メタトン FIGHT
……あれはいったいなんだ。
マーケットの中の天井隅、そのモニターから映し出される映像。
本来なら、みんな彼…メタトンの姿が見られるというモニターで面白おかしく笑っていて…メタトンに「なにやってるんだよ」って笑いあって…それにつられてメタトンも笑っていて……面白くなってきたら野次でも飛ばしに行こうかって考えていたのに……。
"それ"はキャラを先に王城の中に行くように仕向けた。
メタトンと人間だけでの勝負のはずだ。
ただのお遊びなはずなんだ。それなのに…それなのに……。
上から見ているから、彼が今どうなっているかわからない。
ただ、分かるのは…
茶色のマントをした後ろ姿のなにかが、メタトンの上に馬乗りになって殴り続けていることだけだ。
鉄の砕ける音がした。何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
"あれ"は一体なんだ。
なんのモンスターだ?
殴り続けていた拳は血だらけになっていた。
やがて"それ"は殴るのを止め、バキバキとはがす。
そんな音を響かせる。
そして喋りだした。
「あ……あったあった。これがコア? ちっちゃいね」
コア。それはメタトンと言うモンスターを形成するための大切なもの。
待て。それをどうするつもりだ。それがなきゃメタトンは…。
ゴーストの時とは違うんだ。それがなくなればメタトンは…。
なにが起こっているんだ。
混乱と騒然のなか、モニターに映る"そいつ"はおもむろに手を後ろに持って行った。
そして、鈍く光る……ナイフだ。
おい…。やめろ…。やめてくれ…。
「ばいばい、メタトン」
やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
バキンという嫌な音がモニターから聞こえた。
やがて"それ"は静かに立ち上がり、
ゆっくりと
こちらを振り向いて
邪悪に笑っていた。
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モニターはここで途切れた。
この場所、マーケットの中で…ここにいる…全員…なにもできずに…メタトンが嬲り殺される姿を…見ていることしか…できなかった。
みんな泣いていたり、怒りを露わにしていたり、静かに武器を手に取り、城へ向かっていくようなやつもいた。俺はそんなやつに声をかける。
「……おい、そんな物騒なもん持ってどこ行くんだよ」
「決まってる!! メタトンの敵討ちだ!! あんなやつ今すぐにでも殺さなきゃ俺の気が済まねぇ!!」
「やめとけ。お前が死ぬかもしれねぇだろ」
「そんなの知らねぇよ!! あいつに…メタトンが…俺たちの支えになってくれたメタトンが殺されたんだぞ!!? 死んででもあいつを殺してやる!! 人間のせいで……!!!! てめぇになにが分かんだよ!!!」
俺の胸倉をつかんで怒りをぶつけている。
その顔は憎しみに満ちていて、下手に言えば俺自身が殺されるのかもしれないとも考えてしまい、冷や汗が頬を伝う。
「いい加減にしなさい」
怒りに満ちたモンスターに声をかけたのはマフェットだった。
マーケットの入り口に立ち、怒りを露わにするモンスターに近づいた。
俺の胸倉を突き放す。力のあるモンスターではない俺は情けないが、地面に尻もちをついた。
あいつはどんどんマフェットに近づいていく。
ここにいる全員が息をのむ。
それでも彼女は堂々としていて、それがさらに苛立たせる原因になった。
「てめぇ…!! もともとは門番であるお前が人間を通さなかったらこんなことにはならなかったんだ!! お前も同罪だ!!!!」
マフェットはすぐには反応せず、怒りを受け止めているようだった。
「………そうね。私のせいもある。 ……言い訳はしない。」
マフェットは静かに目を閉じた。殺してもいいという態度だった。
「ちっ…」
そんな彼女の態度を見てか、舌打ちをして踵を返した。
「私がこうして生きてるのは…きっとキャラのおかげだと思うの。 あの人間…キャラの前だと誰も殺さないみたい。…まるでこうなることを分かっていたみたいに……最初からメタトンを殺すつもりがあったかのように…。だからキャラを先に行かせたんじゃないかしら…私たちがキャラを助けに行けないように…」
俺にはどう声をかけたらいいかわからない。
「キャラ様はともかく…あの人間は信用できない!! 今すぐに殺さねぇとアズゴアが…!!」
「落ち着きなさい。どのみち…キャラがあの人間の側にいる限り、どうする事もできないわ…。 人質として捕らえられたり、それこそこちらの考えがバレてしまった場合…キャラの命だって保障できないの…。」
………マフェットの言う通りだ。
結局…俺たちはなにもできない…ただの無力なモンスターなんだ。
「……祈りましょう。アズゴアを。……それに」
マフェットが口を紡ぐ。彼女だってアズゴアを失いたくないはず。
それでもこうして話しているのは全員の不安を取り除きたいからだろう。
「……審判者がいる」
「…審判者?」
「あんたたちは知らないか。この砂漠でアズゴアと並ぶほど強いモンスターよ。きっと彼があの人間の行いを見極めるわ。今回のことも…きっと…」
マフェットが空を仰ぐ。
と言ってもここは地下なのだから空はない。ただの岩でできた天井だけが目に映る。
「……あーあ。私、引きこもりなんだけど空が恋しいわ…雨でも降ってくれればいいのに。…あ、バガパン、アイスサンドないの?」
いまだ尻もちをついている俺に話しかけた。
「だから…変なあだ名つけんじゃねぇよ…。一つある。これもおまけでやるよ」
サンドアイスのほかにハンバーガーを渡す。
「あら、気が利くんじゃないの」
たくさんのモンスターがいる中、二人の声だけが聞こえてくる。
そして、次に彼女の食べる音だけが聞こえてくる。
「……バガパン、みんなの分もハンバーガー出してあげて。私が払うわ」
「…お買い上げありがとうございます」
マフェットが食べ終えたころには、俺も全員に食べ物を渡し終えた。
「信じるしか…ないのよ」
そう、マフェットが呟いた。
メタトン FIGHT編 END
いつもとは違う…とても重い雰囲気です。
倒すべき敵はアズゴア、たった一匹です。
最終決戦まで、あと少し。