目が眩む。きっと暗い一室から扉を開けた時、光で目を傷めたのだろう。
…本当に目が開かない。眩しすぎる。
5秒ほどだろうか、閉じていた瞳をなんとか開ける。
地面が、白い。
雪、にしてはさらさらとしている。これは砂か?
でなければおかしい。ここは暖かい、いやむしろ暑すぎる。
この暑さの原因はおそらく太陽のせいだろう。
ナプスタと出会った場所より凹凸が少ない。
それどころか歩きやすいようにも見える。
だが光は白い砂と反射して上からも下からも直接目に攻撃してくるかのようだ。
風が吹いて砂を巻き上げる。
「いっ……」
火傷跡に砂がかかった。あの時はあまり痛みを感じなかったのかもしれない。
今になって痛みが襲う。
風は思っていた以上に強く、砂が舞い上がりフリスクにかかるたび、傷が痛む。
どこか早く屋内に入らないと、痛くて仕方がない。
フリスクは白き砂舞う砂塵を急ぎ足で進んでいく。
帽子も何もつけていない、最初に砂漠に来た時と全く同じ服装。
「なんだがこういうの前にもあったなぁ。」
まるで他人事のように呟く。周りには誰もいない。
そう、思っていた。
向かい風の砂煙でよく見えないが茶色のマントを着ている誰かがこちらを見ていたのだ。
「……あ…どうしたの…?……!!」
何かに驚いているようだ。顔がよく見えない。
「きみ!人間!? あ!! ひどい怪我してる!」
可愛らしい声だ。女の子だろうか?
誰かが僕に近づいてくる。遠ざかろうにもHOMEから出て、トリエルと戦って、今に至った疲労からなのか足が動かずにいた。
今、この場で攻撃でもされたらもう立ち上がることはできないだろう。
近づいてくる誰かに抵抗することなく覚悟を決める。
目の前で砂を踏む音がする。
あぁ、もうだめだ。
…?
ガサゴソと何かをしているようだ。
自分の左右で手の気配を感じる。下に向けていた目をぎゅっと瞑った。
ふわっ
なにかが僕を包んだ。
?
なにが起きた?
「待ってて!今、パピルスとサンズを呼んでくるから!」
そう言うと女の子?は踵を返して走っていったようだ。足音が遠ざかっていく。
状況を整理する。
これはマントか?
多少の砂埃は防げそうだ。茶色い色をしている。さっきのモンスター?がくれたものだろうか?
なんというか…外は暑すぎるくらいなのに、胸の辺りが温かくなっているような感覚だ。
眠たい。
それに蹲っていれば、砂が傷に当たるのも防げる。
あとは、ただただ疲れた。
フリスクは膝をついたままマントで隙間に砂が入らないように全体を覆い、体をうつ伏せにして丸め込んだ。
少し眠ろう。疲れた。
理由も、なにもかも考えたくない。
マントに包まれたまま、目を閉じた。
眠るに時間を使うことなくゆっくりと夢の中に入り込んだ。
温かい。これは最初にHOMEで眠っていたのと同じ感覚を思い出す。
後頭部はふかふかとしていて、体は布団かなにかで包まれている。
ここは室内のようだ。
目をゆっくりと開き、首を動かすと窓が見えた。
窓から外を伺うと日はすっかりと落ちていて真っ暗な夜になり、星々がところどころ大きく光っていたり、小さく光っていたりとキラキラを輝いていた。
体を起こす。どのくらい眠っていただろう?
頭の中がすっきりとしているとしていて、思考がきちんと働いていてよく眠った気がする。
もう一度周りをよく見る。窓の横に扉があってその逆の隣には、ずいぶんと大きいサイズのパソコンが置いてある。
自分が眠っていたであろうベッドのよこのテーブルには桶とたくさんのフィギュアがある。
しかも服はそれぞれ違うのに顔が似ている。
一番に多いのはオレンジのスカーフに黄色のバンダナを付けているものだが、ほかにもオレンジのパーカーをきたもの、人相の悪いもの、トリエルが着ていたローブによく似た服を着たもの、様々だ。
ベッドをよく見るとなにやらファンタジーにでてくようなベッドだ。
切株や草原など木の模様が描かれており、布団はウサギ模様でとても可愛らしい。
僕はここに連れてこられたようだ。
タオルが近くに落ちている。まだ冷たい。火傷跡に当てていたものだろうか。
状況が整理出来てきたころ、窓の隣のドアとは反対側のドアの向こうからなにやら声が聞こえる。よく聞き取れない。
行ってみようかな。
幸い、まだ痛むものの気にするほどじゃない。
ファンタジーなベッドから降りて声のするほうへ進んでいく。
「キャラ!もういい加減寝ないといけない時間なんだぞっ!俺様が人間の面倒を見るからキャラは寝なさーいっ!」
「いやーーー!!私が見るのーーー!!パピルスだって早く寝ないとお化けに連れていかれるんだからね!サンズがそう言ってたもん!!」
「にぇっ……!?お化け…!?ふ…ふふん、そんなこと言ったって俺様は驚かないぞ!」
なにやら喧嘩しているようだ。
ドアをほんの少し開けようとする。
「よう、人間」
!?
部屋の中が静かすぎただけに普通に話すはずの声量に体がびくっと跳ねる。
声をかけられた。しかも後ろから。誰もいなかったし、物音だって聞こえなかったはずなのにどうして後ろから声がするんだ…?
「こんな夜中に起きてるとは、どうやら俺に連れていかれたいようだな?」
もしかしてさっきの二人が話していたお化けなのか…?
ってことはこんな遅くに起きている僕は連れていかれてしまうのか…?
体の指先から冷えて動悸が止まらない。なにかに血を抜かれていくような気持ち悪い感覚。どうしたらいいんだ。
後ろで足音が聞こえた後、耳元で息を吐く音がする。
「まぁ、そんなに怯えるなよ。ここでのあいさつの仕方を教えてやる」
「こ っ ち を む い て 俺 と 握 手 し ろ」
バァァァン!!
一気にドアを開いて全速力で逃げようとする。
逃げ道はどこ!?
ドアを出てすぐの階段を降りていくと先ほど大声で喧嘩していた二人が驚いた顔でフリスクを見ていた。
そんな二人の間をを遮って走る。ドアがある!あそこから逃げれる!
「heh 逃げられると思ったか?」
青色のフードを深めに被った人物が行く手を阻んだ!
この声はさっきのお化け……どうしよう連れていかれちゃう!
他に逃げ道は…だめだどこにもない!なら窓から逃げれば…!
あぁぁぁぁ取っ手がないから開けられない!!
慌てふためいて必死に逃げ道を探すフリスクを見て、なにやら楽しそうにしているお化け。
「…サンズ、俺様が怒る前に、人間をからかうのはやめた方がいいと思うぞ」
後ろにいる、喧嘩していただろう人物がフードのお化けに言った。
「はいはい、分かったよ。パピルスは怒ると怖いもんなー」
フードのお化けは少しだけフードを手で後ろに下げると顔が見えてきた。
白い肌ににやりと笑う口元、目は僕よりも大きく、空洞になっているようでそこから白い目が見える。それに手も白い。骨…?
「悪かったなちびっこ。脅かすつもりはなかったんだよ」
「またそんなこと言って!誰かで遊ぼうとするそういうとこ、俺様嫌いだからな!」
「はいはい」
え?お化け…じゃないの?あれ、でもお化けっぽいよね?
だって骨だし、脅かしてきたし…?
意味の分かっていないフリスクを放って会話する二人。
青いフードを被った方がサンズ、だろうか。
青緑色のマフラーがまず最初に目について、青いフード付きのマントで右腕を隠し、中に藍色の大きいチャックが特徴的なパーカーを開けてその中に白い服を着ている。黒のズボンに同じ黒色のブーツに入れている。
後ろを振り返る。そこには背の高い骨の姿をしたモンスターがいた。
このモンスターがパピルス、だろうか。
オレンジのスカーフに黄色いバンダナ、白いTシャツの鎧…?に赤いパンツを履いている。へその部分だろう場所までは白い鎧?で隠されていない。黒いインナー、赤い手袋とブカブカのブーツを着ているようだ。
部屋に会ったフィギュアと同じ姿だ。それに僕をあのサンズというモンスターから助けてくれた。そのせいか、まるでヒーローにでも会ったような気分になる。
パピルスの服装を下まで観察していると彼の後ろに隠れて足をぎゅっと掴んでいる女の子の姿があった。さっき言っていた、キャラという子だろうか?……人間?
薄茶色の髪、部屋の光に反射して輝く赤い色の瞳、頬はほんのり赤いように見える。薄水色のワンピースには黄色い線の横縞模様が一本、デザインされている。
黒いタイツに茶色の膝下までのブーツを履いている。
フリスクの顔を見るなり、女の子は思い出したように顔を赤らめて顔を下に向けてしまった。
力強く足を掴んでいることに違和感を覚えたパピルスが足元の少女に声をかける。
「キャラ、どうしたんだ?あの人間と友達になりたいんじゃないのか?」
「…………」
「お年頃ってやつかもな。こういうのは出来れば手を貸してやるのが一番なのさ。なぁ人間、お前さん名前はないのか?」
サンズがフリスクの目を真っすぐ見て質問する。
あまり真っすぐと見られたことがないから多少違和感を覚えるも嫌ではない。
だから僕もサンズの目を見てちゃんと答えることにした。
「僕の名前は、フリスク」
「フリスクか…なかなか変な名前だな?」
「サンズ!!名前を馬鹿にするな!ちゃんと名前っていうのは気持ちや意味が込められていたりするんだよッ?」
「はいはい」
おちゃらけた態度をとるサンズとそれを叱るパピルス。
骨と骨…。兄弟なのだろうか。
兄弟か………。
もう一度、視線を少女に向ける。
どうやらフリスクが骨兄弟を見ている間にこちらの様子を伺っていたが、目が合うとまたすぐに下を向いた。
思い出してみる。HOMEを出た後、駆け寄ってマントをくれた声とさっき喧嘩していた声、よく思い出してみるとやはり同じ声だ。
ということはこの子が僕を助けてくれたのだろう。
歳は僕と同じくらいだろうか?
……まだ目を合わせてくれない。嫌われること、僕の知らないうちにしちゃったかな?
いや、それはないかな。寝相はいい方だし、さっき喧嘩してるとき「私が面倒みる」って言っていた。あれはきっと僕のことだろう。
「あ! そうだ!」
なにかを思い出したような顔をしたパピルスがフリスクのほうに体を真っすぐと向けて、
んんッと咳払いしてからはきはきとした声を出す。
「挨拶が遅れたな!フリスク、俺様はあの有名なロイヤルガードの一員!パピルス様だッ!そんな偉大な団員の一人に出会えるなんてお前は幸運の中の幸運…大幸運だ!さぁ、光栄に思えッ!」
「……あ…うん。すごいね…」
なんか…そんなキラキラした目と嬉しそうな表情で言われてもそんな言葉しか出てこない。
「ふふん!グレートすぎる俺様に言葉が出ないのか?これはもうさすがに俺様でも自惚れてしまうくらい誇らしいことだッ!…でもまだ下っ端だし、アンダインからはお前は”ますこっと”だからお前は何もしなくていいって言われてるけどね。…”ますこっと”ってなんだろうね?」
僕に対して質問しているように聞こえてくる。
「わかんない」
とりあえずそう返す。だって本当にわからないし。
二人の会話を聞いてプクククと笑う声がする。サンズだ。
笑われていることに気づいてパピルスはムッとした顔をする。
そのことに気づいたサンズはなんとか笑うのを堪えてフリスクに向かって挨拶する。
「プッククク…………はぁ、面白かった。…あぁ、俺はサンズ、スケルトンのサンズさ。よろしくな。さっきは脅かして悪かったよ。パピルスとは兄弟なんだ」
本当に悪いと思っているのか、それにしては笑い涙が目から出ているし、堪えようとしていてもクククと笑い続けている。
「ほんとサンズはからかうのが好きだよね。全く、こんな兄ちゃんを持って弟は苦労するよ」
未だに笑っているサンズに白けた視線を向けた後、兄を無視して自分の足を掴んでいる少女に声をかけた。
「キャラ。ちゃんと挨拶してみるんだ。大丈夫!悪い奴じゃないぞ!この偉大なパピルス様が保証するッ!」
少女はまだ足を離そうとしない。
パピルスの細すぎる骨の足では全身を隠すことはできていないようで薄水色のワンピースの横縞模様もはっきり見えている。
顔は見えないがなんだか不安そうにも見える。
この三人に害はなさそうだ。近づいてみると少女はわずかに後ろへ下がろうとする。
パピルスは掴む力が強まっていることを感じて痛そうにしているが、あえて痛いとは言わずキャラをニコニコと見つめている。
まだ下を向いたまま、もはや頭のつむじが見えている。
まるで深々とお辞儀をされているかのようだ。
あまり距離を詰めすぎないように、逆に離れすぎないようにと適切に距離を縮める。
手を伸ばしても届かない距離。このぐらいがちょうどいいのかもしれない。
息を吸った後、フリスクは声をかけた。
「えっと…初めまして、フリスクです。キミは…あの時マントをくれた子?」
少女はこくりと頷いた。
……………。
………………………。
どうしよう、沈黙が続く。
フリスクも沈黙に耐えられなくなって視線を逸らす。
後ろでサンズが小さく「青春だねぇ」と言ってクククッと笑っているのが少し苛立たせた。
それならこの静かすぎるこれになにか言ってほしいよ…。
そんな心の声がフリスクの中に生まれている。
少女がほんの少し顔を上げた。まだ顔を見て話をすることはできないようだが、口元が動いているのが分かる程度には頭を上げている。
「…っ………私の…名前は……キャラ………」
可細い声、この距離まで近づかなければ聞こえなかっただろう。
そのあとすぐにまた頭のつむじが見えるほどまで頭を下げた。
「!! キャラ、すごいぞ!ちゃんと挨拶できたッ!これでお前たちはお互いの名前を知ることができたッ!これで友達だ!」
パピルスは自分の事のようにとて大きく喜んで、キャラの頭をわしゃわしゃと雑に撫でて、サンズはとても感心したように大きくうなずいて嬉しそうに笑っていた。
「よしよし、よく頑張ったな。さすが俺の兄弟だ」
サンズがキャラに近づいて左手で頭をポンッと撫でた。
フリスクからでは見えないがキャラは顔を真っ赤に赤らめながらも褒められたことを嬉しそうにしていた。
なんだか三人の間でものすごく和んだ雰囲気になっている…?
僕、置いてけぼり?
…?人間の姿であるキャラを兄弟って呼んだ?
不思議に思うフリスクに気が付いたのか、その疑問に答えたのはサンズだった。
「ん? なんで人間とスケルトンが兄弟って言ってるか、不思議そうだな?」
そもそもフリスクは表情が読み難いにも関わらず的確についてくる。
「あー、キャラはお前と同じでフィリア砂漠に迷い込んだんだよ。しかも赤んボーンの時にな。今は俺たちスケルトンと暮らしてるってわけ。ボーンだけにってか?」
…?
新手のギャグだろうか?
ニシシと笑っているサンズを放ってキャラとパピルスは白い目で見ている。
なんだかトリエルと似たジョークを使うなぁ。
「それはともかくだ。フリスク、お前怪我はないのか?」
パピルスが心配そうに体を曲げてなんとかフリスクの目線に立とうとしている。
足元にキャラがいるため、かがむことをせず、腰を90度くらいに曲げている。
まじまじと見られているようだ。なんだかくすぐったいように感じていた。
「うん、見た目は大丈夫そうだな!でも、今日は夜も遅い!今夜は俺様の部屋でぐっすり眠るといいぞッ!もしかしたら森の中でうさちゃんに会う夢を見れるかもしれないからな!」
森にうさちゃん。あのベッドのことだろうか?
………夢は見てない。ぐっすり寝ていたみたい。
でもそのことは彼が気づかないように言わないでおこう。
「ん、そうなるとパピルスの部屋で三人とも寝るのか?狭いだろ。誰か一人くらい俺の部屋で寝た方がいいんじゃないか?」
「サンズの部屋は別次元だからダメだぞ!俺様の部屋で寝かせるからな!」
「オッケー。じゃあ後の事はいいな?ちょっと俺はグリルビーズにでも行ってくることにするよ」
そういうとサンズは出入口のドアから出ようとする。
「あ、そうだ、お前さんもくるか?」
…? どうやら僕に言われているようだ。
「サァァンズ!フリスクは俺様のスパゲッティを食べるんだ!……とは言ったものの、本人がどっちにするかだよな。フリスクはどっちに行くんだ?」
え…これはどちらか選べって事?
スパゲッティかグリルビーズ?グリルビーズがよくわからないけれど、気になるから行ってみようかな。
好奇心というやつだろう。悩みはしたがすぐに解決した。
「えっと。じゃあサンズについていく」
一人は勝ち誇った顔をして弟を見る。一人は気に食わなさそうに兄を見ていた。
足を掴んでいたキャラが思い出したようにパピルスから離れ、階段を上がりフリスクが眠っていた部屋に入っていった。
骨の弟がなにやら言い争っているが兄は平然と言葉を受け流している。
しばらくしてからキャラが部屋から出てきた。
なにかを持っている。茶色のマントに縁の黄色いゴーグルだ。
キャラがそれをフリスクに手渡した。先ほどよりは顔が上がって表情が若干わかるが、まだ確信を持って言えるまでは見えない。
「これ、使って。もともと私が使ってたんだけど、新しいのはパピルスに作ってもらってて、明日にはできるみたいだから……」
くれるということだろうか?
茶色のマントとゴーグルをもらった。
「おう、ちびっこ。一応着て行ったほうがいいぞ。砂漠は昼こそ暑いが夜は極端に寒い。雪が降る事もあるから風邪をひいちまうぜ?」
サンズに続いてパピルスも同意して言う。
「サンズの言う通りだぞ。まぁ、俺様は夜になったら外にはで出ない!寒いから!それにお化けが出るらしいからね」
お化け。
フリスクはその言葉に反応して咄嗟にサンズの方を見る。
もともとニヤニヤとした顔では意思は読み取れなくて目が合う。
「……大丈夫だって。お化けなんて本当はいないから」
本当にいない…?
あ、そうだ、ナプスタだってお化けだった。なんだ、簡単な事だった。
そっと胸を撫で下ろす。
「まぁ、そういうことだ。ほらさっさと着替えてこい」
マントを着ようとした際、キャラが何かに気づいた。
「待って、短パンじゃ寒いよ。待って、新しいタイツがあったはず!持ってくるから」
また踵を返して部屋に戻るキャラ。
部屋に入ったのを見計らってか、パピルスが口を開く。
「あのキャラがあんなに嬉しそうな顔をするの、俺様初めて見たかもしれない」
「奇遇だな、俺もだ。同じ人間ってだけでこうも反応が違うもんなんだな」
?
「ここに来たばかりの時はとっても暗い顔をしていたんだ。なんか、兄弟を探しているんだって。なんて兄弟思いな子なんだろうね…。きっとその兄弟は幸せ者に違いないぞ」
「ん?確か、探しているのは金色の……」
ガチャ
サンズが言おうとした途端、部屋のドアが開く。キャラが真っ黒のタイツを持ってきてくれていた。
「フリスク、今の話はキャラには内緒だぞ」
こそこそとパピルスが耳打ちした。
階段を降りてタイツをフリスクに渡した。
最初に会った時のようにはきはきと声を出して、はっきりと顔を見て言葉を吐き出した。
「これ、使って。あと、その靴だと砂が入っちゃうからこの靴も使って」
玄関にある黄色のブーツも出した。
「じゃあささっと着替えておいで、俺は待ってるから」
少しして着替えが終わった。
茶色のマントに青い服に2本の紫色の横縞の入ったストライプの長袖、焦げ茶色の少しブカブカした短パン、中には黒タイツを履いて黄色いブーツを着ている。
三人は似合ってる似合ってると少し盛り上がっている。
ゴーグルはどこに着けたらいいかな?
悩んでいると、キャラが声をかけてくれる。
「それは頭につけておいた方がいいんじゃない?」
そういうと茶色のマントについているフードの上からキャラがつけてくれた。
「これなら風でフードが飛ばされないでしょ?」
この家に来たばっかりのときとの対応の違いに戸惑う。
そのことにキャラも気づいたか、手を止めて口を大きく開いて顔を真っ赤にさせる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ごめん!つい弟に似ていたから!癖で……!」
キャラが叫び声で全員がびっくりし、叫びをあげた当人はすごいスピードでパピルスの後ろに隠れた。
あれ、この状況、さっきも見たな。
でもお礼は言っておかないといけない。
「キャラ、服ありがとう。大事にするね」
声に反応してキャラがフリスクの顔を今度はきちんと真っすぐ見る。
「…………うん!」
返事をしてくれたことに嬉しさがこみ上げた。
「じゃあ、行ってくるね!」
お留守番をするパピルスとキャラに声をかける。
「うん!行ってらっしゃい!」
キャラがとてもにこやかに見送ってくれた。
ドアを開けるととても攻撃的な風が吹きつける。
昼の時とは違う強烈な寒さ。キャラからマントをもらって正解だった。
でなければこの寒さには耐えられなかっただろう。
「悪いな。本当はショートカットができればよかったんだが、何度も使うと疲れてしまうから今は使えないんだ。ちょうどグリルビーズは近いし、歩いて行ける距離だからなー」
サンズの隣を歩いていくと砂を踏む音がする。
寒いけれど、やはりここは砂漠のようだ。
「フリスク、寒くはないか?」
心配してくれているのか、声をかけてくれる。
「うん、ちょっと寒いけど大丈夫」
とは言うものの寒い。体全体がガタガタと震えていた。
サンズは首に巻いているマフラーを解き、フリスクに巻いた。
「馬鹿だな。大丈夫っていうやつが一番大丈夫じゃないんだよ」
マフラーがとても温かい。でも彼のマフラーはとても長くて身長の低いフリスクではぐるぐる巻きになっても引きずってしまう。
………うーん。
「サンズ、少ししゃがんで」
「ん?」
身長はサンズのほうが少し高いくらいなのだが、しゃがんでくれたほうがやりやすい。
フリスクは長すぎるマフラーの半分をサンズにかける。
「……!」
サンズは少し驚いたようで、笑みが若干消えたが、すぐさまいつものにやにやとした顔に戻る。
「heh なんともませたことをするもんだ。こういうのは好きな子にやればいいのだろう?」
「勘違いしない。これ、長すぎるんだよ。それにサンズだって寒いでしょ?」
「ふっ…ありがとな、フリスク」
マフラーを半分こずつに巻いて夜の砂漠を歩いていく。
なんだか特別になったような感じがする。
歩いていくとGrillby'sと書かれた看板が見えた。
どうやらHOMEと同じで残った遺跡を改装したようにただずんだ赤色の多めの建物だった。
「ここだ」
ガチャ
ドアを開くと、そこはバーのようだった。控えめの照明は青色に光っており、真っ先に目についたのは照明とは対照的に赤色に燃えるバーのマスターであろう人型をした炎のモンスターだった。
そのほかに客がいるようで、犬の姿をした二息歩行のモンスターの兵士が6匹、ポーカーで賭け事をしているようだ。景品は、ほねっこジャーキーの様子だ。
魚の姿をしたモンスターが2匹、その他もろもろ。
繁盛しているようだ。
犬のモンスターの一匹がサンズに気づく。
「あら、サンズィじゃない!今日もきたのね。ポーカーでもしない?いつも相手が同じだからつまらないのよ」
「いや、今日はいいや。今はこいつとデートタイムだからな」
そう言ってウインクをする。
「キャー!サンズィってば本当にそうやっていつも私のアプローチを躱すんだからー♡」
えっとここではサンズは人気者なのかな?
「ほら、フリスク、こっちだ、座れよ」
互いに同じマフラーを巻いているため首が締まらないように誘導するサンズ。
促されるまま、サンズの隣へ座る。
「グリルビー、オレンジジュースを1つくれ。あとは、フリスク。お前シチューは食えるか?」
シチュー?なんだそれ?
「なにそれ?」
思ったことを口にすると思いがけない返答にサンズは少し混乱した。
「お前、食ったことないのか?……分かった。グリルビー、シチューを2つ追加だ」
炎のモンスター、グリルビーはこくりと頷いて、ドアの向こうへ行った。
「こういう寒い夜に食うシチューはうまいんだぞ?しかもグリルビーは料理がめちゃくちゃうまいときた。お前さんも癖になると思うぞ」
料理には食材が必要なはずだ。砂漠の中、そのところはどうなっているのだろう?
聞いてみることにした。
「砂漠なのに食料はあるんだね」
「いや?食料なんてあんまりない。そもそもの話、人間と違ってモンスターは別に食わなくたって生きていける。食事なんて娯楽に似たものさ」
「食べなくても生きていけるの?どうやって…?」
「あぁ……そもそもの話。俺たちモンスターの生命の源は誰かを想う心だ。誰かを想いあってこそ存在できるんだ。それが、どんな形であれ…な。おっと料理が来たみたいだぜ?口に合うといいんだがな」
話し込んでいるうちにグリルビーがオレンジジュースとシチューを持ってきてくれた。
野菜が入っている。芋に赤い野菜に…液体が白い。
スプーンで口に運んでみる。お腹が空いているため躊躇なんてしない。
…ん、なめらかでおいしい……!!トリエルが作っていたパイも美味しかったがこれも美味しい……!
がつがつと食べる様子をサンズは頬杖をついて微笑んで見ていた。
マフラーはまだ半分こに巻かれたままだ。
「美味しいみたいでよかった。まだ足りないなら俺のも食っていいぞ」
……!!
そのことが嬉しかったのか、自分の分を食べた後すぐにサンズの分を一気に胃に流し込み、食べつくした。最後に残ったオレンジジュースを大事そうに飲んでいる。
「あーさっきの話だが、確かにここは食料が少ない。パピルスが得意とするスパゲッティだって小麦はあるから麺を一から作ってるんだ。それに水だって使う。だからわざわざオアシスまで行って水辺にモンスターたちに何度も頼み込んで水を貰っているんだ。みんなに食べさせて元気になってもらうんだってな。あとは、あいつは物を作るのが得意でな。ある博士と服を作ってる。パピルスの部屋のあのフィギュアだって手作りだ。デザインは俺が教えた。いや、正確には俺が考えたわけじゃないけどな」
ストローでオレンジジュースを飲みながら話を聞く。
「キャラも色々あって、今は俺たちの世話になってるが、とても働き者でな。家の家事はほとんどあいつがやってる。あれはいい主婦になるぜ?掃除に洗濯にパピルスの寝る前の絵本の読み聞かせもできるときた。そのくせ家事が楽しいらしくてな」
「本当に俺の兄弟たちってクールだよな」
……自慢話かな?
その後もキャラとパピルスの良い所をいっぱい話しているうちにフリスクのオレンジジュースはカラになっていた。
「さてと、もう夜も遅い。さっさと帰るか。グリルビー、つけといてくれ」
マフラーが半分ずつに巻かれているため、ゆっくりと慎重に椅子から降りる。
サンズが何かを思い出したようで自分のかかっているマフラーをフリスクにぐるぐると巻く。
「悪い、フリスク、用事を思い出した。俺はちょっと寄る所があるが、帰り道は分かるな?」
「うん」
「ならいい。そのマフラー、ちゃんと返せよ?パピルスが作ってくれたものだからな」
その言葉を残してサンズはグリルビーズを後にする。
それに続いて、フリスクもバーを後にした。
外はやはり寒い。サンズから借りたマフラーがとても温かい。
周りを見渡すもサンズはいなかった。
その代わり、金色の花がこちらを見ていた。
「………やぁ」
フラウィーだった。
会うのは3回目だが、なんとなく不機嫌なように感じる。
「あのにやにやしたごみ袋に関わらない方がいいよ。あいつは危険だから」
そう言うフラウィーは、視線を下に向けている。
フリスクはしゃがんで話を聞くことにした。
「どうして?」
「……いずれわかるよ。あいつはここにいる誰よりも危険なんだ。だから言っているだろう?僕と一緒にここから逃げるんだ。僕はもうあの時みたいに強制しない。どうする?」
懇願するような瞳。
逃げようと言われても状況が整理できていない。
それにあんなに兄弟を想うサンズを信用できないわけがない。
答えは一つだ。
「フラウィーがサンズに対してどう思っているかはわからないけれど、サンズはいいモンスターだよ」
「キミは分かっていないからそんなこと言えるのさ。あいつだけじゃない、側にいるキャラもキミにとっては危険な存在なんだよ」
「ううん、違うと思う」
自分の意見を否定されたせいか、フラウィーは声を荒げる。
「うるさいな!!どうせリセットの力があるからってそんなことも試そうっていうのか!?馬鹿じゃないの!?一回痛い目をみたら!?僕は忠告したからね!」
フラウィーが背中を向ける。
そのまま地中に潜るかと思ったが、フリスクの方へ振り向いた。
そして、こういった。
歪な笑顔で。
「あぁ、じゃあさ、もしキミに好奇心っていうのがあったなら、もし、もしだよ?誰かを殺してもリセットできてしまうことも、逆につまらないからリセットして殺しちゃうこともキミは出来るんだ。そんな力、たくさん使わないと…ねぇ?どうせ最初からに戻るんだから」
アハハハハ!!と声を高らかに上げてフラウィーは地中に潜っていった。
リセットの力?最初から戻る?意味がわからない。
そんなこと気にしても仕方ない。家に帰ろう。
寒い砂漠の夜を、ただ一人、神に似た力を得た子供は歩いていく。
snowdin 兄弟 end
ずいぶんと長くなりました。ただ会話しているだけなような気が…。
やっとキャラ、サンズ、パピルスが登場しました!長かった!
兄弟らしく仕上がっていれば幸いです。
あ、パピルスの部屋のフィギュアでピンッと来た方は多いかもしれませんね。
それになぜサンズがそんなことを知っているのか、語られることはあるのでしょうか?
あと、大事なキーワード、モンスターたちが生きれるのは誰かを想う心。これは覚えていて損はありません。