sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

Hotland 燃える砂漠


あれは、大穴だ。
あの穴の中から火が見える。


赤い砂。コアと呼ばれる建物の近くにある大穴。
消えることを知らない有毒ガスを燃やし続ける炎。
いつまで燃え続けるのか。


あの炎は、このフィリア砂漠が滅ぶ、その時まで燃え続けるのだろうか。


まるで地獄への門のようだった。


燃え上がる炎を見つめていたのは、たった一匹の白い猫。


黄色いひし形のアクセサリーがついた首輪を身に着け、大きなあくびをしていた。



____________________



研究所の中、アルフィスと名乗った恐竜のようなモンスターは人間を見るなり、もじもじと背を丸め、上目遣いでこちらを見ていた。


「あ…………えっと………」


沈黙が続いている。


……………。


「あ!! そうだお茶でも飲む!? といってもお酒しかないんだけど! あ、ごめんなさい未成年だったわね!!」


緊張からか慌てており、挙動が不審だ。


「………あ…えっと…………」


目が泳いでいる。このままでは会話にならない。


こちらから話しかけるしかないだろう。


「初めまして、僕はフリスク。アルフィスよろしくね」


手を差し出して握手を求めてみる。
アルフィスは恐る恐るフリスクの差し出された手をちらちらと見ている。


少し手を揺らして握手を促す。
目を泳がせていたアルフィスが、その反応に気づく。


震える手をフリスクの手に向かって伸ばしていく。


隙ありとでもいうかのように、フリスクはその手を半ば強引に両手でがっちりと掴んだ。


「!!?」


アルフィスはとても驚いていた。


この反応は、なんだろうか。
怯えているような…いや、それともただ緊張しているだけか。


でも彼女の緊張を和らげるにはこれしかない。


彼女に話しかける。


「あの…僕はあるものを探してここまで来たんだ」


「あるもの…?」


アルフィスがようやく顔を上げて、フリスクと顔を合わせる。
それを見逃さずに話し続ける。


「金色の花。この砂漠のどこかに咲くっていう不思議な花…アルフィスは知らない?」


「…ごめんなさい。噂には聞いているのだけど、私には……」


「そっか…」


「あの花は子どもにしか見ることのできない神聖な花…という噂だし、実際本当にあるのかもわからない…」


「なら、フラウィーは? あのモンスターは一体なんなの?」



フラウィー。



フリスクがルインズで目覚めたすぐに出会ったあの金色の花のモンスター。
もし、あのモンスターがみんなの言う金色の花なら…。


捕まえることもできたかもしれない。
…もし、時間を巻き戻せる事のできる力があれば話は違ったかもしれない。


何かを知っていると踏んで話をしてみたが帰ってきた言葉はフリスクが望んでいたものではなかった。


アルフィスはきょとんとした表情でこちらを見つめていた。


「フラウィー…? なんのこと…?」


…。


「金色の花のことだよ! 金色の花ってモンスターのことじゃないの!?」


少し声を荒げてしまった。
そのせいかアルフィスはヒッという声を上げ、後ずさってしまった。


「わ…私は金色の花なんて見たことない…! これは本当よ…! モンスターだなんてことも何にも知らないの…!!」


彼女の様子を分析する。


…………。


嘘は…ついていない。


考え事をしていると今度は彼女が勇気を振り絞ってか、声を出す。


「…でも、一つあてがある」



深呼吸をして、フリスクに向かって告げる。




「アズゴア王の玉座」




「あそこの奥は誰も行ったことがない、誰も行かせようとしないの」



「もしかすればあそこになにか秘密があるのかもしれない」



「行くならあの玉座だと思うわ」



互いに掴んでいた手を離す。
アルフィスはそう言うとはぁとため息をついた。安堵したようだ。


「そこにはどうやって行けばいい?」


「…そうね、まずはコアへ向かわなければならないの、あそこは私たちにとっても有毒なガスが出ていて、あの場所を抜けるには…誰かの力を借りないといけないと思うの…」


そういうとアルフィスは二階へ上がっていき、何かを持ってきた。
あれは…なにかの機材のようだ。


「これはね、通信機と言って、色んな人の声が聴けるの。ボイスレコーダーにもなる優れもの。きっとあなたの力になってくれるはずよ」


通信機を受け取る。


「アルフィスは? どうするの?」


「…私はここにいる。やるべきことがあるから」


そう言うとアルフィスは背中を向けた。
その背中は少し小さく見える。


「あ…そうだ。これも持って行って」


アルフィスが振り向いてフリスクに渡す。


それは水色の傘だった。


白い水玉模様が入った可愛らしい傘。フリスクの腰以上の高さがある。


「これはね、日傘なの。日中の砂漠の中でも使えて、太陽の光と熱を遮るだけじゃなく、使う人が暑くならないように、特別な魔法を施してあるの!」


自慢げに話をする彼女。胸を張って話している。


ただの変哲もない傘だが、人間には理解できない力が込められているのだろう。


ボイスレコーダーをお守りの入っていないほうのポケットに入れる。


「あ、えっとね。この先にね。竜の骨があるの。その口から、地下に入れるの。そこは商店街にもなっているし、食べ物もいっぱいあるの。それに……」


アルフィスが少し口をつむいでいた。
その様子をフリスクが見逃すはずがなかった。


「…それでね! 城の前でショーをするの…ぜひ、見て欲しいのだけど…」


「…うん。わかった」


アルフィスに背を向ける。
フリスクからは見えないが、アルフィスは何か思いつめた顔をしていた。




_____________________________________________




研究所を出て、赤い砂漠に出る。
太陽は容赦なく照りつけていて、今は昼なのだろう。フリスクの頭上にあった。


水色の水玉模様の傘を差す。日差しが遮られただけで涼しく感じる。
傘からほんの少し冷気を感じる。どういう仕組みなのだろうか。


アルフィスから渡された通信機を手に取る。ダイヤル式のようで回した後、アンテナを伸ばせばフィリア砂漠にいる誰かに繋がるものらしい。


便利だが、デメリットとして、誰にかかるかが分からないという点だろうと、アルフィスは話していた。


適当にダイヤルを回し、アンテナを伸ばして耳を傾ける。


ザザザ……というノイズ音から誰かの声が聞こえる。


*「はい、もしもし METAフーズ バーガーマーケットです ご注文どうぞ」


「あ、えっと、注文とかじゃなくて…ホットランドに行くにはどうしたらいいのかなって聞きたくて…」


*「え、客じゃない? 申し訳ございません。 商品を購入されていないお客様との会話は禁じられています」


「だから、道を聞きたくて…」


*「すみません。ハハ…そういうルールなんです」


「じゃあ、お客さんとしてじゃなかったらいいんだね?」


ただ道を聞きたいだけなのに相手の言い方に少しムッとして、つい意地悪な事を言った。


*「えっ? 困ります…お客様に馴れ馴れしくすると叱られるんですよ」


「…困ってるのはこっちなんだけど…それともこの店は困ってるお客様を放っておくのもルールなの?」


*「申し訳ありません。 ………………………」



……だめか…もしこのお店を見つけたら文句を言いに行こう…そう決意した時だった。



*「あのさァ、オレ、役者になりたかったんだよねー。つまりどういうことか分かる?」


「…?」


*「簡単に言やァ、上にバレないように一役入れるのもいいんじゃねって思ったんだよ」


*「聞きたい事があるならいいな。ちびっこ」


…よくわからないけれど、道を聞くことはできそうだ。



前に進んでいくと大穴があり、そこはいつまでも燃え続けている炎がある。
それが見える所の近くに竜の骨があるという。


その竜の骨の口部分から、ホットランドに続く地下が続いているらしい。


*「その近くの大穴には近づくんじゃねぇぞ。落ちたら火傷どころじゃすまねぇ…。それにあそこにはわるーい空気が流れてるらしい。その空気を減らすために燃やし続けているらしいんだが、俺にはさっぱりだ。まぁ…一つ言えるのは”触らぬ神に祟りなし”…ってことだな」


アルフィスからもらった傘のおかげか日の暑さは感じにくいが、太陽から当たって熱のこもった砂から蒸気となっているのか、上からよりも下からの熱気にやられてしまいそうだ。


行くなら早く地下へ向かった方がよいだろう。


水もまだ豊富に残っている。


通信機で彼の声を頼りに砂漠を進んでいる。
進んだ先に、緑の…いや茶色もある草木がぽつぽつと生え、フリスクよりも大きいだろう骨がいくつか転がっている。細長い骨、短い骨、太い骨、歯の部分、様々だった。


そして草木が増えていくと同時に、骨が落ちている量も増えていた。


ウォーターフェルと比べ、歩きやすいものの熱気はどの砂漠よりも暑い。
これは今、真昼なのもあるだろうが、全身に熱気を感じるような暑さはここが初めてだろう。傘を貰っていなければツライ旅だった。


*「おっと…そろそろ切らないといけないな。入口が見えてくるはずだしな。いくらうちの上司が優しいからって甘えてるわけにもいかないからな…」


「そういえば…聞きたかったんだ。メタトンってどんなモンスターなの?」


メタトン。確かアルフィスに呼ばれている…と話していた。あの時に聞いておけばよかったかもしれない。金色の花に囚われすぎた。


*「メタトン? メタトンを知ってるのか?」


彼の声が少し大きくなってフリスクが知っているかもしれないことに興奮しているようだった。


「い…いや…僕はそこまで…さっき会ったくらいで…」


*「お…? さっき会ったのか? てことはウォーターフェルにいたんだな…少しくらい休めばいいのにさ」


「…?」


*「あ、いや…気にしなくていい。おっと、そろそろ切らねーとさぼってるのがバレちまう。じゃあな」


「あ…待って…」


…………。


切れてしまったようだ。


もう一度かけるにも、誰にかかるか分からないこの通信機じゃ、彼に繋がるかもわからない。


仕方ない…諦めよう。


分かったことといえば、メタトンは慕われている、ということだろうか。
でなければ、休めばいいのになんて言葉は出てこない…はずだ。


通信機が切れてしまったことで注意が向かなかったのかもしれない。
ふと、顔を上げるとそこに、大きな竜の頭の骨が広大な砂漠に一つ、なにかを象徴としているかのように熱風と日光のなか、佇んでいた。



ここが、アルフィスと通信機の彼が言っていた竜の骨だろうか。


口を大きく広げ、全てを飲み込むような竜。


その口の中は空洞が続いているようで、看板がある。



【ここまでお疲れ様!中は涼しいよ!ゴートゥーコア!(*´Д`)】



……。


相変わらずの顔文字付きの看板。つっこむ気力も失せている。


ともかく、この中は何かあるようだ。


竜の骨を見上げる。


フリスクの身長を簡単に超し、空洞のはず目が威厳を放つように、こちらを見ているような…そんな感覚に襲われる。
そのせいか、入るのをためらってしまう。



ニャー。



竜の骨を見上げていたせいか足元を見ていなかったようだ。


下を向いてみる。


そこに、白い猫がいた。
ひし形の黄色のアクセサリーのついた首輪。


目が合う。


毛並みの美しく、黄色の瞳がフリスクの心理を見透かすかのように引き込まれる。


モンスターだろうか?


手を伸ばすと、白猫は目を逸らし、ジャンプしたかと思えばフリスクの頭に着けていたゴーグルを華麗に奪ってしまった。


「あっ……!!」


ゴーグルを奪った白猫はまるでクスクスと笑うかのような顔をして竜骨の中へ入っていく。



「……」



竜骨の中を覗いてみる。近づくだけ。下へ降りる階段のようだ。
なんとなく、中に入ると口が閉じて閉じ込められるのではないかと思考が働くからだ。



中は暗い。だが、同時に外とは違いひんやりとした空気が頬を刺激する。


どうやら中は広いようだ。



日差しが照りつける。
怖いだろうがなんだろうが、進まないことにはこの熱気でやられてしまうだろう。


「……暗いのは苦手なんだけどな…」


傘を広げたまま、意を決して竜骨の口へ入っていった。





中が暗い。真っ暗だ。
まだ外の光が届く場所までは進んでいるものの、これ以上は進もうにも暗闇への恐怖が勝っているようだ。立ち止まってしまう。


どうしたものかと悩んでいた時だった。


ニャーという声が奥から聞こえた。


さっきの猫の声だ。


奥、闇の中から白い猫が戻ってきていた。
しばらくフリスクを見つめた後、踵を返し、進もうとする。


また闇に消えていく猫。


「あ…ちょっと!それ返してよ!」


猫を追っていく。


先ほどと違うのは、奥になにか、光るものが動いていることだろうか。
キラキラと光っている。


あれは…猫が付けていたひし形のアクセサリーだ。
あの光のおかげか周辺がほんのり優しい光で溢れていて、階段を踏み外してしまうことはなさそうだ。


このままいても仕方ない…ゴーグルも取り返さないといけない。ついていこう。



キラキラ光るひし形。


それについていく子ども。


真っ暗な中で、その光がただ一つの道しるべとなっていた。



降りていく先、ひし形の光の他に白い光が見える。


出口だろうか…。


近づけば近づくほどに視界が光に覆われて見えなくなる。
こんな時、ゴーグルでもあれば見えただろう。


しばらく目を閉じて光を拒絶する。


ゆっくりと目を開ける。



そこは、小さな都市だった。



下に降りれば都市に行けるようで、見下ろすように街を眺めている。
天井があり、地下であることが分かる。


太陽のある地上にいたときと比べ、地下はとても涼しいようだ。
それに、道の端に水が流れている。


ここには水があるようだ。
透明な色の液体が、中央に向かって流れているようだ。


その流れていく先。
大きな建物が見える。


あれは…表すなら、城だろうか。


城に金色の花の手がかりがある。
アルフィスはそう言っていた。


ならば、目指すならあの城だろう。


後ろから、熱気の籠った風がフリスクを纏う。
風はマントをなびかせ、背中を押しているかのようだ。
もちろん後ろから吹いているせいもあるだろうが…。


左に下へ降りる階段がある。
この先がコアだろう。


階段の側にフリスクのゴーグルが落ちている。


…あの白い猫は一体どこへいったのだろう。
勝手にゴーグル奪っておいてなんなんだ…。


今はそんなことどうだっていいか。


今すべきことは、花を見つけること。
フラウィーを捜すことだ。


この地下では、もう傘は必要ないのかもしれない。
でも一応持って行こう。


傘を折りたたみ、階段を降りていく。
地下なのに、辺りは明るい。電灯のおかげだろう。


なぜ、竜骨の口の階段には明かりがなかったのだろう。


長い長い階段を降りる。
そこは、一つの商店街になっているようだった。


なにやら賑やかだ。


あちこちに露店が出ている。
あれは…何屋だろうか…色々なものが売っている。
………………………ガラクタ?


店主らしきワニと猫のようなモンスターが二人で楽しそうに話し込んでいて、声をかけても返事がない…。


「最近さー、メタトンってつれなくなーい? どうしたんだろうねー」


「あれでしょー? アルフィスと夜な夜な危ないことしてるって、は・な・し」


「なにそれー!! 初めて聞いたんですけどー! アルフィスってアンダインよりメタトンの方が好きってことー!?」


「まっさかー! アンダインに惚れてるの誰が見てもバレバレなのにそんなことするわけないでしょー! たぶん…」


「まさかの三角関係ってやつー? 昼ドラ? 昼ドラ始まっちゃう? 録音しなきゃ!」


「あんたってそういうの好きよねー。ま、私も好きだけどー!」


「でもアルフィスもメタトンも好きよ! こうして快適に過ごせるのあの二人のおかげだしー!」


「どうかーん!」


「「きゃはははははははははははは!!!!!」」


2人の高音の笑い声があまり好きになれずに離れることにした。


噂話をする二人から離れ、城へ続く道を歩いている。


商店街は活気づいているようだ。
食べ物を扱う店に、寝泊まりする場所だろうか、ベッドのマークがついている。


ここにキャラの探す金色の花はあるのだろうか。


…いや、そもそもこんなところにあればキャラは苦労していないし、いくら子どもにしか見ることのできない花だとして、他の子どもが見つけられないわけがない。


アルフィスの言っていたアズゴアの玉座。
そこに向かうべきだろう。寄り道はするべきではない。


………………………。
それにしても…商店街と言うだけある。
広い。広すぎて迷子になりそうだ。


「ねぇ、そこの僕? これ買わない!? 今なら15Gのところ、15Gにまけとくよ!!」


突然話しかけてきたのは青い犬のような二息歩行のモンスターだった。


………………………。


それ、まけたとは言わなくない?


「これはサンドアイスって言うんだ!」


彼が目の前に差し出したのは砂をコーンに乗せてできたアイスクリームだった。


…丁寧にお断りした。


「そんな…意外とここでは売れてるほうなんだよ!?」


…それなら、アイスじゃなくて普通に砂を食べればよいのでは…。
…じゃなくて…いくらモンスターが食事とらなくてもいいと言ってもさすがに砂を食べるのはどうかと思う…。


「あ…そう…?」


彼の顔が沈んでいる。


あ。声に出してしまっていたようだ。
なにかフォローをするべきだろうか。


「…サンドって言うんだから、コーンじゃなくて…挟んでみたら…? サンド…だし?」


砂という意味のサンドと、挟むって意味のサンドをかけてみたらどうかとアドバイスした。


「!!!!!!」


彼の耳が上に上がる。目の輝きも戻ったようだ。


「それ!! いいアイディア!! さっそく作ってみるよ!!」


彼は大きく手を振って走って離れて行った。


かと思えばなにかを思い出し、戻ってきたようだ。


「そうだそうだ。恩人の君にこれあげるよ! お代はいらないからね!」


そう言うとフリスクの手にサンドアイスを一つ握らせた。


「じゃあね!」


今度こそ彼は走ってどこかへ行ってしまった。


サンドアイス、意外と冷たい。
だが少し傾けるだけで砂が落ちてしまった。


さすがに砂を食べる趣味はない。


誰かにあげるべきだろうか…。


………………………?


何か、足にツンツンと何かが当たる感覚がある。


下を向く。


そこに豆粒のように小さな虫がいた。
その虫はフリスクを見上げているようで、目があるのかわからないが、ただフリスクを見つめているのかもよくわからない。


ツンツン。ツンツン。


虫がフリスクの足から離れ、少し距離を取る。


しばらく離れて立ち止まって振り返った。


…?
言葉を発することができない虫が僕に何を伝えようとしているのだろう。


小さな虫はフリスクのほうに戻ってきて、また足をツンツンとつつき始めた。


「…どうしたの?」


その声にびっくりしたのか、飛び跳ねる。
その場で跳ねる。跳ねた後、フリスクから離れ、立ち止まる。


ついてきて欲しいのだろうか?


ついていくことにした。



小さな虫はフリスクの前を歩いている。
城に近づいてきている。近づくたびに、その城が大きいものであると分かる。


あの城の玉座の奥に、金色の花がある。


それだけを頼りに今は進むしかないのだろう。


地下のためか砂がない。
岩で道が作られているのか、床は硬い。


砂が鳴くあの砂漠よりとても歩きやすい。


虫が目の前の建物の前に止まった。


ここは…建物だ。
門のように大きく古ぼけている。
城に進むにはこの門をくぐらないといけないのだろう。


小さな虫は扉の間、わずかな隙間から中に入ってしまった。


ずっと小さな虫を見るために下を見ていたせいだろう。
声をかけられるまで気づかなかった。


「フリスクー? フリスクってばー」


左の耳から聞こえる。
この声はキャラだ。


首だけを曲げて左を見る。


緑のフード付きのマント、首にかけたゴーグル、黄色の横縞が入った青いワンピース。
彼女だ。


「ずっと下を見てるんだもん。気づかないのは驚いたよ…」


キャラの顔には少し困惑した表情が見てとれた。
その手には何を入れているのか、カゴがある。


「キャラ。どうしてここに?」


キャラは少しきょとんとして、少し考えてこう言った。


「あ…そっか…フリスクは知らないのかな…サンズが近道をしてくれたんだ」


近道?
あ…そういえば前にグリルビーズに行こうとしたとき、「ショートカットを使えれば
」と言っていた、そのことだろうか。


「…キャラ。この先に花があるみたいなんだ。玉座の奥、そこにいけばあるかもしれないって」


キャラがほんの僅かだけ、目を見開いたのをフリスクは見逃さなかった。


「…行ったことあるの?」


少しだけ言葉を濁したが小さく、言った。



「……行ったことあるも何も…あそこは……私の家だから…」




_______________________________



話によると、キャラは元々あの城に住んでいたらしい。
王様と女王様と、そして弟。4人で暮らしていた。
女王様はよく美味しいパイを焼いていて、よく弟と喧嘩して取り合ったほど。王様とはよく遊び相手になってくれた。とても仲の良い家族だった。


ある日を境に、両親は喧嘩をすることが多くなった。


まだとても幼かったキャラと弟…アズリエルはその喧嘩の内容を理解できず、ただ開いた扉の隙間から様子を伺うことしかできなかった。


ただ覚えているのは、父親の寂しそうな表情と、母親の訴えるような表情だけ。


そんな日が何日も何日も続いた。


とても仲の良かった家族は二人と一緒にいる時だけはとても優しそうに接してくれるのに、子どもが寝静まった夜に、毎日のように口喧嘩を始めるのだ。


そして、その日も…キャラとアズリエルはその両親の様子を見ていた。


日に日に会話の内容が酷くなっているような…そんな気がしていたという。


そんな姿ばかり見ていたせいか、一緒に布団の中に潜っていたアズリエルは言った。



「ねぇ、キャラ。もし…金色の花があったら、おとうさんとおかあさんは仲直りできると思う?」



そう…小さな声でキャラに問う。


「…金色の花っておかあさんが読んでくれた絵本のあれ?」


アズリエルは頷いた。


「そう。あのお花。手に入れたら願いが叶うんでしょ? 僕、おとうさんとおかあさんには笑ってほしい…だから……*********……」


睡魔もあってか、その先の言葉は覚えていない。
確か、金色の花を探す…と言っていたような気がしている。


あの時、どうしてほんの数秒でも起きていられなかったのか、後悔しているという。



次の日、起きたときには、もうアズリエルはいなくなっていた。



きっと花を探しに行ったのだろう。
だから、待っていた。


ずっと待っていた。


その間でも両親は変わらなかった。むしろアズリエルがいなくなったことで喧嘩が加速してしまったようだった。


キャラはいつになっても帰ってこない弟をひたすら待った。
ずっと一緒だった弟がいなくなり、寂しさで心が埋まることもあった。


でも泣かなかった。


帰って来てくれると心から信じていたから。


その思いで生きていた。


…。


ある日、キャラは聞いてしまった。


いつものように言い争う両親の言葉。


人間が悪いのだ。私たちをこの砂漠に追い詰めた人間たちのせいだ。


そうすればアズリエルだってこんな砂漠ではなく、緑あふれる大地で幸せに暮らせていた。


自分が人間であることを子どもであっても分かっていた。
だから、その言葉を両親の口から聞きたくなかった。


自分に向けた言葉ではないことも、分かっている。分かっているはずなのに。


今まで耐えてきたものが一気に崩れ落ちる。そんな感覚だった。



気が付いたら荷物をまとめ、城を出ていた。


途中で母親の、引き留める声が聞こえた気がした。



夜の砂漠は吐く息を白く彩る。
体が震える。でもそんなことどうだってよかった。


荷物を持って、泣きながら当てもなく歩いた。


よく覚えていないが、その途中でサンズに会ったことだけははっきりと覚えている。


サンズと出会わなければ寒さで死んでいただろうと。




_______________________________



「あ……えっと……湿っぽくなっちゃったね…」


キャラが気まずそうに笑っていた。


「ほ…ほら! お城に行くんでしょ? 私も一緒に行くから! それでいいでしょ?」


手を引く。
門には大きな扉のなかに少し小さな扉、またその中に小さな扉、またまたその中に小さな扉。
モンスターごとによって扉が開きやすいように大きさが異なるようだ。


フリスクとキャラに合った大きさの扉を開ける。
すると、そこは洞窟のようになっているようだ。薄暗い。


「ここにはマフェットって言うモンスターがいるの。……怠け者だけど…門番の役目をしているの」


洞窟の中を進むと不快に思うなにかが顔や手、体にまとわりつく。


「マフェットー! いないのー?」


キャラの声が洞窟内に響く。


しばらくして、するすると何かが降りてきた。


小さな虫だ。


さっきフリスクを案内した虫だろうか?


キャラがしゃがんで虫に問いかける。


「あれ? マフェットは? もしかしてまた化粧してて遅れてる…? あー…そっか…じゃあ待つしかないのかな…。 マフェットにここを通っていいか聞いてもらっていい?」


虫はするすると上へあがっていく。


「今の子はね、マフェットの兄弟なの。たくさんいる兄弟の中でマフェットは一番上のお姉さんなんだ。私のことも妹みたいに可愛がってくれるの。また化粧してて遅れてるのかな…」


上でドタバタと音が聞こえる。


誰かの声も聞こえる。


「キャラ~~~~~~~!!!!!!!」


上から黒い髪をポニーテールに束ね、ピンク色の幅と六本の腕、クリーム色の服に黒のインナーを着た女性のモンスターが降りてきた。


降りてくるなり、キャラに抱き着いた。


「キャラ! 久しぶりね!! 大丈夫? あの骨にあんなことやこんなことされてない?」


キャラも嬉しそうに答える。


「マフェット久しぶりね! 大丈夫! サンズもパピルスもすごく元気よ! マフェットは?」


「あたしはとても元気! よかった…! その様子だと元気みたいね…もしキャラに酷い事してたらあの骨、食べてやるところだったわ」


「えへへ…。…ごめんね久々に来ておいてお話しにきたわけじゃないんだ」


抱きしめていた体を少し離し、キャラとマフェットは目を合わせる。


「…なにかあった?」


「うん。一度家に帰らないといけなくなったの」


「………」


マフェットが少し眉をひそめた。


「…どうしても行かないとだめなの」


「……それは命令ですか?」


「………ダメって言うならそうなるね」


その返答を聞いて少しため息をついて目を閉じた。
そして距離を少し取り、膝をついて、まるで王族に話すような態勢で丁寧に話し始めた。


「…貴女様がそう言うのであればあたしは止めません。ですが反対はします。卑しい者の助言に耳を貸さなくて構いません。ですが恐れながら、この先に行くことはオススメしません」


「…それでも。行かないといけない理由ができたの」


「………………………」


「顔を上げて。今は貴女にそんなことをしてほしいんじゃない」


キャラの雰囲気が変わっているような気がする。
説明が難しいが、あの人見知りで先ほどまで親しい友人のように接していたはずなのに、今では威厳を放つ王のような…そんな雰囲気を漂わせている。


「…………………」


マフェットが静かに顔を上げる。


「はぁ…貴女は本当に頑固ですね。そういうところは初めて会った時と変わっていませんね」


「いつものように話していいのよ。私はそっちのマフェットのほうが好き。妹みたいに大事にしてくれるし、可愛い服着てはしゃいでいるマフェットが好き。今のマフェットは好きじゃない」


「はぁ……。分かったわよ…。本当に…あんたにはどうあがいても敵わない気がする…」


「そんなことないよ。おしゃれには負けるし、化粧とかできないし、肌のお手入れとか…」


「いや…そういう意味じゃなくて……。…ところでそこにいる人間は?」


フリスクを見ている。
どうやらフリスクのことを人間だと認識しているようだ。


「あ…フリスクって言うの。一緒にお花を探してくれてるんだ」


「ふぅん…?」


近づいてきてなめ回すように上から下へと見ている。


「あ!!! そのマント!! それ元々キャラのものじゃない! それにその靴も!! なんであんたが着てるのよ!!」


茶色のマントと黄色の靴のことを言っているのだろう。
これはキャラがフリスクにくれたものだ。


「あ…それね、私がフリスクにあげたの。会った時マントもなかったから…」


「だからってこんな知らない奴に与えちゃだめでしょ!?」


「知らなくないもん!! 友達だもん!!」


フリスクが目の前にいるのに二人で言い争っている。


「分かったわよ! キャラは通すけどこいつは通さない!」


「どうしてそうなるの! フリスクは大事な友達なの! マフェットったら!」


キャラの声を無視してマフェットが仁王立ちしている。


「無理に通ろうとしたらあたしの弟があんたを食べちゃうからね」


必死にキャラがマフェットを邪魔しようと引っ張ったり小さく叩いたりしているが、無意味なようで端っこにちょこんと座った。


…。


えっと…。


「...これは…どうしたら認めてくれるの…?」


「そんなもの自分で考えなさい!」


分析しないと…。


「*マフェット。城に進むための門を守るモンスター。お菓子が好きでよくサンドアイスを買いに行こうとしているが、引きこもりのため買いにいけないようだ」


キャラが助言した。


「ちょっとキャラ! ナレーションみたいに助言しないでよ!」


キャラはぷいっとそっぽを向いた。


サンドアイス?
そういえば貰ったような…。


砂だからポケットにもいれることができず、手に持ったままだった。


キャラがまた助言する。


「*そのサンドアイスを使えばどうにか、このモンスターを説得することができそうだ」


「ちょっとキャラってば!」


…このサンドアイスを使えばいいのか…?
さすがに砂を食べる趣味はないのだけれど…。


「…食べる?」


考え着いた結果。あげてみることにした。


「………」


「*マフェットは欲しそうな顔をしている」


「キャラ…あんたって子は……」


キャラは頬杖をして無視を決め込んでいるようだ。


「……えっと、じゃあ…交渉。このアイスあげるからここを通して欲しいんだ。通さないならあげるつもりはないよ」


ちょっと脅してみた。


効果はてきめんなようだ。
欲しそうにしている。


「*あと一押しあれば交渉は成立しそうだ」



「じゃあ…今度来た時はサンドアイスをたくさん買ってきてあげるよ」



………………………。


あ。これ決まったな。




_______________________________




マフェットが門を通してくれた。
サンドアイスの恩恵だろう。


”今度”と言ってしまったが、いつかなんて約束はできない。


薄暗い洞窟を抜けて、二人の人間は城の前に立つ。


とても大きな建物。


「……帰ってきちゃったな」


キャラが小さく呟いた。
その横顔は懐かしんでいるような、戸惑っているような複雑そうな表情だった。


右手を掴む。とても力が込められていたから。


少し驚いて手を掴んだ少年を見た。


そして少しだけ、微笑んだ。


「大丈夫。少し緊張してるだけだよ」


「本当に?」


「うん」


「……少しだけ…手を繋いでいてもいいよ」


「…?」


「だってこんなに汗をかいてる」


「私は平気だよ」


「…じゃあ、僕が不安だからって言えば握ってくれるの?」


「…フリスクが? 変なの、そんな風に見えないのに」


「表情が分からないってよく言われてたから。そう見えないでしょ?」


「確かにわかんないね。こうやって笑ってみたら? こう頬を上げてニーって笑うの」


「ニー? ……こう?」


「違う違う、こうだよ。こうやってニーって」


「わかんないよ」


「こうして笑うんだよ」


「いたたたたた!!! キャラってば! ほっぺ思いっきり引っ張んないでよ!」


「ふふ…そうそう、その状態をキープしてみて」


「こ…こう?」


「……………ぷっ…あははははは!!! なにその顔ー!」


「なっ…! キャラがそうしろって言ったんじゃん!」


「あははは!!………ごっ…ごめん……面白くて……ぷっ…無理……」


「もう!! 人がせっかく頑張ってるのに笑うなんて失礼だよ!」


「あははははは!!………ごめんってば…」


「もう知らない!!」


「ほら、確かに表情は分からないかもしれないけれど、今フリスクが私に怒ってること、私はちゃんと分かってる」


「……」


「そのままの君でいいんだよ。そのままの君でいて」


「………………………」


「でも笑う練習くらいはしたほうがいいんじゃないかな?」


「……」


「そのほうがもっと楽しくなるよ!」


「…そう…かな」


「うん!」


「…そっか」


「……ふふ」


「…?」


「なんでもないよ。ほら、手繋ぐんでしょ?」


「え…自分から言っておいて…恥ずかしくなってきた」


「? いいじゃない。ね?」


「分かったよ…」




城の前に立つ子供たち。
小さな手を取り合って、前を進む。
その先は少女にとって優しく、苦い過去の巣窟。
その先は少年にとって未知で、戦うための戦場。


二人の目的は、金色の花。



ただそれだけだ。きっと。




Hotland 燃える砂漠


ホットランド編、終了です。
二つに分ける予定ではありましたが、一つにまとめさせていただきました。
なのでとてもボリューム満点の内容となりました。
SANDTALEではうざい犬ではなく、猫です。にゃんにゃん。


次回、メタトン戦。FIGHTとACT どちらかを選ぶことになります。
そして残念なお知らせがあります。


SANDTALEでの分岐、おそらく次で最後となります。
あるとするならば…お分かりですね。PルートとGルートです。


次回が終われば、あとは進むだけです。
2月8日にSANDTALEが生まれたのでそれまでにはNルートを終わらせるつもりでいます。
それまで、お待ちください。

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