sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

秘密のパスワード



………………………。



………………………………………………。



「あのさ…幼稚園児じゃないんだからさ………」



最後の回廊。
重々しい沈黙の中、彼が人間を引くような目でようやく言葉を発した。
目の前の人間はただ顔の筋肉も動くこともなくボソボソと言っている。


「なんだ……”ぼくは伝説のおならマスターだ”って……」


………………………………………………。


………………………………………………………………。


また重々しい沈黙が続く。


人間の隣にいた少女、キャラもいきなりの意味不明な発言に困惑しているようで、モンスターと人間の顔をせわしなくキョロキョロと見比べている。続いたままの沈黙に耐えきれなくなったのかキャラが勇気を出して話し始めた。


「あ、えっと、きっとフリスクは暑さでやられちゃったんだよ!! そうだよ! ね、フリスク、少し休もう? ずっと歩きっぱなしだったもんね? ほらお水もあるよ?」


水筒からコップに水を移そうとして自分の服の袖にかけてしまい、ずぶ濡れになっているようだ。しかも気づいていない。ドバドバと水が袖に向かってこぼれている。
きっと心の中では混乱したままなのだろう。


それもそうだ。サンズから「最後の審判」と言われ、身構える場面にも関わらず、唐突に場違いなセリフを言ったのだから。



「お前さん…どうしてそれが秘密のパスワードだと思ったよ?」



糸目の少年は顔を上げて口を開いた。


「言ったでしょ? ”もしここに帰ってくる時があったら言え”って”秘密のパスワードだ”って」


その言葉を聞いてサンズは少し驚いた顔をしていた。


「あ…いや、俺、確かにパスワードなんだけどさ。その他にもあるんだよパスワード。秘密の秘密のパスワードさ」


まだあるのか…フリスクは表情筋も動かさず深いため息を吐いた。
まるで「またか」とでも言いたげな深いため息だ。


「…今のが秘密の秘密のパスワードさ。ほらよ」


サンズが近づいてくる。呆れていたフリスクの手を掴み、開かせては手のひらに何かを握らせた。
見てみる。それは藍色の小さな鍵だった。


「それ、俺の部屋の鍵。お前さんが望む”本当の真実”に近づくためのやつさ」


鍵を見ていた瞳がサンズのほうへ向けられる。


「これがあれば分かるの?」


「…お前さんが何を知りたいのかは知らん。その質問をしたいならまず何が目的なのか話すべきだな」


その言葉でフリスクはキャラを見た。一瞬だけ。
キャラは気づいていない。


「……サンズには分からないよ」


「だろうな。お前さんが秘密のパスワードを知ってるってことはそういうことなんだろ」


「じゃあ…”後で”ね」


「あぁ…”後で”な」


踵を返し最後の回廊から駆け足で出て行ってしまう。
キャラは二人の会話を理解できないまま、フリスクの後に続こうとしてサンズに声をかけられた。


「キャラは待て。お前さんには行く権利はないぞ」


「え…? どうして?」


「フリスクはあの鍵を手にするまでの権利を得た。だがお前さんにはないってこと」


サンズの言葉に、嫌な顔をすると思っていた。
だが彼女は目をきょとんとさせて唐突にこう話した。


「……ねぇサンズ、こんなこと前にもなかった?」


「こんなことって、このやり取りがか?」


「うん、なんとなく…前にもここでサンズに止められた気がする。誰かがいて…先に行っちゃって、ついていこうとして、サンズに止められて……」


考え込んでいるキャラの頭に細い指が伸び、ニヤニヤした顔でまるで子どもをあやすようにぽんぽんと頭を触る。


「すごいなキャラは、予知能力でもあるのか?」


「ん、少しだけあるって言ったらどうするの?」


少しムッとした後、何かを企んだのかキャラはイタズラっぽくニッと笑う。
傍から見れば、最後の回廊で笑う二人の表情が似ている。本当の兄妹のようだ。
血や種族が違っていても一緒に住んでいれば表情の出し方や態度が似てくるのだろうか。


「はは…そりゃ悪い冗談だな。しばらくはフリスクを信じて待ってやれ」


「どうせ行こうとしても止めるんでしょ? あの大きな骨の子使ってさ」


「どうやらお前さんは相当俺の事が好きなように見える」


「当たり前だよ。兄妹なんだから。私のもう一つの家族だもの」


最後の回廊でそんな会話をする二人を照らしているのはステンドガラスから差し込むオレンジ色の黄昏の光だった。



________________________



サンズの部屋。


何度Resetを繰り返しても入る事ができなかった場所。


きっとここに本当の真実がある。


そう確信する。



スノーフルにある家に入ると頭に橙色のバンダナをつけた長身の骨が出迎えた。


「ん!! おかえり! フリスクもう帰ってきたのか? 今度はちゃんとうまい料理を作ってやるからな!! アンダインもパーティの準備をしてくれているのだ! あ! なんのパーティかは聞いちゃだめだからね!! このパーティはある人間の歓迎会なのだ! だから秘密なの!!」


パピルスの話が終わる前に階段を駆け上がりサンズの部屋の鍵を開ける。


急げ、急げ。


ここに本当の真実があるんだ。


ドアを開ける。
中は真っ暗だ。


歩く。歩く。歩く。歩く。


……ずいぶんを長い廊下だ。


歩く。


歩く。


早く着きたくて走る。


走る。


走る。


まだ着かない。まだか。


………………………。


………………………………………………。



は…走りつかれた。



息が切れる。足がもつれる。汗が砂漠の熱気で水蒸気となって流れる間もなく空気となって消えていく。


油断していたのだろう。つま先が床に躓いた。


そのまま体は重力に逆らえず床に…



ガシッ



…なにかに頭を掴まれた。
床とおでこがぶつかる前に誰かが抱えたのだろうか?


「…お前、なんでこんなところで走ってんだ?」


顔を上げる。


そこにいたのは茜色の髪とペンダントをしたアンダインだった。
どうやら転ぶ前に頭を掴んだようだ。足が宙に浮かんだまま脱力している。


ふと周りを見る。先ほどまで真っ暗だった空間は電気がついている。
カーテンの閉まったままの窓に棚、寝るためのベッドに置かれた布団はたたまれずに乱雑なまま放り投げられている。床はなにかの資料がしわくちゃになって敷き詰められているようだった。
自分の瞳に目の前のベルトコンベアーが映る。それはウィーンと機械音を立てて動いていた。


「…そんなに運動がしたかったのか? それならそのランニングマシーンじゃなくてロイヤルガード隊長のアタシが相手になってやったんだぞ?」


アンダインはフリスクの頭を掴んだまま、ニッと笑った。


…アンダインの稽古はスノーフルを50周とか槍の素振り5000回とかあるから嫌だなぁ…。


「あ、えっとそれはいいや…」


「サーンズ!!!!!! 俺様のフィギュアはどこあるか知らないか! オレンジのパーカー着てる気だるそうな俺様!! あと最近教えてもらった、青くて羽の生えてるイケてる俺様と、”王立交響騎士団”のクールな俺様と、頭にハチマキ巻いたホットな俺様と、ハートのエプロンしたグレート料理人の俺様……ってなにやってるの?」


パピルスがじとーっとアンダインとフリスクを見た後何かに気づいたようだ。


「あ~……どうせ兄ちゃんにからかわれたんでしょ。兄ちゃんってばそういうなーんか見越したようにからかうから、俺様そういうとこは嫌いだぞ…ところで俺様のフィギュア…あ!! 思い出したぞッ! 俺様の部屋の棚の上だ! ニェッヘッヘ!! 俺様って、ホント、天才!」


ニェッヘッヘという笑ったまま部屋から出て行ってしまった。
アンダインと、そのアンダインに頭を掴まれたままのフリスクとウイーンと音を鳴らしたままのランニングマシーンが残された。


「…」


アンダインがそっとフリスクを下ろした。
そしてしゃがんでフリスクと同じ目線になり、なぜか憐れんだ顔をした。


「…お前も大変だなぁ…あ、そうだ。お前に頼みたいことがあったんだ」


アンダインがポケットから一通の手紙を渡してきた。
…とても分厚い。分厚いというか、硬い。石か? それとも鉄かなにかか?
しかも重い。


「これ、アルフィーに渡してくれないか? ちょっとアタシからは…ね?」


口を尖らせてもじもじとしているように見える。
アルフィー?


「アルフィーって誰?」


「アルフィーはアルフィスだよ!!! みんな”アルフィス”って呼ぶけどアタシは”アルフィー”って呼ぶんだ! あ!! お前はそうやって呼ぶな! この名前はアタシとアルフィーだけの特別なんだからな!」


アルフィス、あのトカゲのようなモンスターのことだ。
結局、メタトンのショーで告白中継をしたために砂漠中どこもかしこも「結婚式の準備だ」「おめでたい」「はやく披露宴しよう!」「ドレスは? 2人分? 早く作らなきゃ!」とお祭り騒ぎときた。


アルフィスはあの後みんなに担がれてアンダインの所に連れられて再度告白して無事、ハッピーエンド…なのだがその後、彼女は研究所に引きこもってしまって出てこない。
アルフィス本人曰く「ま、まだ心の準備してるの」とのこと。


そう言われてしまうと強要ができず、アルフィスの心が、準備できた!と言った時すぐに行えるように結婚式の準備をしているそうだ。多くのモンスターは共生の神殿にいる。


アンダインもそのことを考慮しているようで、そのための手紙なのだろう。


「いいか!! その手紙の中は見るなよ! 恥ずかしいからな!」


そう言うと重い手紙をニッと歯を見せて笑って部屋を出て行った。



*おもいが詰まった手紙を手に入れた。



…どこからかツクテーンという音が聞こえたような気がするけど無視した。


ランニングマシーンを見てみる。
張り紙が付いているようだ。


【一つ真実を教えましょう。急がば回れって言葉知ってるか? つまりはだ、あなたはからかわれています。バーカバーカ】


…見透かされているような気がする。もしくは監視でもされているのか…?
辺りをキョロキョロとするも誰もいない。
…それはそうとして、この部屋に来たのだから探し物をしなくては。


ベッドの上には特に何もない。
床に転がったしわくちゃの資料を拾ってはしわを伸ばしつつ集める。


これは量子力学のものか。
哲学的な言葉が並んでいる。それにサンズが研究者だからか、とても綺麗な文字とは言えない。解読するには時間がかかりそうだ。


資料をパラパラと開いて読んでいく。


……。


………………………。


要点をまとめると



【時間が巻き戻る可能性がある】


【私たちは未来へと進んでいるが同時に過去へ進んでいる可能性がある】


【未来で起きたことが過去に影響を及ぼすこと】


【これを逆因果と呼ぶ】



時間は一方通行に進んでいるように見えて、実はぐるぐると回転するように進んでいるのではないか。という結論だった。


そして


【もし逆因果が起きた場合…それはResetの力を持つ者が現れたとき】


【因果が壊れることのないように、その力を正しく使えるか否かを判断しなくてはならない。もし正しくないと判断した場合、それは】


これ以上のことは書かれていない。
棚を見てみる。引き出しの中に、ポツンと一つだけ紙に敷かれた銀色の鍵が入っていた。


鍵? ここ以外に使う場所なんてあっただろうか?


鍵を手に取る。なんの変哲もない鍵だ。
一緒に寂しく置かれていた紙を裏返してみる。なにか書かれていた。


【その鍵についてはアルフィスに聞くといい】


…やはりサンズは僕がここに来ることを見越していたのだろうか?
とりあえず次の行き先は決まった。


アルフィスの研究所だ。


人間はホットランドへ足を進めていった。


________________________



人間とモンスターの戦いが終わり、砂漠へ追いやられたものの、私たちは生き残った。


でも私たちは次々と凶刃に倒れて塵になった。


戦争が終わったというのに、約半数の命が消えていった。


…ここまで何匹ものモンスターが死んでいった。


どうしてだと思う?


私たちが死ぬとき…それは自分の子が大人になった時。
子どもに自分の持つ力を与えてから寿命で死ぬ。


モンスターはそうやって出来ている。


子どものいないモンスターが次々に死んでいく。
寿命などではない。


私たちは死んだ。


一人はおもちゃのナイフを
一人はグローブを
一人はバレエシューズを
一人はノートを
一人はフライパンを
一人はおもちゃの拳銃を


私たちに振り下ろした。


そして塵になった。


だけどこうして生きている。


僕たちは生きている。


俺たちと一緒に。


けんきゅうしゃ。


彼らはそう言っていた。


彼らは僕たちを助けてくれた。


俺たちを護ってくれた。


私たちを殺したあの子たちも、ただ怖かっただけなんだ。


もう少し、接し方を治したほうがよかったのかもしれない。


ハミングをしてあげればよかったのかもしれない。私は歌が得意だから。


話合えばよかったのかもしれない。でももう俺はからかわれたくない。


息子の真似をして、ジョークで場を和ませてあげられればよかったのかもしれない。


疲れて眠ってしまった時、温かい布団をかぶせてあげればよかったのかもしれない。


みんな一緒になった。みんな家族になった。


騒がしいけど、とても賑やかになった。


だから恨んでなんかいない。


願わくはあの6人の子どもたちに未来ある世界を。




アレ  前ニモ コンナ事 アッタ ヨウナ。





オナカ スイタ アルフィス ドコ?





________________________



秘密のパスワード       end


SANDTALEの闇が少しだけ見えた気がしますね。
私はもともと原作の解釈が大好きな人間なので、今回も、その解釈が含まれています。
個人的なものなので強制はしませんが、もし皆さまが原作の解釈をされる際は、量子学を勉強することをお勧めします。時間や次元について書かれているものが多いのです。それに本家サンズがどの研究をしていたのか、その過去を追う事もできます。
つまり、量子学を知れば、本家の謎を紐解ける…と私は思っています。
あくまで個人的な意見です。量子学、とても面白いですよ。

×

非ログインユーザーとして返信する