sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

あなたはいつでも私の太陽でいてくれる


メタトンが私に言ってきたこと。



自分を肉体へ完全に憑依させることのできる体がほしい。


今のみんなは人間が勝手に仕掛けてきた戦争で疲れている。


もう、生きる希望すら失いそうなほどに。


人間は私たちモンスターの力を恐れた。


戦争なんて人間が自分たちの都合の良いように話しているだけ。


ただの一方的な攻撃だった。


人間の勝利と言って真実は消えた。だけどそのおかげで、もう誰も死ぬ必要がない。


なのに、みんな暗い顔ばかりで家に閉じこもり塞ぎこんでしまうモンスターもいた。


もう戦争は終わったんだ。


だから過去のことばかりではなく、未来へ私たちは進まないといけない。


そのために自分ができること


一歩。


たった一歩だけでいい。


進んでいかなければ、なにも変わらない。


変われることに気づかなければ、なにも変わらない。


だから、私がみんなを元気づけるんだ。



メタトンの姿は実体もないゴーストの姿で、私よりもまっすぐな瞳で訴えていた。
彼の勇気を…否定することができなかった。
だから作るしかなかった。


それがメタトンにとってどれだけ重圧になってしまうかも、それで私がみんなから認められるからという邪な理由で作っていることも心のどこかで分かっていながら…。



私にはなにが正解なのか分からない。
それでも進むしかないの…?



確かにメタトンの体を作ったことで私はみんなから認められるようになった。


「ゴーストを憑依させる体を作った天才科学者アルフィス」


そう呼ばれて嬉しかったのはほんの僅かだけ。
どこか心の中は迷いと本当にこれでよかったのかというプレッシャーがあった。


メタトンは頻繁に私のもとへ訪れるようになった。
それは感謝に溢れていた。


「アルフィスのおかげでみんな元気を取り戻しつつある。みんなアルフィスに感謝してるんだ。だから一緒にみんなの所に行こう。王様もアルフィスに会いたいって言ってるんだ」


みんなが元気づけられているのは私のおかげではなくメタトンのおかげなのに…。
…王様に呼ばれ、私は行くしかなかった。
王様は緊張させないようになのか、物腰の柔らかいままお茶を出してくれた。


王座にも座らず、どこの家にでもあるテーブルと椅子。椅子に腰かけてたわいない会話をした。


「この砂漠で苦しい事はないかい?」


「いいえ、王様が頑張ってくださっているおかげで特に不便なことはございません」


「そうか…それならよかった」


王様は私の答えに心底安心したようで、微笑んだ。
とても優しい目だった。私には眩しすぎるほどに。


出されたティーカップに浮かぶ金色の小さな粒がひらひらと水面を泳いでいる。
水面に私の顔が映った。


あ! しまった目やにがついたままだった…!!
顔も洗わずに来てしまったから…!! 王様の前なのに!!


急いで目頭についた目やにを取る。さすがにバレてしまうと恥ずかしいので目をこすったフリをして取る。



「アルフィス…と言ったね」


「…はい」


「単刀直入に言おう。君を、ぜひ王国研究員として就いてもらいたいんだ」


「王国研究員…?」


それは研究員でも高位とされる地位。
そして王からの勅命。


「無論。無理強いするつもりはないが…」


「あ…いいえ! あの…私では微力かとは思いますが王様のお力になれればと思います…!」


…断れるはずがなかった。


それから私は研究所を任されることになった。
前任者は行方不明になってしまったらしい。
いきなり研究所の管理を任されて困惑したけれど、ここの資料や材料はここの研究員になる前と比べてとても豊富で、これからはより一層研究が捗りそうだと思っていた。
私は研究よりも機械をいじったり洋服を編んだりするほうが得意分野だったから他の研究者と比べてしまうと、本当にこの国に貢献できているのかは分からない。


私にできること。
メタトンは「それを探すといいよ」と言っていた。
……できることよりも承認欲求が勝ってしまっている私に一体なにができるというのだろう。


メタトンの体を作ったのはメタトンのためじゃない。私のためなんだ。
彼の願いを、私の欲で塗りつぶしてしまっただけなんだ。




情けない。




こんな弱い自分が。


メタトンの想いを無下に扱ってしまっただけ。


私は偉くなんかないの。


すごくなんかないの。


それを打ち明ける勇気もない。



ただ日々を過ごしている。


机に大量に積まれた布。
あれは砂漠に住むみんなが昼の暑さや夜の寒さに耐えられるような服の布地。


ただ布を縫い合わせてそれにみんなからもらった魔力を付加させて…そんな日々。



そんな時、研究所に一匹のモンスターが来た。


青いフード付きのマントに身を包んだモンスターだった。


「…こんにちは」


「あの…こんな夜遅くにどちら様でしょうか…?」


「あ、悪い悪い。こんばんは、か。この時間じゃないとさーパピルスが寝ろってうるさいんだ」


深くかぶっていたのだろうフードからは白い肌が見えた。
いえ、あれは肌ではなく骨のようでした。
緑色のマフラーを身に纏い、にやりと白い歯を見せながら友好的な顔で笑っていた。


「俺はサンズって言うんだ。お前さんアルフィスだろ? 王国研究員の」


「…あの、えっと……はい、そうです」


「よかった。アルフィス、単刀直入だが頼みたいことがあるんだよ。これ…直すことできるか…?」


サンズと名乗った彼は懐から茜色の小さな機械の破片を持ってきた。
それは手のひらに収まるほど小さな破片だった。


「…これは?」


「…とある友人だった奴のものなんだ。壊れちまってな……直せるか?」


破片をよく見てみる。
きっとこれは機械の一部なのだろう。
これは…直すには相当な時間が必要になるかもしれない。
それに…なにか不思議な力を感じる。


「直すにもこれが一体どういうものなのかも分からないから難しいと思います…」


「変に敬語を使わなくていい。これ、設計図なんだけど…」


彼はマントの中から筒状に巻かれた設計図を取り出した。


「これは…?」


「とりあえず直してもらえるとありがたいんだ」


机の上が乱雑に散らかっている。それを適当なところへ除けた後、設計図を置き、広げる。
四角い形状をしている。とても奇妙な機械。


「…あの、こういうのもあれなんだけど……これが一体なんなのか…その…分からないのなら直すのは、無理…だと思うわ」


「…」


彼は黙ってしまった。…私の力不足なのかもしれない。だけどこの機械が一体なんなのか分からなければ直したところで機能しない。


「…お前さん、この研究所で一体なにが行われてきたか知ってるか?」


「…え?」


「ここは研究施設であると同時に、保護施設でもある。ついてきてくれ」


そう言うと彼はバスルームと書かれた部屋へ入っていく。
そこは私も使ったことがある。お風呂に入ってすっきりしたい時もあったから。


サンズは壁にあった小さな穴を見つけるとそこに銀色の鍵を差し込んだ。


一体なにをしているのか分からなかった。


彼が手首をひねる。
鍵も彼と一緒に同じ動作をする。


するとどうだろうか。


ガチャリ


そんな音をバスルームに響かせて扉が開いていった。
開けた後、にししと笑いながら自慢げな顔をして私を見ている。


「じゃじゃーん。なんと隠し扉があったのだー!」


「え…気が付かなかった…どうしてこんなところに…?」


「イケてるだろ?」


「え…えぇ………」


困惑を隠しきれない。


「こういう所にお宝が眠ってることもあるかもしれないんだから少しはワクワクするだろ?」


「………それもそうね!!」


少しワクワクしながら中へ入っていくとそこはエレベーターの入り口だった。


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それからは驚いたことばかりだった。
いなくなったと思っていた住民がまさかあのような姿でこんな暗い地下にいたなんて。
サンズは彼らに恐怖したり差別したりすることなくたわいない会話をしている。だけど白い異形とサンズの会話は全くと言っていいほど成り立ってはいなかった。


「あの…サンズ…ここは………」


「ここは研究所さ。お前さんの前任者たちが使っていた真の研究所。だーれも知らない秘密の場所」


「誰も知らないならどうしてサンズは知ってるの…? あの鍵は…?」


「あ、そうだそうだ。ここにな、ポペトチッスプがあるんだ、食うか?」


サンズがポペトチッスプと書かれた袋を渡してきた。


「…」


暗い室内にポリポリと食べる音が響く。
話したくない…ということなのでしょうか…。


「おそらく、お前さんはここの管理も頼むことになる。こいつらの世話もな」


白い異形はゆっくりと私に近づいてくる。



ぺちゃり


ぺちゃり



そんな音を響かせながら。


顔だろう部分はぽっかりと空き、その空洞から白い液体を床に垂らしている。


私は怖かった。


王国研究員という華々しい地位がこんなにも…おどろおどろしいだなんて。


白い異形は腕のような細く、長い触手を私に差し出してくる。


それに逆らえばどうなるのかなんて考えたくない。私は手を差し出した。


するとどうだろうか。白い異形は奇妙な声を発して私の手を上下に激しく振り回した。
驚いて耳を澄ますと奇妙な声のなかにキャッキャと笑う声が聞こえてきた。


「お、喜んでるみたいだな。それもそうか。この場所に新しいモンスターなんて滅多にこないからなおさらだよな」


「こ…これ喜んでるの?」


「そうだよ、よく見れば分かるだろ? 分かんなくても一緒にいれば分かるようになるさ」


目の前の異形はア"ーという声を発し、顔の空洞から出てくる白い液体をぼたぼたと落とし、体を小刻みに震わせている。


…喜んでいる…んだ。これが喜んでいる姿…。


「…アルフィス、お前さんには申し訳ないが…しばらくこいつらを任せることになりそうだ」


「…え?」


予期せぬ発言にサンズの顔を見た。


彼は申し訳ないとも誰かにこの責務をなすりつけようとも思っていないような…いえ、正直な所、私には分かりません。そもそもモンスターと話せないコミュ障なのだから。
他人の心理なんて読めるわけがない…。


「そのまんまの意味。俺も頻繁にここへ来られるわけじゃない。これから俺は”審判者”としての仕事がある。たまにでいいんだ。こいつらの遊び相手になってあげてくれないか」


やることってなに?


私はこの子たちと一緒にいないといけないの?


まだ怖いのに?


この子たちは一体なんなの?


そんなことも言えない。


「…大丈夫だ、こいつらは悪いやつらじゃない。ただの被害者なんだ。…どうしてこんな姿になってしまったのかはこの研究所の記録に記載されてる。それを見てくれ。こいつら…俺は”アマルガム”と呼んでいる」


アマルガムと呼ばれたその異形は私の手をひいて、とある一つの部屋へと…。


……その部屋にあった記録は今まで形作ってきた私の世界に僅かなヒビを加えた。


_______________________



記録を全て見られるほど、私の心は強くなかった。


”誰かを想う心”


それが私たちモンスターが生きていく上で必要不可欠なもの。


どうしてそれが必要なのか考えた事もなかったし、遺跡に書かれた古代文字だって解読しようだなんて思わなかった。


これ以上、見てはならない気がした。


それは、この世界の真実に近づくものだったから。


知ってしまったとして、私はそれからどうするのだろう。


その答えすら持てない。


私は結局のところ、他人の言う事に流されて生きていくしかないのだから。


たとえ利用されていようが、私にはそれしか存在できる理由がないのだから。



現実逃避をするように布を糸で縫い合わせる。
このほうが何も考えずに済むから。



そんな毎日を繰り返していた頃だった。



一匹のモンスターが訪ねてきた。



研究所の扉をガンガンと強く叩く音。


「暑い!!!! 暑すぎる!!!!!!!!! 誰かここにいないのか!!!!!!」


今は白昼。
日差しの強いこの太陽の下ではモンスターですら命の危険にさらされてしまう。


未だにガンガンと研究室に鳴り響く音。


ドアに手をかけようとして、手が止まった。



もし、真の研究所がバレてしまったら?


アマルガムを見られてしまったら?


私は住民をあんな惨たらしい姿にした元凶としてみんなから非難されるかもしれない。


たとえ私ではないと否定したところで誰も信じてなんてくれない。



とても恐ろしかった。真実を知られてしまうことが。
真実を知れば、みんなが私を見る目が変わってしまう。


「鎧が…暑すぎる……」


その言葉を最後に声と扉を叩く音がなくなった。


…帰ったのだろうか…?


そっと扉に手をかけ、開いた。



…誰もいない?



そう思った時、下を見てみるとこの暑さからか倒れているモンスターがいた。
黒の甲冑を身に纏い、茜色の長い髪が日に照らされている。


…干からびているようだ。


こんな白昼で甲冑。しかも太陽の光を吸収する黒色だなんて自殺行為にもほどがある。
早くしなければこのモンスターは体中の水分を失って死んでしまうだろう。


すぐに私はこのモンスターを研究所の中へ運んだ。
入り口の近くに倒れていたのは本当に幸運だった。
こんな重い甲冑を私一人で数メートルまで運ぶのは無理だったから。


扉を閉めて、研究所内の冷房を最大出力にする。
寒い夜には暖房に切り替わる万能システム、これのおかげで毎日過ごしやすい。


さすがにこの甲冑を外さなければソファまでは運ぶことができない。


茜色の長い髪、ヒレのような耳…これだけ見てもこのモンスターが魚人であることは明白だった。


甲冑を外し、冷凍庫から氷を持ってくる。
オアシスの水を凍らせたものだから、きっと良くなる。
その氷で簡易的な枕を作り、ソファの上へ寝かせた。


起きたとき、体の水分やミネラルを取れるように塩と冷たい水も用意する。


あとは起きるのを待つだけ。
少し眠ろうと思った。最近はずっと研究所のアマルガムのこと、世間の目ばかり気にしていて眠れない日が続いていたから。


視界が徐々に黒く染まっていく。
瞼が視界を覆い隠す。


体の力が抜けていった。



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夢を見た。


誰かが、私のことを好きだと言ってくれた。


こんな惨めな私を好きだと、私でなければ嫌なのだと。


ずっと一緒にいようと。


それで…私は…………………。



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ふと、目を覚ます。
視界は研究所の天井を映していた。


なぜかソファに横たわっている。


確か…魚人のモンスターをソファに運んで…それで眠ってしまって…。



…夢にしても、ずいぶん夢物語を見た。



ただの憧れだ。叶うわけがない。
だけど、久々によく眠れた気がする。


あのモンスターは帰ったのだろうか?


ゆっくりと体を起こすと、調理場に誰かいた。
あの魚人のモンスターだった。


彼女は私が起きた事に気が付くと白い歯を見せる笑顔を向けてきた。



「あ! 起きたのか! いやー…ごめんな、暑くて倒れちゃって……あ、これ飯作ったんだけど食べるか?」



そう言ってお皿に乗った真っ黒な物体を渡してきた。
これは……?
よく見ると彼女の茜色の髪がところどころ焦げたように黒くなっている。
そして、調理場が誰かに荒らされたかのように物が散乱していた。


「飯…? ごはんって……これですか?」


「そうだ!! でもやっぱり台所はダメだな!! なにやっても飯が真っ黒になる!!! 台所はアタシのことが嫌いなんだな! でもアタシは台所が好きだ!! なんたって食材と戦える唯一の場所だからな!!!!!!」


「……鍋が穴が開いてる」


「そりゃそうだ!! だってアタシの槍で串刺しにしてやったからな!!」


「………まな板が真っ赤」


「これは憎きトマト野郎をこの手で握りつぶしてやったからだ!! 爽快だったぞ!!!」


「え、えぇ……」


とても自慢げに話してくる。
新しい調理器具を買った方がいいのかもしれない…。
前任の研究者さんが使っていただろう鍋が……顔も知らない前任者さん、ごめんなさい…。


「お世話になったからな! このぐらいの恩返しはしないとな!!」


「い…いえ、お気遣いなく…むしろあなたの方が客人なのに申し訳ないです…」


「きゃくじん? きゃくじんってなんかしないとダメなのか?」


「何もしなくて大丈夫ですから!! …そうだ、体は大丈夫なんですか?」


「え? 体? 大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ。アタシ元々体強いし」


彼女は黒のタンクトップにジーンズの姿だった。
鎧を脱いだおかげだろう、身軽そうに見える。


「それにしてもどうしてあんな鎧で外にいたんですか…?」


「へ? そりゃアタシはロイヤルガードだからな!!!」


「ロイヤルガード…? あの?」


「なんだ? お前知らないのか? 王国親衛隊のことだぞ? そしてこのアタシ、アンダインはその隊員の一人ってわけだ!」


ロイヤルガード。精鋭のモンスターのみが入ることができる部隊。
アンダインはそのロイヤルガードに所属している戦士…?


「ともかくだ!! あんのクソ骨隊長をぶっ飛ばしてやろうと思っていつも挑んでるのにさー、全く勝てないんだよ。いっつも一蹴りで飛ばされんの!!! だからさ、今日こそは!!って思って重い服着てればいける!!!ってようやく気が付いたのに戦う前に倒れちまった…」


あのクソ骨…? 隊長…?
私の知っているなかではサンズしか知らないのだけれど…。


「あの…砂漠でそんな鎧着込んでいたら誰だって倒れてしまうと思うわ…」


アンダインは自慢げな顔からきょとんとした顔で、まるで純粋にわからないと言っているように見えた。


「へ? そうなのか? でもアタシ服って言ったってこれしかないし…」


「服、作ってあげますから…」


「え、ほんとか!? いいのか!? イヤッホー!!」


「少し待っててください」


「あ、アタシお金とか持ってないんだけど……」


アンダインの顔に焦りが見えている。ぼったくられると思っているのだろうか…。


「…大丈夫です。お代はいりませんから。」


「え…いいのか…? 後で怖いモンスターたち連れて家に来るとかない…?」


「………ないです」


「分かった!!!!!」


「とりあえず座って待っててください。本棚に暇をつぶせる物がありますから」


確か、余っていた糸があったはず。黄色と緑の布もある。
…この布の量じゃ陽の光は防げない。どうしたものか…。


…!!
そうだ。前にサンズが持ってきたあの茜色の機械の欠片…あれを使えば…。


________________________


どれくらい経っただろう。


のめりこんでしまうと今が何時なのかも分からなくなってしまう。
曲がってしまった腰をゆっくりと後ろへ伸ばす。


服は出来た。
あとはこれを渡せばいいのだけれど…。


アンダインはなにやら真剣な表情で漫画本を読んでいた。
それは険しい顔をしては花が咲いたように笑ったり、ぐすぐすと泣き始めたり多種多様だった。


「あの…アンダイン?」


「あ…あんた、これ…すごいんだな……」


「すごいって…漫画が? それはフィクショ…」


「まさかみゅうみゅうがあんな…あんなことになるなんて……だって無実の罪で城の地下牢に閉じ込められてるのに諦めていないなんて……アタシ…アタシ…」


あれ、そんなシーンあったっけ。


……待って、アンダインが持っているそれは私がキスキスキューティみゅうみゅう2が気に入らなくて勝手に描いた本では。


「こんなことが現実で起きてるなんて可哀そうにもほどがあるぞ!!! ロイヤルガードであるアタシが助けに行かなきゃならないな!!!!」


現実と漫画は違うのよ!?
そう言いたかったけれどアンダインの熱意が伝わっていて言う機会を失ってしまった気がする。
話を逸らさなきゃ。


「あの…これ、服できたの」


「服?」


布が少ないため、胸を隠すことしかできなかった服に緑色の短パン。
こんなものしかできなかった。


だけどアンダインはその服を見て、目を輝かせた。


「これ…作ったのか? すごいな…!!!さっそく着てみる!!」


アンダインはその場で服を脱ぎ始めたため、私はとっさに目を手で覆った。


「ほら、目開けていいぞ」


先ほどの黒いタンクトップにジーンズの姿と違い、さらに軽装になったようだ。
布が少なかったため、首元や腹部、足、様々な所が露出している。とても砂漠で生きられるような服装ではない。


「これいいな。動きやすい。あのズボン、すっごい暑かったんだよね」


「それならよかった…あと、これも」


「なんだそれ」


茜色のペンダント。雫に穴が開いたのような形をしている。


「服だけじゃ昼の暑さに耐えられないと思ったの。だからこれに魔力を付加してあげればあんな鎧なんか着なくても、このペンダントがあなたを護る鎧になってくれる」


「…つまりどういうこと?」


「これを付ければ暑くないってことです」


「え!!? ほんとか!? スゲーんだな!! ありがとな!!!」


彼女は濁りのない無垢な笑顔で私に話してくれる。
それからというもの、アンダインは毎日のように私のもとを訪れるようになった。



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彼女は私に敬語を使うなと言った。


私は致し方なく、敬語を使わないようになった。


アンダインはそのことにとても喜んでいた。


アンダインは私のことを友達だと言ってくれた。


アンダインは私の事を好きだと言ってくれた。


それがどういう意味の「好き」なのかは分からない。


ずっと私のそばにいてくれた。



彼女はいつでも、私の太陽でいてくれた。



ある日のこと、早朝に散歩をしていた。
朝ならば夜のように寒さで凍えることもなく昼の暑さで倒れる心配もない。


最近はみゅうみゅうが彼女の中では流行りになっているようで、ここ最近ずっと話している。
けど私の描いた妄想漫画のことも話題に出るので「あはは…」と笑う事しかできない。


「なぁ、アルフィーはさ、こーんな砂漠にいて楽しいか?」


アンダインが話題を変えてきた。
いつもなら私が変えることが多いのに。


「…どうしたの?」


「ん、いやー…だってさ、こんなに面白い漫画がいっぱいあるんならさ、人間たちのいる場所はもっと面白い漫画がいっぱいあるんだろ? 人間ばっかりずるいと思わない?」


「確かにね…でも私たちモンスターは人間から追われてこの砂漠にたどり着いたんだから私は別に不満ってわけじゃないの」


広大な地平線を見る。建物なんてものはなく、ただあるのは砂と日が昇ってきそうな太陽、そして雲だけ。
それを私とアンダインは見ている。


「そうか? アタシはこんな砂漠に居続けるなんて嫌だな」


「どうして?」


アンダインの顔を見ても、彼女はただ広大な砂漠の地平線を見ていた。


「確かにこの砂漠は広い。だけどな…暑いんだよ…それに夜は寒い。めちゃくちゃ寒い。どんな服を着たらいいかわからん!!! …って言ってもアタシは夜は家の中にいるけどな! 寒いところは好きだけど、夜は寝ないといけないからな!!!」


正直なところ、私にとってこの砂漠から出たいかと言われると、分からない。


「アンダインは日差しの暑さ苦手だもんね。でもアンダインも太陽みたいに明るくて素敵だと思うわ」


「たいよう?」


地平線を見ていたアンダインが首をかしげてこちらを見てきた。


「そう、太陽。アンダインはいつも明るいでしょ? みんなアンダインのその明るさに救われていると思うの」


本当に救われているのは私だけどね。


「太陽って熱いじゃん。アタシはそんな熱い奴じゃないぞ?」


「アンダインだって熱いじゃない。こう…志が」


「アタシが熱すぎたらみんな溶けちゃうだろ!?」


「溶けないよ!! 例えよ例え!! 比喩!!」


「ひゆ? なんだそれ」


「あ~えっと…なんて言えばいいか…」


「それじゃあさ、アタシが太陽ならアルフィスは雲だな!」


「え? 雲?」


雲。…陰気臭いってことだろうか…私だから当然なんだろうな…。
そう考えて下を向いてしまった私に気づいたのかアンダインが私の両脇を掴んだ。


「へ?」


驚く間もなく、足が浮いていく。
これは抱えられているみたいで浮かび上がった先にアンダインが私の目を見て微笑んでいた。


「アタシが太陽って言うんならアルフィスが雲。太陽であるアタシがみんなを暑くしすぎるだろ? アルフィスはそんなアタシからみんなを護る"雲"ってことだ!」


…まさかそういう解釈で来るとは思わなかった。
彼女はいつも私を導いているような気がした。


「みんなを護る雲?」


「そうだ。アタシいっつも言われるんだよ。周りが見えてないって。それに雲と太陽だったら同じ空にいるだろ? アイツらも絶対仲良しに決まってる!」


「…そうね、きっと仲良しに決まってる」


「アタシたちもアイツらみたいにさ、仲良しでいよう。今もこれからもさ! だってアタシたち友達だろ?」


今まで世間の目を気にしていた私にとって”友達”という言葉ほど甘美な言葉はなかった。
でも信じていいのでしょうか…いいえ。信じよう。彼女を。アンダインを。


「そう、友達。私たちはずっと友達」


「お前がなにを考えているかなんて、ほとんどアタシにはどうでもいい。アタシが好きなのはお前の情熱、分析的思考だからな!! 対象にお前はそれに心を注ぐ。全力で。…だからもうなにかを抱えなくて悩まなくていい。アタシも一緒に背負ってやる」


「アンダイン…」


「アルフィー、アタシはお前が自分を好きになる手伝いをしたい」


「…私ばかりでずるい」


「そう?」


「だから、アンダインが危なくなった時、今度は私があなたを助けに行く」


「わかったわかった」


「…信じてないでしょ」


「信じてるって。アルフィーの言う事を信じなかったことある?」


「ない…」


「だろ?」


「なら私の言う事も信じてよね」


「だから信じてるってば」


そんなことを繰り返しながら、私たちは朝日照らす砂の上を歩いているのだった。



________________________



あなたはいつでも私の太陽でいてくれる      end


今回はかなり長編でした。それと過去にない暑さが続き、体調も壊してしまいました。
更新を待っていた方々には大変申し訳ないです。これから体調管理はしっかりします。
そんなことより


アルフィスの独白です。
サンズの次に秘密を抱えているキャラクターだと思っています。
公式日本語版では「アルフィー」
非公式日本語版、英語表記では「アルフィス」
と呼ばれていますが、皆さまはどちら派でしょう?
今は公式が主流になっているので「アルフィー」が多いでしょうね。
サンテではそれを利用して名前を「アルフィス」
アンダインだけは名前を呼ぶとき「アルフィー」
と呼びます。愛称のようなものです。かわいらしい愛称だと思っています。


「アンダインが危なくなった時、今度は私があなたを助けに行く」


さて、それはいつなんでしょうね。

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