それは、僕を見つめていた。
それはいつものような全てを包み込む瞳ではなかった。
それはいつも寄り添ってくれていたモンスターではなくなっていた。
僕を見るその目を僕は知っている。
失望の目だ。
あぁ、そうか。
暗い地下の中、沈黙が続く。
「フリスク、その扉から離れなさい」
その声はひどく冷たく感じた。
そういわれても後ろは扉だし、すごい気迫を放つトリエルに近づけない。
間に挟まれて動きが取れない。
「フリスク」
また静かな声が地下に響く。
よく耳を澄ませばかすかに風の音が聞こえてくる。
動くことができない。
「………フリスクは…ここを出たいの?」
「……」
「今すぐそこを離れなさい」
「……どうして?」
「…………」
トリエルは答えようとしない。
……そこまでの関係だったのだろうか。
そう思ったがトリエルは口を開いて言葉を出す。
「私はここを出て行った子供たちを知っている。ここを出て行って…アズゴアに殺された」
「あなたもそうなってしまう。それでも出たいの?」
少し温かみを含んだ口調。
トリエルの顔を見る。
どうして僕はこのモンスターを心から信じることができていないのだろう。
思い出して。今まで過ごしてきた日々を。
僕は………。
トリエルが小さくため息を吐く。その音は地下の中反響してフリスクの耳に確実に届いていた。
あぁ、失望されてしまった。
自信を削がれてしまい、顔を下に下げる。トリエルと目を合わせることができない。
こういうときはついお守りを握ってしまう。
そうすれば多少は安心するから。
「…わかったわ。そこまでどくことができないのなら」
トリエルが足を広げ、両の腕を左右に構える。
明らかに戦闘態勢だ。
トリエルの手から赤とオレンジ色の炎が灯る。
「あ……」
ママと声に出そうとして、やめた。
ママと呼ぶ資格などもうないのかもしれない。
「いいわ、なら私に示しなさい!生き残れるだけの強さを!!」
トリエルが腕を薙ぎ払う。手に灯していた炎は真っすぐではないもののフリスクに飛んでくる。
「戦うか、逃げるかしなさい!」
フリスクはしゃがんで炎を躱した。まるで攻撃してくることが分かっていたかのように。
互いに目を合わせようとしない。
なんとも異質な光景だろう。
攻撃を躱しながらフリスクは考えていた。
[会うのが難しくなって…話す機会が少なくなって……そんなの考えたら…]
ナプスタが言っていた言葉。
僕はどうしたらいいのだろう?
生き残れるだけの強さを、とトリエルは言っていた。
なら、やることは一つだ。
*Determination
ポケットからサバイバルナイフを取り出す。
大丈夫。力を示すだけ、示すだけなんだ。
炎が止む。ナイフをトリエルに向かって切り裂く。
咄嗟に回避をされたため、空を切る音と服の破ける音が響く。
掠っただけか。
トリエルが眉間に皺を寄せ、険しい顔をする。
距離を取られ、また炎を繰り出す。
炎の動きは難しいようでパターンさえ見切れればどうということはない。
互いに言葉を交わさない。
炎が燃え盛る音とナイフが空を切る音だけが地下に響いていた。
もう一回攻撃するもまた掠るだけで終わる。
トリエルの表情を見ようとしないため、どんな顔をしているのかフリスクにはわからなかった。
まだ、まだ力を示せてはいないのか。
炎は止まない。
本当はこんなことしたくないんだよ。
早く攻撃するのを止めて欲しいんだよ。お願いだよ。
いつまで力を示さなくちゃいけないの?
躱しきれなかった炎は体に当たり、痛みが走る。
トリエルは僕の事、愛してくれていなかったのだろうか。
痛い。痛いよ。
体だけじゃなく、心まで痛くなってくる。
それと同時に攻撃された痛みと理解してくれないトリエルに対しての苛立ちがフリスクの中に生まれていることを本人は気づいていない。
勢いをつけて走り出し、もう一度ナイフを突き上げる。
さっきより刺さった感覚がある。
あと二回刺せば殺せる。
でもあと二回もやらないといけないのか。
思考が最初と変わっている。
それはフリスク本人の思考か、それとも他の誰かの思考か。
何度も炎に当たって疲労困憊になっている。
そのせいもあるのかもしれない。
炎はフリスクを避けている。なぜだろう?
そんなことどうだっていい。
力を示すとかもどうだっていい。
トリエル…いや、このモンスターは僕をもう見てはくれないんだ。
そんな奴、必要などない。
あいつらと同じ生き物だ。理由なく僕に嘘をついて、嫌って、痛みだけを与える存在なんてみんな消えてしまえばいい。
息を整える。モンスターを見据える。
表情は読まない。必要ないから。
モンスターは躱す気配がない。微弱な攻撃だと思っているのだろうか?
その隙を狙って大きくジャンプし、大柄なモンスターの肩から下腹部にかけて大きく切り裂いた。
ザシュッ
切り裂いた音が響く。
あと二発だと思っていた攻撃はあっけなく一回に変わっていた。
その時、フリスクは切り裂いたものの顔を見る。
大柄のヤギのモンスターが大きく目を見開いていてとても悲しそうな表情をしていた。
その様子はまるでスローモーションのようにゆっくりとフリスクの記憶に深く刻み込まれた。
………あれ?僕は一体何をやっているんだ?
宙に浮いていた足が地面に着く。
目の前ではモンスターが地面に膝をつけ、引き裂かれた体を手で押さえていた。
「そう、それでいいのよ…」
自分がしたことなのに茫然と立ち尽くしていた。
モンスターはその様子を見ていたが構わず話し続けた。
「私が思っていたより…あなたは強かったのね」
ハァハァを途切れ途切れに息をしていた。
「…いい?この扉を出たら真っすぐ、ひたすら歩いて行って…そこを抜けたら出口がある。私の知り合いがいるの…ここを出たら彼を頼りなさい…信頼できるモンスターよ」
え?待って。どういうこと?僕、一体なにをしたの?
混乱しているが、自分がなにをしたかわかっているのは間違いなく自分だ。
自分がどんな表情をしているのか、どんな感情を抱いているのかは理解できなかった。
そんな様子を見てか、膝をついているモンスターは安心させるかのように微笑んで言った。まるで子を想う母親のように。
「大丈夫…いい子でいるのよ…愛しい子」
「待って!ママ…!」
手を伸ばすも、モンスターの体が足からサラサラと塵に変わる。
それはすぐさま体全体を塵へと変え、背後にある扉から流れる風に揺られ消えていった。
目の前に逆さになったハート型のなにかがある。
それはガタガタと震えた後、二つに割れ、粉々になった。
伸ばした手が空を掴んだ。
…………。
何も考えられなかった。
踵を返し、大きな扉に手を伸ばす。
重々しい音とともに扉は開いた。
風が体に当たる。生温かい風だ。
長い廊下、進んでいく。気持ちとは裏腹に足は勝手に動いている。
廊下を抜けた先、暗い一室があった。
真ん中は光が届いているようで、そこに一輪の花がいた。
そして、フリスクをあざ笑うように言った。
「キャハハハハ!!こーろしたーこーろしたー♪キャハハ!なんとも素晴らしいよ!君は僕のこと分かってくれるんだね!そうさ!信じられるのは自分だけさ!ここでは殺るか殺られるかなんだよ!」
「それにしても哀れだよね、救おうとしていた奴に殺されて」
「彼女」
「死んじゃった」
「あぁ、それともなんだい?生かすほうのがつまらなかったから殺したの?」
顔を歪ませて高笑いをする金色の花。
蔓で顔を押え笑っている。
「あぁ、そうそう。一つ教えてあげるよ」
「神様はInvaderをとてつもなく嫌うんだよ。それがどうしたって?さぁね!教えなーい!キャハハハハハ!」
その言葉を残し、花は地中に潜っていった。
奥にはまた扉が見える。
力いっぱい押して開くと外の光が差し込んだ。
トリエル FIGHT end
トリエル戦FIGHT編です。
書くことないですね。ACT編を見てからこれを見ている方はどのくらいいるのでしょうか?
それならフラウィーの言う言葉も理解していますね?
お次はスノーフル編になります。ここから本番です。