
誰かが背中を向けている。
扉が開いた音で気づいたのか、こちらに振り向いた。
「………」
紺色のマントに肩に金色の装甲。
頭に生えた二本の大きな角。金色の髪と髭が生えていて、とても優しそうな黒色の瞳はじっと人間を映していた。
「…君は…人間だね」
敵意がないように見える。
すぐに戦うというわけではないのかもしれない。
「…何を話したらいいかわからないね。あ…まずは自己紹介でもしておくべきかな…」
目の前のモンスターは大きく息を吸って、吐き出した後、こう言った。
「私の名前はアズゴア・ドリーマー。この砂漠の王。私の娘……キャラが世話になったようだね。ありがとう」
アズゴアは自分が王であるにも関わらず、人間に深々と頭を下げた。
「…君の事はアンダインとサンズから聞いている。何をしにここまで来たのかもね…ついてきなさい」
アズゴアはフリスクに背を向けると奥の部屋に入っていった。
今ならポケットのなかのお守りで背後から刺し殺すことができるだろう。
だが、そうしないのはまだ人間の心が残っているからか、慈悲深いだけなのか。
フリスクも続いて玉座の奥へ進んでいく。
「…奥の部屋につくまでは歩きながら話でもしようじゃないか」
アズゴアはそう言うと、フリスクの歩くスピードに合わせで歩き始めた。
「…私はね、キャラやアズリエル、妻がいなくなった後、あることをしていたんだ」
「……あること?」
「君は植物を育てた事はあるかい?」
「……ないけど…」
「そうか…とても生きがいになるよ。砂漠化の進むこの場所じゃ、たとえ私が雨ごいの魔法で雨を降らせても新たな命が芽吹くことはない。木の苗もたくさんあるわけじゃない。砂漠に植えたとしてもすぐに枯れてしまう。どうすればよいか、私はずっと考えていた」
「…………」
「ある日、ある植物を見つけたんだ。それはキャラの…本当の両親が持っていた遺品なんだ。二人とも砂嵐から赤子を庇うように…覆いかぶさって…亡くなっていた…。私は弔いとしてキャラの肉親とそれを埋めた。そうするとどうだろうか…そこから新しい命が芽吹いたんだ。私はそれを紋章に刻まれた希望を意味するものだと思ったんだ」
話の区切りがついたところで、大きな扉に差し掛かる。
「君も見てみるといい」
アズゴアが扉を開けて見せた場所。部屋だった。家具もない。
夕日が差し込み、一見なにもないように見える。
部屋一面に咲く金色の花を除いて。
「ここは人間たちの墓場なんだ。この砂漠に来た人間を埋葬する場所…。…ここで死んだ人間の遺体を埋め続けてから不思議なことに花が咲くことに気づいたんだ。私はこの花で砂漠化を止めることができないか…考えていたんだ。もしかするとここに来た人間は私たちモンスターにくれたプレゼント…なのかもしれないと。その命を賭けた…私たちへの…と」
アズゴアがフリスクから目を逸らす。
………………。
………………………………………………。
………………………なにそれ。
…まるで僕がモンスターに捧げられるための供物だって言ってるようなものじゃないか。
そんな理由でこの砂漠に来たわけじゃない。
そんなつもり一切なかった。
頼むからここで死ねって?
お願いだから死んで砂漠を救ってくれって?
そう言っているの?
冗談じゃない。
僕の命は僕だけのものだ。
フリスクはポケットからナイフを取り出した。
アズゴアはフリスクの殺気を感じても微動だにしない。目すら合わせない。
「……ソウルはあと一つ。君ので最後だ。7つあれば砂漠から出られる。そうでなくとも君を埋めれば花が芽吹いてくれる。それだけの話だ…」
どこか寂しそうに、でも覚悟を決めたようにアズゴアは右手を振り上げると金色の花を模した赤い槍を魔力で形成する。
「……さよなら」
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「う………」
最後の回廊。
サンズとキャラが、ただフリスクが行ってしまった先を見ていた時だった。
突然キャラが苦しみ始める。
それを見てサンズが駆け寄り、背中をさすった。
「大丈夫か?」
胸を押さえて苦しんでいるようだった。
「…フリスクが…フリスクが…苦しんでる……一人で戦って…何度も死んでいる…」
「キャラ…? なにを言っている…?」
「フリスクが…つらいって…悲しいって…死にたくないって…ずっと……感じる…」
「………………………」
冗談を言っているように見えない。
ずっと兄妹として暮らしていたサンズだが、その言葉にどう答えるのが正解か、分からなかった。
「………フリスク…」
彼女はただ、片割れのロケットペンダントを握りしめて祈っていた。
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「あーあ。いいの? 殺さなくて」
話したのはフラウィーだった。
その様子を緑色の瞳が睨んだ。
「どうせ君が殺すんだ。僕がどうこうしようが問題じゃない」
その発言でフラウィーは一瞬笑みが消えたがすぐさまうねうねと体をひねらせ嬉しそうに話し始めた。
「きゃはは!!!よく分かってるじゃん!! ………………………」
「君さぁ…一体何週目なわけ?」
フラウィーが不気味に口を歪ませる。
それを冷たい目で見降ろした。
「……忘れたよ」
人間がポケットから何かを取り出した。
バタースコッチシナモンパイ。
トリエルの遺跡からここまで来るのに様々な騒動があったのが原因だろう。サクサクとした生地もなにもかも潰れてしまって冷たい。
金色の花畑に座り、潰れたバタースコッチシナモンパイのラップを外して素手のままつまんで食べる。
潰れてしまったせいで食感は悪く、なぜだか味がしない。
トリエルと一緒に食べたときはとても美味しかったはずなのに。
いつの時だったか…キャラと一緒になにかを食べた時があったような気がする。
サンズと一緒になにかを食べていて…サンズの分も食べてしまったような気がする。
思い出せない。
思い出せない。
思い出せない。
それはいつの記憶?
それは大切だった思い出?
忘れてしまうほど重要なことじゃなかった?
「……そろそろ君はResetをしないといけないね」
フラウィーが告げる。
Resetの意味。Resetをする方法。
それを二人は知っている。
「……残念だけど、Resetしてしまえば僕はまた君のことを忘れる。もう一度、あのルインズのベッドの上から始まることになる。そして僕は君にハウディ!!って言うんだ…」
人間はなにも答えずにパイの欠片を花畑にこぼしながら、口にパイを運ぶ。
「…ほら、これを忘れちゃResetできないだろう?」
フラウィーが手渡したもの。
折りたたみ式のサバイバルナイフ
これはフリスクがフィリア砂漠に来る前から持っていた物。
フリスクのお守り。
ないと安心できなかった物。
相手を殺すためのもの。
自分を護るためのもの。
「…君はなにかを変えようとしたんだろう? でも”今回も”ダメだった。どうしてか…分かる?」
「……」
沈黙が肯定だと思ったのだろう。フラウィーは話し続ける。
「君は…モンスターを殺しすぎた。殺していなくとも…怖がらせすぎた。このナイフのせいでね」
「…………」
パイがもう残り少ない。
…もう味のしないものなど食べても意味がないのかもしれない。
パイを捨ててフラウィーの持っている自分のナイフを手に取る。
「…”もし”、変えたいと思うなら…このナイフは一度捨てるべきなんだと思う。ナイフそのものが…君の運命を変えていたのかもしれない。”次は”心からモンスターたちに信頼してもらえるように…このナイフを使うのはこれで最後にしてほしい」
夕日はすでに落ち、星空が瞬いている。
両手で逆手にナイフを高く持ち、構える。
狙いは
自分の首の動脈。
躊躇いも戸惑いも今まで出会った者の想いも
全部
無に還す。
*決意
………………………。
………………………………………………。
金色の花畑に赤色が舞う。
月明りに照らされて輝く花が赤い花に変わる。
まるで絵具でも落としたかのように。
その様子を、フラウィーと星空だけが見ていた。
そして、
彼の瞳から小さな雫が伝って落ちていった。
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__________Resetが完了しました__________
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*初めから進める?
→はい
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「~♪」
キッチン用具がたくさん置かれた部屋で誰かが機嫌よくパイを作っているようだ。
白い毛に頭に二本の角……トリエルだ。
そこに、静かに近づいてくる者がいる。
その気配に気が付いたのか振り向き、少し驚いた後、微笑んだ。
「! あら、目が覚めたのね?怪我は痛む?」
「うん…大丈夫だよ。ママ………ただいま!」
これは金色の花を探す人間の物語。
SANDTALE 戦う理由 Nルート end
Nルートが、終わりました。
何を書いたらよいか迷います。
そうですね……。投稿した今日…2月8日。
この日はSANDTALEが産声をあげた日です。
そして、アズリエルとキャラの誕生日でもあります。設定上ですが…。
この日にNルートを終えることは元々決まっていました。
思えば、派生として生まれたにも関わらず、この物語の登場人物たちに…作者は情を持ちすぎたのかもしれません。まだエンディングではありません。完成への第一段階を踏んだだけです。これから先、もっと優しくて残酷な世界が待っています。
そうです…PルートとGルート…これはこの物語の真実を知る…いわば真骨頂となります。
Nルートは原作に沿っただけ。伏線でしかありません。
AUを通じてたくさんの人と出会ったこと、この作品を通して築き上げたもの。
確かにAUは派生です。お金だって一銭ももらっていません。ただの趣味で物語を書いているだけです。それでも愛してくれていることを胸に秘めて、完結させることを改めて決意しなければなりませんね。
『……いい加減、よそよそしい口調はやめようか。』
『この先はPルート。誰もが幸せになるルートだ』
『そう。”誰もが”幸せになる。そういうルールに基づいた世界。幸せで満たされていて…それでいて退屈な世界』
『今までのあとがき全部ぼくだったの分かる人、絶対にいないと思うなぁ…』
『ぼくが誰なのか分かる? でも…すでにこの物語に登場してはいるんだよ。知らなくていいけど』
『暇なら探してみたら?』