sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

トリエル FIGHT

それは、僕を見つめていた。


それはいつものような全てを包み込む瞳ではなかった。


それはいつも寄り添ってくれていたモンスターではなくなっていた。


僕を見るその目を僕は知っている。



失望の目だ。



あぁ、そうか。


暗い地下の中、沈黙が続く。


「フリスク、その扉から離れなさい」


その声はひどく冷たく感じた。
そういわれても後ろは扉だし、すごい気迫を放つトリエルに近づけない。
間に挟まれて動きが取れない。


「フリスク」


また静かな声が地下に響く。
よく耳を澄ませばかすかに風の音が聞こえてくる。


動くことができない。


「………フリスクは…ここを出たいの?」


「……」


「今すぐそこを離れなさい」


「……どうして?」


「…………」


トリエルは答えようとしない。


……そこまでの関係だったのだろうか。


そう思ったがトリエルは口を開いて言葉を出す。


「私はここを出て行った子供たちを知っている。ここを出て行って…アズゴアに殺された」


「あなたもそうなってしまう。それでも出たいの?」


少し温かみを含んだ口調。


トリエルの顔を見る。
どうして僕はこのモンスターを心から信じることができていないのだろう。


思い出して。今まで過ごしてきた日々を。


僕は………。


トリエルが小さくため息を吐く。その音は地下の中反響してフリスクの耳に確実に届いていた。


あぁ、失望されてしまった。


自信を削がれてしまい、顔を下に下げる。トリエルと目を合わせることができない。
こういうときはついお守りを握ってしまう。
そうすれば多少は安心するから。


「…わかったわ。そこまでどくことができないのなら」


トリエルが足を広げ、両の腕を左右に構える。
明らかに戦闘態勢だ。


トリエルの手から赤とオレンジ色の炎が灯る。


「あ……」


ママと声に出そうとして、やめた。
ママと呼ぶ資格などもうないのかもしれない。


「いいわ、なら私に示しなさい!生き残れるだけの強さを!!」


トリエルが腕を薙ぎ払う。手に灯していた炎は真っすぐではないもののフリスクに飛んでくる。


「戦うか、逃げるかしなさい!」


フリスクはしゃがんで炎を躱した。まるで攻撃してくることが分かっていたかのように。


互いに目を合わせようとしない。
なんとも異質な光景だろう。


攻撃を躱しながらフリスクは考えていた。


[会うのが難しくなって…話す機会が少なくなって……そんなの考えたら…]


ナプスタが言っていた言葉。
僕はどうしたらいいのだろう?


生き残れるだけの強さを、とトリエルは言っていた。



なら、やることは一つだ。



*Determination



ポケットからサバイバルナイフを取り出す。
大丈夫。力を示すだけ、示すだけなんだ。


炎が止む。ナイフをトリエルに向かって切り裂く。
咄嗟に回避をされたため、空を切る音と服の破ける音が響く。


掠っただけか。


トリエルが眉間に皺を寄せ、険しい顔をする。


距離を取られ、また炎を繰り出す。
炎の動きは難しいようでパターンさえ見切れればどうということはない。


互いに言葉を交わさない。


炎が燃え盛る音とナイフが空を切る音だけが地下に響いていた。


もう一回攻撃するもまた掠るだけで終わる。


トリエルの表情を見ようとしないため、どんな顔をしているのかフリスクにはわからなかった。


まだ、まだ力を示せてはいないのか。


炎は止まない。
本当はこんなことしたくないんだよ。
早く攻撃するのを止めて欲しいんだよ。お願いだよ。
いつまで力を示さなくちゃいけないの?


躱しきれなかった炎は体に当たり、痛みが走る。


トリエルは僕の事、愛してくれていなかったのだろうか。
痛い。痛いよ。


体だけじゃなく、心まで痛くなってくる。
それと同時に攻撃された痛みと理解してくれないトリエルに対しての苛立ちがフリスクの中に生まれていることを本人は気づいていない。


勢いをつけて走り出し、もう一度ナイフを突き上げる。


さっきより刺さった感覚がある。



あと二回刺せば殺せる。
でもあと二回もやらないといけないのか。



思考が最初と変わっている。


それはフリスク本人の思考か、それとも他の誰かの思考か。


何度も炎に当たって疲労困憊になっている。
そのせいもあるのかもしれない。


炎はフリスクを避けている。なぜだろう?
そんなことどうだっていい。


力を示すとかもどうだっていい。
トリエル…いや、このモンスターは僕をもう見てはくれないんだ。


そんな奴、必要などない。
あいつらと同じ生き物だ。理由なく僕に嘘をついて、嫌って、痛みだけを与える存在なんてみんな消えてしまえばいい。


息を整える。モンスターを見据える。
表情は読まない。必要ないから。


モンスターは躱す気配がない。微弱な攻撃だと思っているのだろうか?
その隙を狙って大きくジャンプし、大柄なモンスターの肩から下腹部にかけて大きく切り裂いた。


ザシュッ


切り裂いた音が響く。


あと二発だと思っていた攻撃はあっけなく一回に変わっていた。


その時、フリスクは切り裂いたものの顔を見る。
大柄のヤギのモンスターが大きく目を見開いていてとても悲しそうな表情をしていた。


その様子はまるでスローモーションのようにゆっくりとフリスクの記憶に深く刻み込まれた。


………あれ?僕は一体何をやっているんだ?


宙に浮いていた足が地面に着く。


目の前ではモンスターが地面に膝をつけ、引き裂かれた体を手で押さえていた。


「そう、それでいいのよ…」


自分がしたことなのに茫然と立ち尽くしていた。


モンスターはその様子を見ていたが構わず話し続けた。


「私が思っていたより…あなたは強かったのね」


ハァハァを途切れ途切れに息をしていた。


「…いい?この扉を出たら真っすぐ、ひたすら歩いて行って…そこを抜けたら出口がある。私の知り合いがいるの…ここを出たら彼を頼りなさい…信頼できるモンスターよ」


え?待って。どういうこと?僕、一体なにをしたの?


混乱しているが、自分がなにをしたかわかっているのは間違いなく自分だ。
自分がどんな表情をしているのか、どんな感情を抱いているのかは理解できなかった。


そんな様子を見てか、膝をついているモンスターは安心させるかのように微笑んで言った。まるで子を想う母親のように。


「大丈夫…いい子でいるのよ…愛しい子」


「待って!ママ…!」


手を伸ばすも、モンスターの体が足からサラサラと塵に変わる。
それはすぐさま体全体を塵へと変え、背後にある扉から流れる風に揺られ消えていった。


目の前に逆さになったハート型のなにかがある。
それはガタガタと震えた後、二つに割れ、粉々になった。


伸ばした手が空を掴んだ。


…………。


何も考えられなかった。


踵を返し、大きな扉に手を伸ばす。


重々しい音とともに扉は開いた。


風が体に当たる。生温かい風だ。
長い廊下、進んでいく。気持ちとは裏腹に足は勝手に動いている。


廊下を抜けた先、暗い一室があった。


真ん中は光が届いているようで、そこに一輪の花がいた。


そして、フリスクをあざ笑うように言った。


「キャハハハハ!!こーろしたーこーろしたー♪キャハハ!なんとも素晴らしいよ!君は僕のこと分かってくれるんだね!そうさ!信じられるのは自分だけさ!ここでは殺るか殺られるかなんだよ!」


「それにしても哀れだよね、救おうとしていた奴に殺されて」


「彼女」


「死んじゃった」


「あぁ、それともなんだい?生かすほうのがつまらなかったから殺したの?」


顔を歪ませて高笑いをする金色の花。
蔓で顔を押え笑っている。


「あぁ、そうそう。一つ教えてあげるよ」


「神様はInvaderをとてつもなく嫌うんだよ。それがどうしたって?さぁね!教えなーい!キャハハハハハ!」


その言葉を残し、花は地中に潜っていった。


奥にはまた扉が見える。
力いっぱい押して開くと外の光が差し込んだ。





トリエル  FIGHT       end


トリエル戦FIGHT編です。
書くことないですね。ACT編を見てからこれを見ている方はどのくらいいるのでしょうか?
それならフラウィーの言う言葉も理解していますね?
お次はスノーフル編になります。ここから本番です。

トリエル ACT

それは、僕を見つめていた。


それはいつものような全てを包み込む瞳ではなかった。


それはいつも寄り添ってくれていたモンスターではなくなっていた。


僕を見るその目を僕は知っている。



失望の目だ。



「ママ、僕…わざとじゃないんだよ」


まだ小さな子供が体を震わせる。声を荒げたそのモンスターに声をかけたのだ。
あぁ…嫌わないで…。どうかトリエルだけは。


「フリスク、その扉から離れなさい」


その声はひどく冷たく感じた。
そういわれても後ろは扉だし、すごい気迫を放つトリエルに近づけない。
間に挟まれて動きが取れない。


「フリスク」


また静かな声が地下に響く。
よく耳を澄ませばかすかに風の音が聞こえてくる。


どこにも動くことができない。


「………フリスクは…ここを出たいの?」


「えっ……?」


先ほどとは少し落ち着いた声、それが多少でも心を落ち着かせる。
そんなこと考えなくたってその答えは出ている。


「どうしてそんなことを聞くの?僕はそんなつもりはないんだ!できることならママと一緒にいたいんだ!」


「なら、今すぐそこを離れなさい」


また冷たく言い放つ声。
さっきと状況が変わっていない。


怖い。トリエルが、じゃない。嫌われてしまうことが、今まで積み重ねてきた日々があっけなく鏡が壊れるほど簡単になくなってしまうことが、怖い。


「………」


一体なにを声に出せばいいだろう。
そもそも僕の声は彼女に届くのだろうか。


トリエルが目を閉じてため息をつく。その音は地下の中、反響してフリスクにもはっきりと聞こえてくる。
そのため息にぞわっと体の芯から冷たくなるようないやな鳥肌が浮き出る。


「そう…そこをどかないというのなら」


トリエルの瞳がゆっくりと開かれる。


「その扉は壊さなくてはいけません。ここを出ていくとあなたの命が危ないのよ」


彼女は何かを覚悟したように足を広げ、両の腕を前に突き出した。
明らかな戦闘態勢だった。


「それでも、あなたがそこをどかないというのであれば、私にその力を示しなさい!!生き残れるだけの力を!!」


「待ってよママ!話を聞いて!」


懇願する声を遮るようにトリエルの手のひらを赤とオレンジ色に光る炎が灯した。
そしてトリエルが地下の空気を斬るかのように腕を薙ぎ払う。


手のひらに灯った炎は真っすぐではないもののフリスクに向かってくる。


「!!」


とっさに左右へ体をしならせ、回避する。
突然のことだったし、まさか本当に攻撃してくるとは思っていなくて頬に炎が掠る。


一体どうすればいいんだろう。
トリエルは自分のことを嫌ってしまったのだろうか。



…………………。




ポケットのお守りを触る。




…………………………。




だめだよ、それに頼っちゃ。
トリエルはどんなことがあっても僕のママだろう?
それはあの日々が証明してくれる。


思い起こされるのはいつも僕を気にかけてくれる少しばかり過保護なトリエルだ


……うん。そうだね。



*決意



自分の声に自分で答えた。
まずは分析しないと。


トリエルはいつもとどう違って見える?
興奮しているようにも見える。汗もかいているようだ。
なにをそこまで焦っている?
聞いてみる必要がありそうだ。


トリエルの炎はまたこちらに向かってくる。


よく見ろ。よく見て、分析しろ。


攻撃するトリエルの顔を。攻撃してくる方向を。


今まで見てきたトリエルとどう違う?


…トリエルは目を合わせようとしない。
どうして合わせようとしないのだろう。


戦うか逃げる以外に道はないのだろうか?


………。


炎が止むのを見計らって話しかけた。


「ママ、僕、ママのこと好きだよ。」


トリエルはほんのわずか、体を震わせた。


「僕は、実を言うとここに来るまで誰にも想われたことがないんだ」


彼女は目をこちらに向けない。
まだ、まだ説得しないと。


「だからママと出会って誰も教えてくれなかったこと、僕の話を聞いてくれる誰かがいてくれること、とても嬉しかったんだ」


「だから」


「ちゃんと僕のことを見て。ちゃんと僕がここにいることをママだけでも知ってほしいんだ」


汗がにじんでいるようにも見える。
正直、僕だって過去を思い起こすのはとてつもなく嫌な事だ。


でもそれを上塗りしてくれたのは間違いなく目の前にいるトリエルただ一人だ。



トリエルはまだ炎を繰り出している。
まだ、目を合わせようとはしてくれないようだ。
炎が体に何度も当たる。熱くて痛くて、それなのに逃げようという気持ちも戦うという選択も起きることがなかった。


あともう少し、もう少し。


「ママ、落ち着いて、まだパイの作り方、マスターしてないんだ…また教えて欲しいんだ」


あと少し、あと少し。


「…やめなさい」


声が弱弱しい。


炎の痛みは感じられない。
それどころかトリエルはわざと炎に当たる事がないように攻撃している?
フリスクはトリエルから目を逸らすことなく訴えかける。


「ママ」


「やめて」


「ママ!」


「…………」


攻撃が、止んだ。


「……ハハハ…」


トリエルは上げていた腕を下ろし、顔を下に向けたまま、静かに声を出した。


「………殺るなら今よ」


トリエルは小さな子供のフリスクが殺しやすいように、と膝を床につけてしゃがみこんだ
その声と発言に多少、ゾワッとしたがフリスクはトリエルに近づいていく。


「もう、戻る事なんてできないのよ。こんな私を見て、失望したでしょう?憐れんだでしょう?」


一歩、また一歩とトリエルに近づく。


「私はここを出て行ったあとの子供たちを知っている。みんな死んでしまった。……アズゴアの手によって…」


フリスクの手がトリエルに触れられるまでの距離になる。


「情けないわね。子供ひとり、救おうとしてはから回って満足に救うこともできない」


トリエルが目を閉じて覚悟を決める。
するりと首元になにかがが巻き付くような感覚がトリエルを包み込んだ。
苦しくはない。むしろ温かさを感じるほどだった。


驚いて目を開けるとそこにはフリスクがいた。


トリエルを抱きしめていた。


「ママ、大好き。だからそんな悲しいこと言わないで」


その言葉に涙腺が緩んだか、ポロポロと大粒の涙が彼女の頬を伝ってフリスクのストライプシャツの落ちる。


「えぇ…えぇ…ごめんなさい、愛しい子…」



しばらく二人、地下の中抱きしめあった。



そしてトリエルが落ち着いたころ、抱きしめあっていた体を離し、トリエルの顔を確認する。
今まで亡くなった子供たちを想ってのことだっただろうし、目の周辺は当然赤くなっていた。


まだしゃくり声が残っているが、聞いてみる。


「ママ、大丈夫?」


「えぇ…情けないところを見せてしまったわね。これじゃあ母親失格かしら」


こう言う時は…。


「まぁ…そうだけど、本当に”骨”が折れたよね!」


…………………。


トリエルが顔を上げる。


……ジョークなんて分かるわけない。


なんとなく僕は気まずくなって顔を逸らす。


それに思い返せば今の発言はトリエルを侮辱しているんじゃないかと感じ、冷や汗も出てくる。


……………お願いだからなにか言って…。


「ふふふっ……」


トリエルが笑った。


その声に反応して顔を見る。やっぱり笑っている。


面白かったのだろうか?……どこが?
涙跡はあれど今度は声を大きくだして笑っている。


「あはは!おかしい!あなたってジョークのセンスがあるのね!」


どこが!?


…でも笑ってくれているならいいか。


トリエルの笑う姿が嬉しくて、僕も笑った。




「フリスク、あなたはどうするの?」


トリエルは僕に聞いてきた。


「どうするって?」


指を指す、その先に扉があった。


「あそこに進むの?」


そんなこと考えていなかった。
フリスクは考え込んだ。


その様子を見てか、トリエルは言った。背中を押すように。


「この先に私の知り合いがいるの。信頼できるモンスターよ。彼に頼るといいわ」


「ここはあなたには狭すぎるもの。もっと広い世界をみてきて。そしてその話を聞かせに戻ってきて。……約束…できる?」


小指を出してくる。
僕はなんの迷いもせず、自分の指を絡ませた。


「うん!!」


ゆびきり、げんまん。


今度はトリエルから抱きしめられる。
温かい。フリスクも抱き着いた。
この世界にたった一人しかいない母親に。
この時だけでも時間が止まってくれたらよかったのに。


名残惜しそうに体を離す。


今更ながら外へ行く不安がこみあげてくる。


そんなフリスクを察してか、優しく頭を撫でて、いつも見ていたあの笑顔でこう言った。


「いってらっしゃい」


僕はこの手に何度救われてきただろう。


決意が満ちる。


最後は僕なりの特別な笑顔を彼女に向けた。


「行ってきます!」


扉を開ける。もう振り返らない。


重々しい扉とともに扉は閉まった。


扉の先は先ほどの地下の構造と一緒だ。
長い廊下。
少しばかり風が入ってくる。砂漠だからか冷たくはない。生ぬるいだろうか。


先を抜けると、そこは暗い一室。


そこに、フラウィーがいた。


「ハウディー!」


「いやー賢い賢い。ホントにおりこうさんだなぁって自分でも思ってるんでしょ?わーすごいさすがだよー」


明らかに心の籠っていない口調だ。


「今回は殺さずに済んだけれど、死んで死んで死に飽きちゃった時、キミは一体どうするんだろうね…?」


「この世界はね、殺るか殺られるかなんだよ?…それともなに?殺した罪悪感でもあった?」


「まぁいいや、一つアドバイスすることがあるんだよ」


フラウィーが一呼吸整えて、言った。


「神様はね、invaderが大っ嫌いなんだ」


invader?インベーダーとはどういう意味だろう?


「アハハ!意味なんて教えないよーだ!このことはお前がよく知ってるだろ?…ともかく!僕は見てるからね」


フラウィーは不気味な笑い声をあげながら地中へ潜っていった。


顔を上げるとそこには出口がある。


近づいて手に触れさせて思い切り力を入れて扉を開く。
空いた扉の隙間から光が舞い込んだ。





トリエル    ACT       end


トリエル、ACT編終了です。
今回のはトリエルとフリスクに信頼関係があったからこそできたことです。
原作とはだいぶ違ったSANDTALEらしくなってきました。
ruinsが出てからが勝負どころです。

ruins  帽子を被ったあの子


あんなことがあったせいか、気分もあまりよくない。


ベッドから降りて、いつものストライプのシャツを着る。
寝すぎてしまったせいもあるのかな。そう思いながら、部屋を出る。


リビングではトリエルがスープを作っていた。
パイを作っていないのは珍しい。


部屋の中はふんわりと優しい香りが充満していた。


トリエルが振り向いてフリスクを認識する。


そしていつものように微笑んだ。


「おはよう、フリスク。朝ごはんはできてるわ。まずは顔を洗ってきなさい」


「うん、おはよう、ママ」


なんとなく会話がぎこちないのは昨日のせいだろう。


あんなことは初めてだったから、互いにきまずい。


洗面所がないので、キッチンで顔を洗うことにした。
蛇口をひねれば、透明な色の水が出てきて、手で水を掬い、顔を洗う。
砂漠なのに、水がでる理由。それはトリエルが雨を降らせているから聞いていた。
この砂漠の世界で水は貴重だ、トリエルの恩恵ははすごい。
昨日出会ったフロギットもその雨の恩恵を受け生きていられるようだ。
カエルの姿なのだから水がなければ生きられないのだから当たり前か。


ともかく、トリエルはとてもすごいモンスターなようだ。


僕は、ここにいてもよいのだろうか?
トリエルは自分の子のように愛してくれるけれど、こんな僕で本当によいのだろうか。


そんなことを考えながら水に濡れた自分の手を見やる。
あぁ…本当に…いいのかな。


側にあるタオルで顔を拭いた。
すっきりしているのかしていないのかわからない顔が鏡に映る。
にっこりと鏡に向かって笑ってみせる。
笑え……ているのか?
もともと薄目だし、口角が上がっているようにも見えない。


目を開いてみる。
そこには浅緑色の瞳が映っていた。
目が鏡と反射して自分の顔が映り込む。
うん。やっぱり言われた通りだ。僕の目つきはあまりよくない。
それで何度もみんなから嫌われてきたから仕方ない。
自分の……いや、思い出すのはやめよう。


いつもの薄目の自分に戻る。


こっちのほうがみんなから嫌われないだろうし。


リビングに戻る。
トリエルがお皿にスープを盛ってくれていた。いつもの優しい顔。


「さあ、食べましょう?」


子供用の椅子に座る。トリエルは僕の斜めの席に座る。
スープにはソーセージとトリエルが自家栽培しているという野菜たち。カタツムリは…はいっていないようだ。


「いただきます」


手を合わせる。食べるときはそうするんだって教えてくれた。
スープを口に運ぶ。


おいしい。どんな味かといわれるとよくはわからない。
でも安心する味だ。


…会話…。なにか会話になるもの…。



……………。


……………………。



なんにも思いつかない。


………いろんなことをしてきたせいか。


心も気分もあまり乗る気ではないようだ。


スープもおいしいはずなのに、味気なく感じてしまう。


トリエルが食事を終えた。


「ごちそうさま」


そういって手を合わせている。


「フリスク、今日は地下にいるから、なにかあったら大声で呼んでね。地下には降りてきちゃダメよ?」


少し気になったことを聞いてみようか。


「前から思ってたんだけどどうしてダメなの?」


僕の質問にトリエルは少し焦っているような表情を見せている。
何か、悟られたくないような、そんな表情。


「ほら、地下は散らかっていてほこりっぽいし、風も入ってくるから気温差もあるし
風邪をひいてしまうわ」


風?地下に?


「ともかく!おうちでよい子で過ごしてね。お皿はテーブルに置いたままでいいからね」


片付けを終えて早々に地下へ降りて行ってしまった。


まだ、スープは残っている。
残すのも癪だと思い、口の中にかきこんだ。


「ごちそうさま」


手を合わせて食べ物へ感謝の言葉を告げた。
言われた通り、お皿とスプーンはテーブルは置いたままにした。


さて、今日は何をしよう?棚の本はカタツムリの本や勉強用の教科書。
教科書で勉強するとトリエルは喜んでくれるが、僕はあんまり勉強は好きじゃない。


もう一度、外へ行ってみようかな。
また、モンスターに会うかもしれないけれど、逃げていれば大丈夫だろう。


HOMEにいることに飽きてしまったから、刺激を求めるのは当然といえば当然だった。


お守りは使わない。


そう決めて、HOMEのドアを開いた。


外は太陽が顔を出していた。雲が一つもない。直射日光が暑い。
昨日はフロギットに意識が向いていて、周囲に目が向かなかったが、HOMEの外壁は薄目のピンク色でかわいらしい清楚だった。
地面はHOMEと同じ色の石畳。その上はどこにでも散らばる砂がかかっている。
ところどころに薄い茶色の大きな岩があり、これは、遺跡の後だろうか、HOMEと同じ色の柱が欠けたまま残っていた。


石畳の上を歩かなければ間違って砂に埋まってしまうかもしれないな。


石畳の道を進むことにした。


ここに来た時のスニーカーのままだから砂が入るのは致し方ない。


進んでいくとビニールでできた家がある。
あれは、なんだろう。覗いてみるとそこには色々な野菜が植えられていた。
砂漠のなかでも生きられる植物のようだ。
とげとげとしているもの、茶色のような黒に近いような色をしたとても堅いもの。黄金色のような葉っぱ、様々だ。


少し見ただけで十分だ。ここに興味はあまりわかない。


違う所へ行こうとすると、何かが砂を踏む音が聞こえた。


僕はなにも見ないように急いでその場を離れることにした。
また昨日のようなことは嫌だったからだ。


しばらく走っただろうか。
モンスターに会いたくなくて走って来てしまったがここがどこか全く見当がつかない。
走りすぎてしまったようだ。


大きすぎる岩のせいで周辺を見ようにも視界が遮られる。


とりあえず岩の形を頼りに進んでいくしかないかと思いながら来たであろう道を戻っていく。


……わからない。


ここは一体どこだろう。


完全に迷子になってしまったようだ。


途中、羽の生えた大きな虫と一つ目のモンスターに出くわして逃げたり、野菜かと思ったらモンスターで、逃げて逃げてを繰り返していたらこんなことになってしまった。


疲れて、岩の日陰にいく。
足を動かしていても考えてしまうのだが、動かしていないとなると余計に考え込んでしまう。


このまま、家に帰れなくなったらどうしよう。
そんな言葉が思いながらも進んでいく。


帰れなかったら?もう二度とママに会えなかったら?
あの優しい笑顔を見ることができなくなったら?あの白い毛で包まれたふわふわした手と腕で頭を撫でられることも抱きしめてもらうこともできなくなってしまったら?


なぜか鼻がつーんとして、熱くなってくる。
あんな言葉を最後にして、もう会えなくなってしまったら?


目から水が流れて口のところへ流れていく。しょっぱい。



「ううぅ……。」



うずくまり、顔を腕で隠して一人で泣いた。
ママの言っていたことを守らなかったから。


後悔して後悔してを頭の中、繰り返す。
心まで苦しくなってきているようで鼻水もとまらず、呼吸も苦しくなってくる。


それにかかわらず、空はいまだ攻撃的な日の光を放つ。


「あ………君…大丈夫……?」


おどおどとしているような声が聞こえた。


モンスターか…?
逃げないとと思う気持ちがないのは心が弱っているからだろうか、なんの気力もない。


「……あぁ………そうだよね…ごめん、そんな気分じゃなかったよね……」


ずいぶん弱弱しい声だ。
ほんの少しだけ顔を上げてみる。


…?
白い。それと少し透けている…?


「…どうしよう……どうしたらいいかわからないや……あぁ…どうしよう…まだ泣き止んでくれない…こういう時メタトンがいてくれたら…」


その白い物体から、なにかが落ちる。水滴?
泣いているのだろうか?泣いているのはこっちだってそうなのに。


「あ…そうだ。これならどうかな…」


そう言うとなにやらいそいそと何かをしている。


でもまだ僕は嗚咽が止まらなくて、ボロボロと目から水が流れていく。


「みて…これ、ヒヤリハットって言うんだ」


…………。


反応を楽しみにしているのは伝わるのだが、まだ顔をあげられる状況ではないようだ。


「ヒヤリハットだとダメだった……?じゃあおしゃれブルックに改名するよ………」


どうやら慰めてくれているようだ。
エグッと鳴る情けない嗚咽を何とか我慢しながら頑張って声のするほうへ目を移す。


真っ白な体で手足がない。大きな目に穏やかな顔をして、ヒヤリハットもといおしゃれブルックと名乗っていたであろう茶色で黒いラインの入ったのソフトハットの帽子。カタツムリのバッジがついている。お化けというにふさわしいモンスターだった。


「あ……。………大丈夫?」


フリスクよりも1.5倍ほど大きいだろうか。


「ごめん、なにか食べ物でもあったらよかったんだけど何にも持ってなくて…あぁ…ほんと僕って…」


励ましているように聞こえるのにずいぶんとネガティブな発言ばかりする。
それに帽子がお化けなのに妙に似合っていた。


あれだけ悲しくて苦しかったはずなのに、なんとなくおかしいという気持ちになっていた。


涙はいつの間にか止まっていた。


「………泣き止んだ…?落ち着いた……?」


お化けが顔を覗き込む。フリスクの表情を読み取ろうとしているようだ。


………………。


しかし、お互いどんな感情を抱いているのか顔を見ただけでは全く見当がつかなかった…!


「君、どこからきたの?…あ……初めましてがまだだったよね。僕はナップスターブルックっていうんだ…」


沈黙の時間が長かったせいか、このナップスターブルックというお化けに気が抜けたからか気持ちは落ち着いていた。
声を出すことができそうだ。深呼吸をして声を出す。


「僕は、フリスク」


「フリスク…フリスク……うん、覚えた。君はどうしてこんなところにいるの…?」


「迷子になっちゃって…おうちに帰りたいのに道がわからないんだ」


またじわっと目頭に涙がでそうになる。


「そうなんだ…僕、よくここに来るから道案内できるよ…おうちっていったらあそこかな…?一緒に行く?…この辺に君ぐらいの大きなおうちはあそこしかないから……」


「本当に!?」


一気に顔をナップスターブルックに向ける
いきなりなものだからびくっと体を震わせていた。


「う………うん……急いだほうがいいよね。ついてきて…」


「うん!…ねぇ、ナップス……じゃ長いからナプスタって呼んでもいい?」


「…! うん、好きに呼んでよ」


一緒にHOMEに着くまでいろんな話をした。
曲を聞いたり作ったりするのが好きな事、アイドルをしている友達の話、家に遊びに来てもいいよという話を。


途中、モンスターがところどころにいたが、ナプスタと一緒にいたおかげか襲ってくることはなかった。


そして、信じられない光景が映ったのだ。
あのカエル、フロギットが目の前にいた。


「! フロギット?」


「…? 知り合い?」


なんでこんなところにいるのだろう。まさか僕に会いに来たのだろうか?


いや、違う。同じなように見えてほんのちょっぴり大きさが違う。


あの時のフロギットとは違うようだ。


ゲコゲコと鳴き声を出している。


どんな事をいっているのかよく耳を傾けて聞いてみた。そうでなければ聞き取れないのだ。


えっと…いつも…気弱なあいつ……同じフロギット…いない……どこにも…。



………………。



そっかそっか。
本当にどこにいったんだろうね?


踵をかえしてナプスタのところへ行く。


「もういいの…?楽しくお話…僕も入りたかったな…」


「ごめんごめん、でも早くおうちに帰らないといけないからさ」



HOMEへ向かう。
もう家はすぐ近くだ。



でも、何となく帰りにくい。


「…あのさ、ナプスタ」


「ん…?」


「なんか、昨日から、ママと話すのが気まずいんだ。どうしたらいいんだろう」


ナプスタはうーーんと唸って、こう言った。


「よくわからないけれど、会うのが難しくなって…話す機会が少なくなって……そんなの考えたら……なんか…言葉がうまくまとまらないや…ごめんね……」



もう会うのが難しくなったら…話す機会が少なくなって…か…寂しいなあ…。


「うん、わかった。頑張って話してみる」


「そっか……よくわからないけど…力になれてよかった…」



HOMEに着く。薄いピンクの家。うん、ここだ。


「ナプスタ…ありがとう。お別れだね。また会えたら今度は遊ぼうよ」


「うん、楽しみにしてるね…今日はいい人に出会えた…じゃあねフリスク」


そういうとナプスタはスーッと消えていった。
完全に姿を消すのを見送ったあと、僕は決意を抱く。


今日はママといっぱい話そう。楽しいことをしよう。


HOMEに入る。


「ママ!ただいま!」


挨拶をするも返事がない。
リビングで本を読みながら寝ているのかと思うもいない。部屋にもどこにもいない。
キッチンを見てみる。いない。そこにはいつものバタースコッチシナモンパイが切り分けられていた。


あ、一切れ持って行ってあとで食べよっと。
ラップでパイを包んで持っていく。あとでおやつとして食べよう。


地下にいるのかな?
大声で呼んでって言っていたはず。


「ママーーー!!」


反響する自分の声が響く。


聞こえていないのかな?
地下に降りてみることにした。暗い。壁につけられた光だけが頼りだ。


そういえば、地下に風が入るとトリエルは言っていた。
矛盾している言葉をフリスクが聞き逃すはずがなかった。


だから、ほんの少しわくわくしていた。一体なにがあるのだろう。
もしかしたら地下は洞窟でとてつもなくすごいお宝が隠されているのかもしれないと気持ちが昂る。


っとその前にママにちゃんと昨日はごめんなさいって謝らないといけない。
ここにいるといいのだけど。


進んでいく。とても長い廊下。
その先にあったのはとても大きな扉だった。


なにかの紋章が書いてある。
真ん中に丸があって左右に翼のようなもの、下に三つの三角。


不思議とは思うが思い返すとトリエルもこの紋章と同じ服を着ていたような気もする。


扉に手を触れようとした。その時だった。


「なにをしているの!!!」


突然の大声に体が想像以上に跳ね上がる。
この声は聞き覚えがある。
いや、こんなに声を荒げることなんてないはず。


違っていてほしい。そう願って振り返るもその願いはすぐに壊された。


そこにいたのは、とても悲しそうに僕を見つめるトリエルだった。




ruins          帽子を被ったあの子  end



次回、トリエル戦です。
途中のフロギットでみなさんはどう思ったのでしょうね?
ひとそれぞれ…ですよね?
それはそうとナプスタくんが出ると「…」を使う率が高い高い。
トリエル戦もFIGHT、ACT編を書かせていただきます。
欲張って両方みるのは良いですが今回のフロギットのときの気持ちのようになることを考えてくださいませ。