城門の前。

人間たちは手を取り合って前に進む。

目の前は大きな柵の扉。
その先に誰かがいる。

二人で扉を開いていく。

歓迎するような声が二人の耳に聞こえる。

「やぁ！ さっきぶりだねダーリン。 悪いけどここから先は私のショーに付き合ってもらうよ」

オレンジのメッシュが三つある灰色の髪を三つ編みにした人間に似た姿のモンスターが立ちふさがった。

「…君は………メタトン…」

「あ！ 覚えててくれたんだね。嬉しいよ。まさかキャラ様もいるとは思いませんでした」

「……メタトン久しぶり」

「あまり城に近づくのはオススメしませんが…？」

「マフェットにもそう言われた」

「でしょうね…でも彼女は通した」

「私がわがままを言ったからね」

メタトンとキャラの会話をただフリスクは眺めていた。
嫌な空気ではないが…少し後ろめたいような、そんな気がした。

「悪いけど、急いでるの。メタトン、ごめんね、通してもらえる？」

キャラが低姿勢で交渉している。
その姿をメタトンは優しい目をしながら見ていた。

「キャラ様、大変申し訳ないのですが、この先はあなたにとって…」

「分かってる。でもパパに会わなくちゃいけないんだ」

「……………」

キャラの目には決意があふれていた。
きっと誰が止めようとしても彼女は前に進んでいくのだろう。

「あなたの気持ちは分かりましたよキャラ様。でも、私には私の、すべきことがある。それを果たさせてください」

「え？ まさかここでやるの？」

「はい」

よく見ると、空になにかが浮かんでいる。
機械だ。何枚かのプロペラを付けて真上を飛んでいる。

キャラがそれに気づいてフリスクの手を解いた。そして振り向き、若干目を逸らし気味でこう言った。

「…フリスク、ちょっとだけメタトンに付き合ってあげてもいいかな」

「…わかった」

急いでいる、と言ったのはキャラだ。
それなのにメタトンのすべきことに協力しなければならないようだ。

一体なにをすればいいのだろう…そう考えていた時、メタトンは深呼吸をして声を張り上げた。

「ようこそ！ ボクのショーへ！！」

「！？」

その声は聞く者全てを注目させるかのような、自分へと視線を向けさせる声だ。

「ついに、ニンゲンとモンスターの決戦の時が来た！！」

「悲しき王城へ進もうとするニンゲンたち。それに立ちはだかる一匹のモンスター…その名はメタトン！！」

声を張り上げて堂々と話す彼をフリスクはただ驚いて見ていた。
キャラはなにやら深呼吸をして胸を押さえているようだ。顔が赤く、汗もかいているし、どこか目が泳いでいる。なにか…焦ってる？ それに…なにやら前髪を直す回数が異様に多い。

メタトンは両手を広げ、空を飛ぶ機械に向かって話しているようだった。

「ストーリーもアクションもバイオレンスも全てが”リアル”！ 砂漠での初のテレビ上映の時間さ！ その名も…！！　”アタック・オブ・ザ・キラーロボット”！！ …アルフィスが考えた題名だけど……”しんげきのキラーロボット”のほうがかっこいいと思ったんだけどなぁ……」

最後のつぶやきはフリスクとキャラにしか聞こえないような声量だった。

「さぁ！ 手元のモニターは手に持ったかい？ これからニンゲンとモンスターの戦いが火ぶたが切って落とされる…！ どきどきだね！！」

モニター…そんなものは持っていない…。……テレビ…オニオンが持っていた物か。
あれがテレビならば、あの空に浮かんでいる機械、あれがカメラか。
それならばメタトンが上を向いて会話しているのにも理屈が通る。

「この戦いはどちらかが死ぬまで続くよ！ とてもドラマティックだね！ 目の前にいる"フリスク"と呼ばれる人間がボクを倒して、前に進むか。ボクがキミを倒してキミの持つソウルを手に入れるかどちらか一つさ！！」

キャラはまだ前髪をいじっている。落ち着きがない。
テレビなのだから当然か…。
それにしても…メタトンはそう言っているが、彼が僕を倒すほどの決意があるのか…と言われるとないように見える。
もし、本当に僕を倒そうとするなら殺気くらいは出すはず。キャラだって慌てるはずだ。
今のキャラはテレビに映る事に対して慌てているようだ。

なら、この戦いの意味は？

色々なモンスターの声を思い出す。

”「メタトンはねーみんなのアイドルなの！色んなところに行ってみんなに声かけてくれるの！とっても良いモンスターなの！」”

”この辺りに住むモンスターみんな、メタトンのこととっても大好きなのよ！ボクも大好きなんだー！今日みたいにボクの所に来て楽しいお話いっぱいしてくれるし、面白いこともいっぱいしてくれるんだー今日だってねー…」”

”「ごめんね、オニオン。アルフィスに呼ばれてるんだ。最終調整のためにね。本当は完成してるんだけどさ、アルフィス、心配性なんだ…一大イベントだからね！渡した端末、なくさないようにね」”

”「お…？ さっき会ったのか？ てことはウォーターフェルにいたんだな…少しくらい休めばいいのにさ」”

オニオン、メタトン、通信機で話したモンスター。

この話を思い出すと、メタトンが殺すなんてそんなことをするモンスターとは思えない。
一大イベントと言っていたのもこのことだろう。端末も、この時のために渡したもの。
この時のために休まずに働いていたということか。モンスターたちの信頼も厚い印象を受けた。
目的はおそらく、この砂漠にいるモンスター全員に元気を与えたいから…であれば察しがつく。

このモンスターを倒せば、みんなは絶望するだろうってことを。

さすがにキャラがいる目の前でできない。
それにそんなことするわけがない。

なら…することは一つ。

メタトンのショーを盛り上げること。

＊決意

「よ…よし…これで映っても恥ずかしくないよね！！」

そう言っているが、キャラとフリスクの距離がかなり遠い。

「………キャラ…映りたいならもっと近づいてきていいんだよ？」

「えっ……！？ い…いや……だって映るのとか無理！！ 無理だって！！！」

最初にキャラと会った時も恥ずかしがりの人見知りだったから当然と言えば当然のことだろう。……マフェットの時に見せたあの王族の威厳は気のせいだったのだろうか…。

キャラは混乱しながらフードを深く深くかぶっている。

戦力には期待できそうにない…。

「だってだって…テレビとか無理だって…だってただでさえ恥ずかしいのに…あぁ…でもお城に行かないといけないのにどうしようどうしよう…」

しかも若干パニックになっているようだ。
こっちの声が届くのか…。

「キャラ―！！ とりあえず…メタトンのこと教えてくれるー！！？」

大声で呼びかけてみる。
ハッと気づいたのか、近寄らないものの声を出してくれた。

「＊メタトン　 フィリア砂漠に住むモンスター。弱点は左胸のハート型のコア。アルフィスに作られた体で、もともとはゴーストのモンスター」

「了解」

ここを突破するにはこの場を盛り上げなくてはならない。
それがメタトンの出した条件だろう。

本当に殺し合うつもりがないのは察している。

だから

「お前の攻撃なんかあたるもんか」

挑発してみた。

テレビの影響か、野次馬がどんどん集まってくる。
メタトンとフリスクの戦いを見に来たのだろう。

「うん。いいね。その意気だよダーリン！」

………。

………………………。

…………………………………。

それからというもの、野次馬は次から次へと増えていった。

フリスクが傷を負いボロボロになった状態でポーズを決めると野次馬たちは歓声を上げた。

メタトンも同様にポーズを決めるとみんなが声をあげる。

これでは戦いではなく、ただのステージだ。

メタトンも最初こそ攻撃していたものの、フリスクが傷つくと申し訳なさそうに顔をしかめ、次から攻撃しなくなり、どちらかが観客にカッコいいポーズを決めれるかの戦いになっていた。

恥ずかしがっていたキャラは観客に交じって盛り上がっているようだった。
その顔はとても楽しそうだ。

盛り上がる歓声のなか、フリスクは疲れ始めていた。

いくら太陽がない地下の中とは言え、さすがそろそろ水が飲みたい。

「メタトン…もう、勝負はこれくらいにしてくれない？ さすがに疲れちゃって…」

「！ ご…ごめん。少し激しくやりすぎたみたいだ。そろそろお開きに…と、言いたい所なんだけど…このショーを始めたのには理由があるんだ」

理由？

「そう！ 実は、メインはこのショーじゃない。アルフィス！！ そこにいるんだろ？」

すると野次馬の中から「えっ」と声が聞こえた。

野次馬たちが道を開けていく。その先に黄色いトカゲに似たモンスター、アルフィスが現れた。

「あの…えっと……どうしたの？」

「まぁまぁ。こっちに来てよ」

メタトンに言われるまま、近づいていく。
その様子は戸惑っていて、みんなの前に出ることへの恥ずかしさを含んでいるようだった。
するとメタトンはアルフィスの肩を掴んで話し始めた。

「みんな聞いて、このショー、もとい…テレビは実は…」

「気になるあの子に告白しちゃおう！！のコーナーでした！！」

「え」

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！！！！？？？？」

驚愕の声を発したのは紛れもなくアルフィスだった。

慌てふためいている彼女をお構いなしとメタトンはコーナーの紹介を始めていった。

「気になってはいる…けれど告白ができない……そんなあなたのためのスペシャルコーナー！ 記念すべき最初のモンスターは、このテレビの最大の貢献者！ アルフィス！！」

「待って！！ メタトンこんなの聞いてない！！」

「だって内緒にしてたもの」

目を細め、人差し指を口元に当てる。

「ほら、告白なら今がチャンスじゃないの？」

「だって…私にはできない！！ できないわ！！」

「…そうやって、自分の力量を決め付けるのはアルフィスの悪い所だよ。ほら、頑張って。これは私からのアルフィスへのお礼なんだ。この体だってそう、このショーだってそう。アルフィスのおかげなんだ」

メタトンがアルフィスの背中を押した。エールを送るかのように。

「私だって、メタトンに色んなものをもらってばかりだよ…」

アルフィスが大きく深呼吸をし、うつ向いた顔をあげ決意に満たされた表情で、テレビと観客に向かって大声を張り上げた。

「私は！！！ アンダインのことがとっても好きです！！」

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こうしてショーは無事に終了した。

野次馬たちはアルフィスの告白を聞いて大いに盛り上がっていた。

しかも、アンダイン…当の本人のところに連れて行こう！とまで言ってみんなでアルフィスを胴上げをするかのように抱えて嵐のように連れ去ってしまった。

これは…ショーは成功したってことでいいのだろうか。

簡単に言えば僕とメタトンのショーは場を温めるためのものだったというわけだ。

ようやく集まっていた野次馬たちが落ち着き、メタトンもモンスターたちとの会話を終え、フリスクに近寄り、同じ目線になるように片膝をつく。そしてどこからかハンカチを取り出してフリスクの頬の傷を優しく、撫でた。

「ごめんね、痛かったでしょ？」

「このぐらい大丈夫だよ」

するとメタトンは正座をし、ぎゅっと目を閉じて言った。

「本当にごめん！！ 私の顔も殴っていいから！！」

「やらないよ」

…殴るにはちょうどいい高さだけど、さすがにやられたらやり返すほどじゃない。
それにキャラも見ている。そんなことはできない。

「…優しいんだね。その優しさを忘れちゃだめだよ。優しさを失った者がどうなるか、わからないわけじゃないから」

メタトンは静かに微笑んでフリスクの頭を撫でた。

その感触がなんだか不思議だった。
親が子供を褒めるようなそんな感覚だったから。

キャラもフリスクに近づいてくる。
テレビ中継が終わったことで近寄れるようになったのだろう。

メタトンが彼女に気づいて、近づいてきたキャラの頭も撫でた。

「？」

撫でられた本人は意味を分かっていないようだ。

「キャラ様、この先は…」

「…わかってる。でも行くよ」

「そうですか…なら…私のお願いを聞いてもらえませんか？」

本当はキャラがこの先に行くことを止めたいような…そんな顔だ。
これ以上、何を言っても聞かないのも察しているようだった。

「分かった」

「…あなたの家の地下、その先に回廊があります。そこで…審判者が待っています。その審判者の言葉を”絶対に”聞いてください。わがままを言ってはだめです」

審判者。

聞きなれない言葉だ。
キャラも初めて聞いたようで首を傾げた。

「…誰？それ？」

「行けば分かります。あのモンスターに嘘は通じません。あの空間では彼が絶対なのです。絶対に…逆らわないでください」

いつになく真剣な顔だ。
その気迫に満ちた顔を向けれ、戸惑うキャラが見てとれた。

「わ…分かった…」

「それと…いつもの彼だとは思わないでください。あなたたちの前にいるのは…全てを公平に審判を下す者なのですから」

メタトンはそう告げてフリスクとキャラに別れを告げた。

少し遠回りをしてしまったのかもしれない。

キャラと目を合わせ、今度こそ王城へ向かっていくだろう。

メタトン　　ACT編　　　　　　　　　end

本当はもっとメタトンのことについて書いていきたかったです。
それはPルートで語ることとしましょう。たぶん。
審判者…なんて回りくどい言い方をしていますが、もうみなさんお察しですね。
そう。彼です。
どう審判が下るのでしょうね。

それは次回にて。早めに更新させていただきます。