sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

パピルス戦 ACT


砂嵐が舞う。
その砂は、まるでフリスクとパピルスの戦いに彩りを添えているかのようだ。


ポケットに突っ込んだ手の中には、あのお守りがある。


…どうするべきか。


なぜか悩んでしまう自分がいることにフリスクは気づいていない。


思い出して。
目の前の彼がしてきてくれたことを。
疲れて倒れてしまった自分を家に連れてきて介抱してくれたこと、寒い夜の外から帰ってきた自分に温かいミルクをくれたこと。
こうして”稽古”に付き合ってくれること。


………………………いや、やめよう。


お守りは取り出さず、仁王立ちになる。


さて、稽古を始めよう。



*決意



「いくぞフリスク!」


パピルスが自分の持つ骨とフリスクを見比べて、またどこからか骨を取り出した。
パピルスの持っている骨よりも小さく、細長い。
その骨をフリスクの足元に投げた。骨は砂の上に落ちる。地面が柔らかいため音はなく、さらさらした砂に若干沈み込む。
パピルスがこちらに指を指して、自慢げに言い放つ。


「その骨を武器にして戦うんだぞ!俺様だけ武器を持って相手が何も持っていないのはフェアではないからな!サンズだけは別だけどね」


武器…は持っていないわけではないが、足元に落ちた骨を拾う。フリスクの手のひらに収まる細さで立てたら腰ほど高さだろうか。
意外と重量がある。持って振り回すがこれを武器にできるかわかりかねる。
これを軽々しく振り回すパピルスのすごさを身を持って知る。


「よし!武器は持ったな!いくぞフリスク!」


パピルスがフリスクに向かってくる。
そこから彼に敵意は感じられない。


「いいか、俺様が攻撃するからフリスクはその骨でガードするんだ」


ご丁寧に攻撃すると宣言し、防御法まで教えてくれる。
目の前にまで迫ったあと、フリスクに向かって骨を振り下ろす。


咄嗟に言われた通りに両手で骨を持ち、振り下ろされたパピルスの攻撃をガードする。


ガキィィィンと骨と骨がぶつかる音が砂嵐の中に響く。


ぶつかり合った振動はフリスクの体に伝わり、全身は震えた。
きっとパピルスは加減をしてくれているのだろう。だが、それでも振り下ろされた力は強く、腕も足もしびれている。


パピルスは追撃をせずに自分の武器をフリスクから離して心配そうな顔を向ける。
一度、戦闘態勢を解いているようだ。


「フリスク、痛くなかった……?」


この調子だと攻撃をガードするたびに心配されてしまうような気がする。
痺れる体に鞭を打って返答する。


「大丈夫だよパピルス。むしろもっと強くしたっていけるさ」


「……そっか。じゃあ、これならどうだッ!」


パピルスが手をこちらにかざす。


「!?」


急に心臓を手で掴まれるような感覚に襲われた。
そしてフリスクは気づいた。自分の足が砂の上から離れ、宙を浮いていたことを。


「どうだ!フリスク!これは俺様の使える魔法だッ!その名もブルーアタック!ニェーヘッヘ!かっこいいだろう?これはもう俺様に惚れざるを得ないだろう!」


自分の体がパピルスよりも高く宙に浮く。
足に地面がつかない感覚に多少の気持ち悪さがあるものの自分が空を飛んでいるという気持ちに囚われていた。
そう考えていたのもつかの間、パピルスが何か言っている。


「いいかフリスク!今から俺様はこの骨を投げて攻撃するから、その状態で躱してみるんだッ!」


ご丁寧に回避方法まで教えてくれる。
これで回避するにもどうしたらよいのか。体を動かそうとしてみるも動きにくいこの上ない。


動いてみることにした。微妙に動けて…………いるのか?


「今からお前はこの!俺様の魔法によって縦横無尽に操られるのだ!……あ、今から後ろに飛ばすから、着地したらジャンプしてね。俺様、骨投げるから」


かっこいいはずのセリフが回避方法を教えたために台無しだ。
意味の分からず攻撃されるよりかはマシかもしれない。


「わ……分かった…!」


ふわふわと浮いたままパピルスの指示に従う。


「よ……よし!じゃあ、いくぞ!」


謎の緊張感が襲う。さぁ、来てみろ…!


……………………。


…………………………………。


………………………………………………?


こない。


………………………こない。いつまでもこない。


パピルスはこちらに手をかざしたまま、まだ動かない。


「……パピルス?」


体が浮いたまま放置されたフリスクが声をかける。
彼はなにやら躊躇しているように見える。


「ち…違うぞ!決してやっちゃっていいのかなとか、怪我したら痛いだろうなとか考えているわけじゃないぞッ!俺様は誰かが傷つく姿を見たくないだけなのだ。でも!もし茶色の髪をした薄目の人間が傷ついたとしたら俺様のスペシャルスパゲッティをごちそうして
、泣いていればスペシャルなハグをプレゼントし、笑ってくれるまで側にいるのだ!」


ニェッヘッヘと笑ってはいるが、今言った茶色の髪の薄目の人間なんてこの砂漠内ではたった一人しかいない。
そう言ってくれるのは嬉しいのだが、体を下ろして欲しくなってきた。


「……本当にやっちゃうけどいいの…?…………フリスクは怖くないの……?」


腕を下ろしてパピルスが困ったような顔をしている。
もともとからか、あまり表向きに感情が顔に表れないため、フリスクの感情が読めないのだろう。


「僕は大丈夫だよ。それよりやるなら早くやってほしい……」


浮いているのは楽しいが、時間が過ぎていくと早く地面に足をつけたくなる。


「……わかったよ…じゃあ行くぞッ!」


パピルスが下した腕をもう一度フリスクに向けると彼の右目がほんの僅かな時間だけ橙色に変わった。


「!?」


フリスクの体がパピルスのいる方向とは逆に動いていく。
かなりのスピードで、この感覚は突き飛ばされる感覚に近く驚いて反応が遅れた。


パピルスがどこからかフリスクの持つ物よりもまた小さい骨を出した。


「いくぞ!ジャンプして躱せ!」


彼は大きく振りかぶって骨を投げつけた。


早さに驚いていて対応が取れない。
パピルスの魔法で体は飛ばされて砂の上に転がり落ちる。


すぐに立ち上がるも彼の投げた骨が真っすぐこちらに飛んできた。


ドゥン


顔を上げた瞬間に小さな骨が飛んできて、よく分からない音がフリスクのおでこから聞こえた。
当たった衝撃か、スローモーションのようにフリスクは後ろへ仰向きになって倒れた。


「あ」


パピルスがやってしまったという顔になっている。
すぐさま走ってフリスクに近づき横抱きに抱きかかえた。その手はか弱い子供のためにか、とても繊細で包み込むかのようだ。


「ご…ごめんなさい、強くするつもりはなかったんだけど…]


おでこを押さえながらパピルスの話を聞いている。
実は結構痛かった。
次にこの攻撃をされたら倒れないようにすぐに体制を直してジャンプしたほうがよいだろう。
とりあえず、パピルスの問いには答えないと…。


「大丈夫だよ、僕が不注意だっただけ。ごめんね、心配かけさせちゃって。パピルスの言う事もちゃんと守れなくて…。大丈夫。次も同じ攻撃でやってほしいんだ。お願いできる?」


手をおでこから離して、抱きかかえてもらっているパピルスの手からも離れようとする。
…だが、パピルスがそれを許さなかった。
虚勢を張るフリスクに心配しているパピルスが気づかないわけがなかった。
フリスクを見る目が変わらない。
子供の力では自分の倍あるモンスターの力に敵うわけもなく、抱きかかえられたままの状態だった。
パピルスは無言だった。
顔を見ても泣いてもいなければ怒ってもいない。
どうしたらいいのだろう。


砂嵐はまだ続いている。砂を舞う音だけが耳に届く。


パピルスがようやく口を開いた。


「……………そうやってすぐ大丈夫って言うのは良くないぞ。俺様、そうやって大丈夫大丈夫って言い続けて倒れちゃったモンスターを見てるんだからね……!」


「僕は本当に大丈夫だよ!だって早く強くなりたいんだ!」


その言葉に反応して、しばらくパピルスは黙ってしまった。


…………………。


そして、彼はこう言った。


「”大丈夫”って簡単に言っちゃうのは俺様、とてもツライぞ……」


そう言うと、何かを思い出したのか身長の高い骨のモンスターはフリスクの顔から目を逸らして下を向いてしまった。
身長が高いから下から覗き込むことができた。



彼は静かに泣いていた。



彼の瞳からポロポロと誰かを想う涙を流している。
それは彼が大きいからなのか、大粒の涙がフリスクのかけているゴーグルの上に落ちる。
涙はこの渇いた砂漠では湿ることなく、すぐに消えていく。


……どうしたらいいだろう。
泣かせるつもりは全くなかったのに、どうしてこうなったのだろう。
僕が悪いのかな?そんなつもりはなかったのに。


どれが最適な対応なのか分からずに、自分の持っていた骨を捨てて、パピルスの前で両手を振ってみる。……特に効果はなかった。


パピルスはまだ涙をポロポロと流している。
どうしたらよいか分からずに声をかけてみることにする。きっと自分にも非はあるはずだから。


「パピルス、ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだ。だからお願い、泣かないで」


涙は彼の頬骨に流れていく。その水滴を手で拭う。
渇いた砂漠の中では、濡れた手ですらすぐさま渇いてしまう。


まだポロポロと涙は流れていく。
そのたびにフリスクは涙を拭くために何度も何度も手で拭う。


「ごめん…ごめんね…」


謝っていた。それは自分がフリスクに怪我をさせた罪悪感なのか、なにかを思い出してしまった悲しみなのか分からないが、ただ謝っていた。


パピルスが腕で自分の目をごしごしを擦りフリスクの目を見て言った。


「悪かったな!つい弱気になってしまった…フリスク、複雑な感情について語ってもよいか?」


「うん」


泣いていた目の前のモンスターにNOと言えるはずもなかった。
先ほどまで吹き付けていた砂嵐が徐々に治まっていく。
ゴーグルをつけなくても大丈夫なほどに。
フリスクはゴーグルを外してパピルスの目を逸らさずにはっきりを見つめる。


「俺様はロイヤルガードだ。アンダインから何もしなくていいって言われてもな。だから本当はフリスクを都まで連れて行かないといけないんだ…。でも連れて行ったらそのあとどうなるか俺様にはわからない。それに、キャラをあそこまで笑顔にさせられるのは、きっと俺様や兄弟でもなくてフリスクなんだ。でもアンダインの言う事を守らないとロイヤルガードを外されてしまうかもしれないし、ガッカリされてしまうかもしれない。俺様、一体どうしたらいいんだと思う…?友達がたくさんいる奴にはわからないだろうな…」


パピルスはなにか悩んでいるようだ。


僕は一体どんな言葉を返したほうがいいのだろう。
ダサいやつだと罵るか、それとも…。
そんなこと、”このフリスクなら”簡単な答えだろう。


「じゃあさ、僕と友達になってよ。友達になればそのロイヤルガードなんて役目はもう必要ないと思うんだ!」


なんて子供らしい安易な考えだろうか。
その提案をパピルスが受け入れるかはまた別の話になるのだが、フリスクの言葉を聞いて先ほどまで泣いていた顔がすぐさまパァァっと明るい表情に変わる。


「友達ッ!そうか!キャラだけじゃなくて俺様もフリスクを友達になればよかったのか!なんだ!そんな簡単なことなのか!ぜひ友達になりたいぞッ!」


「うん!これで僕たちは友達だよ!」


「!! わぁぁ!!! 俺様、友達ができちゃった!なんだ、そうか!友達になればいいのか!そうすればこんなに悩むことなかったのか!友達って一緒に稽古していれば自然とできるものなんだね!」


友達を連呼しては無邪気に喜んでフリスクを抱えたままの骨のモンスターの目の光が戻ったようで、フリスクを手から離し、足に地面をつけ立ち上がる。
フリスクも足が地面につく感覚をかみしめる。


やはり足がつく感覚はいいものだ。
砂嵐はすっかり治まっていた。


キラキラを目を輝かせる彼がなんの悪意もないことは明白で、これ以上戦う必要もないのかもしれない。
稽古は終わり、ということだ。


パピルスは何かを思い出したようにハッとするとフリスクこう言った。


「でも、アンダインに隠し通せるわけじゃないからな……。フリスクからアンダインを説得すれば悪いようにはされないのかな…そもそもなにをされるのか誰も教えてくれないし…」


パピルスが顎に手を当てて考えている。
フリスクが提案した。


「もしアンダインに会ったら話し合ってみるよ。パピルスをロイヤルガード?から外さないでほしいってことも、キャラとパピルスと友達になったことも全部話してみるよ」


「そうか?それならありがたいな!俺様、実は昨日夜中までキャラのマント作ってて寝てないんだよね…だから少し寝かせてもらってもいいかな…?」


そうだったのか。
骨だからクマなんてものもできていないから気づかなかった。


「そうだったんだね…わかった。ゆっくり寝ててよ。アンダインと話してみるから」


「あ、そうだ。じゃあアズゴア王とも会ってみるといいぞ!彼はとてもお人よしでもふもふしているんだ!きっと歓迎してくれるはずだぞ!じゃあ、俺様は朝だけどお布団に入って眠ってくるぞ!うさちゃんの夢をみるのだ!」


そういうとパピルスは大きくジャンプしてフリスクの上を飛んで自分の家の方向へ走って行ってしまった。


砂嵐がひどくてよく見えなかったが、パピルスが立ちはだかっていた方向の奥に進むと洞窟が見える。
洞窟へ向かって足を動かして進んでいく。中は暗いが壁に貼られた松明の炎がなんとか洞窟内を明るく照らしてくれているようだが、足元が見えづらく転んでしまいそうになる。


水筒も、パイもお守りもある。
準備は出来ている。


しばらく歩いていくと光が見えた。
その先にはスノーフルのような純粋な雪のように真っ白な砂とは違って少し濁り気のある茶色に近い白色の砂。ところどころに黒い粒のような砂もある。
緑色のチクチクした植物がたくさん砂の上から生えていた。




パピルス戦  ACT編         end


スランプ状態でした!!!(事後報告)
パピルス戦だけは本当に苦戦しました…。
頑張れたのは皆さんの応援からです…!気力をなんとか持ち直せました。
ファンアートまで下さる方もいて…本当にありがとうございます…!宝物にします!!
次からはウォーターフェルが舞台となります。
お寿司が食べたくなってきましたね。次は言い伝えについて語る事が多くなりそうです。

snowdin 名前の由来


パピルスとキャラは自分の部屋を掃除していた。
といってもキャラはパピルスの部屋で寝ているため、同じ部屋だ。


パピルスは自分によく似たフィギュアのほこりを布で一つ一つ丁寧に取り、キャラはしわしわになったシーツを伸ばしながら綺麗に直している。その表情はどこか嬉しそうだ。
そんな顔を見てかパピルスも嬉しそうに笑っていた。


「キャラ、そろそろフリスクが帰ってくるかもしれないからパジャマに着替えてすぐ寝られるようにするぞッ!」


「イエッサー!隊長!」


軍人のように体をシャキッと伸ばし手を横水平にしておでこ近くに当てる。
たわいない冗談をしながら砂漠にやってきた一人の子供のために部屋へもてなしの準備を進めていた。


「でも、サンズが一緒にGrillby'sに行ってくれてよかったかもしれないな!」


「え?どうして?」


「こうしてフリスクを部屋に歓迎する準備もできたし、キャラだって初めて会うやつとは目を見て話ができないだろう?それに…スパゲティをまた作るのも骨が折れる!」


「骨……」


彼は骨なのにそれを言うと、反応しないわけがない。


「あっ……ち…違うぞ!今のはノーカンというやつだ!俺様はサンズと違ってジョークなんて嫌いなのッ!」


「でも、笑ってるよ?」


パピルスの口角は骨だが確かに上に上がっている。


「ぐッ……悔しいけど…ジョークは嫌いなの!キャラは早く着替えなさい!お兄ちゃん命令だからねッ!」


そう言い残して部屋を出て行った。そんな様子をにこにこと微笑みながら見ていた。
パピルスの部屋にはキャラ一人が残された。


さてと、着替え着替えっと。


窓横のクローゼットルームへ自分のパジャマを取りに行く。
ちらりとテーブルの上を見る。そこにはたくさんのフィギュアに交じって、一つだけ、異質な物があった。
ラップに包まれ、一人分に切られた大きいケーキ。


あれ、やっぱりそうだよね。


まぎれもなく、あのバタースコッチシナモンパイだった。


…………フリスク……ママに会ったのかな……。もしそうなら、私も……。聞いてみようかな…?いや、止めておこうかな……。


複雑な心境はきっと彼女にしか理解できない。






寒い。寒い寒い寒い寒い寒い!!
なんで砂漠なのに雪が降ってるの!?なんでこんなに寒いの!?
ありえない!ありえないよ!!


夜遅く、一人の子供が駆け足で砂の上を走る。
空は、今走っている砂と同じ真っ白な雪が降っていた。
上は雲と雪で、下は真っ白な砂でどこもかしこも白だらけ。
フラウィーと話していたせいだろう。体が冷えてしまっている。
確か、どの建物よりも大きい家のはずだ。
サンズからもらったマフラーは完全に地面を引きずってしまっている。
そんなことお構いなしに走る。


あれだ!!


大きな建物、明かりがついている。


バァァァン!!


急いでドアを開けて駆け込む。
サンズからからかわれた時と同じくらい大きな音を出して入る。
唯一違うのはきちんと扉を閉めたことだろうか。
パピルスが驚いた顔でフリスクを見つめていた。
急いで駆け込んできたフリスクに察したのか、パピルスが話しかけてきた。


「おかえり、フリスク。温かいものでも飲むか?」


「うん、飲む…」


マントをつけたまま、近くにあった緑色のソファに座る。
体がカタカタと震え、マントで膝も体を包み、マフラーすら体に巻き付けて蹲る。顎がカタカタと音を鳴らす。


「フリスク、サンズはどうしたんだ?」


「用事があるって言ってどこか行ったよ」


「またか…サンズは一体何を考えているのやら……いつもそうなんだ…ふらっといなくなってはふらっと帰ってくる」


「そうなの?」


パピルスが温めたミルクをフリスクに差し出した。
湯気が出ている。受け取ってふーふーと息を吹きかけながらすする。
甘くて美味しい。優しい味がする。


「あぁ、いつもなにをやっているのか、全くわからん。でも!サンズはとっても強いんだぞ!」


強い、か。確かフラウィーはサンズのこと一番危険だって言ってた。
そういう意味で言ったのかな?


「あ!フリスク、お前もいい加減寝るんだぞッ!キャラがお布団を敷いてくれているんだ!パジャマは……キャラのを借りるしかないな!俺様の部屋のクローゼットルームにキャラのがあるはずだからキャラに言って借りるといいぞ」


「うん。なにからなにまでありがとう」


飲み終えたミルクのカップをパピルスに手渡す。
パピルスはにこっと笑顔を向けてくれる。
それがどれだけ居場所を与えてくれているのだろう。


なんとなく目を逸らしてしまう。
理由はきっと、自分でもわかっている。


「おやすみ、パピルス」


「あぁ!良い夢を!」


結局目を合わせないまま二階へ上がり、手前にあるドアを開けるとパジャマ姿のキャラがベッドとは別の場所に布団を敷いて横になっていた。電気はついていないからはっきりとは見えない。
寝息が聞こえる。すでに眠ってしまったようだ。


そしてもう一つ、キャラが眠っているその隣には布団が敷かれている。
僕に、だろう。


キャラがすっかり眠ってしまっている。
起こすのも申し訳なくて、暗い部屋の中、クローゼットルームを開け、パジャマを探す。
一着、パジャマらしきものを見つけ、それを着る。
お守りは肌身離さずにパジャマのポケットにしまう。
それだけで少し安心するからだ。


眠くはないけれど、寝ておこうかな。


キャラの横に敷いてある布団に入り、目を瞑る。


うん。やっぱり眠れないや。






大きな椅子、周りには赤く揺らめく炎を灯した燭台がある。
そこに大きな影とそれよりも小さな影がある。
大きな影が動いた。


「そうか、来たか。だが困ったものだな。どうしたものか。いや、お前に言ってもしかたのないことなのは分かっている。よくやってくれているのは承知だからな」


何やら話をしているようだ。


「……どちらにせよ、きっとここにくるだろう。あと一つだというのに上手くはいかないようだ。仕方ない。我々の解放はもうすぐだ。焦る必要はないはずだ。……そろそろお前も帰った方がいい。心配する者がいるだろう」


小さな影は部屋を後にするように大きな影から離れていった。







気づいたときにはうっすらと外が明るかった。
眠っていた体を起こす。眠れないと思っていたが思いのほかぐっすりだったようだ。


パピルスとキャラがいない。隣にあったはずの布団もベッドにも誰もいない。
もう起きているのだろうか。


立ち上がり、布団をたたむ。この布団はどうしたらいいのだろう。
キャラに聞けば分かるかな。


昨日着ていたストライプシャツとタイツ、短パンを履く。
着るものがこれしかないから仕方ない。
お守りも忘れていないか確認する。うん、ちゃんとある。
服をキャラに借りるとしても彼女は女の子なので男のフリスクには似合わない。


布団を積み重ねて、部屋を出て、階段を降りる。
そこにはキャラがいた。


「あ!フリスク、おはよう」


「キャラ、おはよう」


にこやかに挨拶している様子、フリスクも心を開いて会話することができそうだ。
昨日の印象とだいぶ変わっている。


周りを見るもパピルスをサンズがいない。
聞いてみることにした。


「二人はどこにいったの?」


「あぁー……朝の稽古をしてると思うよ。毎朝やってるんだ。外にいるよ。朝はすごく気温がちょうどいいから朝の稽古には最適なんだ」


「稽古?」


「そう。パピルスがロイヤルガードだからサンズが鍛えてくれてるの。見てみる?」


なんの稽古だろう。気になる。
質問には当然イエスだった。


「うん、見てみたい」


茶色のマントを付け、ゴーグルをマントの上からつける。


キャラもマントを着る。緑色のマントだ。その上から首元に縁の黄色いゴーグルをつける。
僕のとは形が若干違う。なんて説明したらいいかわからないけど。同じ色のゴーグルだ。


フリスクが見ていることに気づいたのか、キャラが説明する。


「これね、パピルスが作ってくれたの。すごいよね!しかも昨日できたばっかりなんだ!フリスクのも作ってくれると思うよ!」


とても嬉しそうに話している。周りにお花でも飛んでいそうなほど屈託のない笑顔だ。


「それは楽しみだね!早く稽古見たいから行こう!」


長々と話しそうなキャラの話を遮って扉を開ける。
昨日の昼の猛烈な暑さと夜の凍えるような寒さとは違いさわやかな風が体全体を包む。
扉の先にはパピルスとサンズがいた。


サンズが身をかがめ、特攻しパピルスに向かってジャンプしたと思えば顎に向かって右足を蹴り上げた。


それを読んでパピルスは手に持った骨の武器でガードする。
サンズの攻撃はとても重いようで顔に焦りがあるように見える。
ガードされた右足はそのままにジャンプした反動で、まだサンズの体は上に上がっている。
次は上半身を左に回した後、左足でガードのできていない隙を回し蹴りでパピルスの右頬に向かって蹴り飛ばす。


蹴り飛ばした音が響く。


ズザザーとパピルスが砂の上で転がった。
その様子を見てか、サンズはケタケタと笑っていた。


「ダメだなーパピルス。顔に焦りが見えすぎてる。そんなんじゃ、相手の気持ちに余裕を持たせることになるだろ?次の手次の手を考えながらじゃないと攻撃に迷いが生まれちまう。その結果がこうだ」


両手を広げて今の攻撃について説明する。


「ぐぬぬ…悔しいが全くその通りだ…本当にサンズは強いな!」


「heh 今の蹴りが本気だったら今頃塵になってたな」


「それは笑えないぞサンズ!!」


仰向けになりながらぷんぷんと怒っているパピルスと弟をからかっているサンズ。
二人は家の前に立っている二人の人間に気づいたようだ。


「あっ!おはようフリスク!恥ずかしいところ見られちゃった」


頭のバンダナ、スカーフ、黒いインナーについてしまった白い砂を手で払う。


「稽古って戦いの…?」


「そう!サンズって強いでしょ?私も教えて欲しいんだけど女の子はダメだ!っていうの!パピルスだけずるいよね!」


彼女は頬を膨らませて少し不機嫌そうな顔をするのに対して困り顔で骨兄弟は答えた。


「ニェー…そんなこと言われてもな……」


「heh 悪いな。さすがに女の子の顔を殴れるほど俺は落ちてない。それにパピルスはロイヤルガードだからな。鍛えとかないとアンダインに俺がシバかれちまう」


アンダイン?そういえば昨日も聞いたな。
聞いてみよう。


「昨日も言ってたけどアンダインって?」


その質問をすると骨兄弟は顔はフリスクに向けたまま目を互いに合わせて、すぐ逸らしパピルスから話し始めた。


「彼女は有名なロイヤルガードの隊長なのだッ!とっても強い!ロイヤルガードの歴史上最年少で隊長に上り詰めた努力の天才だッ!あとは、人間ハンターだってことかな…キャラは特別らしいんだけど…」


人間ハンター?
どういう意味だろう?


「えっと…実をいうと今すぐにでもアンダインに人間がこの砂漠にきたことを報告してアンダインの所に連れて行かないといけないんだ」


「まぁ、とりあえずは怪我もしていたから怒られはしないだろ。そんなことより、ほら。そろそろ来るぞ」



「あ!そっかもうこんな時間だもんね」


三人は空を仰ぎ見る。
空は白い雲に覆われている。少ししてからだろうか、ぽつぽつと水が降り注いだ。


これは……雨?
砂漠に、雨?


「お、きたな。砂漠に雨なんて珍しいだろ?この雨は俺たち民のために王が降らせてくれているんだ。本当は女王もできるんだが、今は行方がわからなくなってな。それに昼間じゃ太陽の日差しか強すぎてだめだし、夜は冷えすぎるからこの時間帯にしか見られないぞ」


女王?雨を降らせる……?まさかね…。


「雨はいいぞ!俺様は雨が大好きだ!あと、雨があがった後は虹が出るらしいなッ!…見たことは一度もないけどね。いつかこの砂漠をでたらとても大きな虹をこの目に焼き付けるのが俺様の夢だ!」


ぽつぽつと少量の雨が降り注ぐ。
声を高らかに、にぇーへっへと笑うパピルスの横でサンズは少し浮かない顔をしていた。


「おかしい。いつもより雨の降る量が少ない。王になにかあったか?いや、そんなはずはないとは思うが…」


ぼそぼそとなにかを呟いている。


「サンズ?どうしたの?」


キャラがサンズに声をかける。
キャラにも浮かない顔をしている彼に気づいたようだ。
心配する少女に心配をかけさせないようにか、にやりと口角を上げて右目を閉じ、ウインクをしながら頭を撫でる。


「あぁ、なんでもない。キャラ。お前のほうこそ右腕は痛んでたりしないか?」


「うん、朝痛くて起きちゃったけど、今は痛くないよ」


「そうか……後でアルフィスのところに行って痛み止めを貰っておく」


「うん、いつもありがとう、サンズ」


??
なんの話をしているのだろう。


その考えを聞く前にサンズが先に声をかける。


「さ、そろそろ帰るか。動いたら腹が減った」


あっ!


咄嗟にサンズのマフラーを掴む。
歩き始めていたこともあり、反動で若干首が締まってしまったようでウ”ッと声が漏れた。
びっくりしたのかすぐに後ろを振り返り、マフラーを掴んでいたであろう人間の子供に声をかける。


「なんのつもりだ…一瞬苦しかったぞ」


怒っているわけではない、むしろ諭すような口調でフリスクを叱る。
でもどうしてもお願いしたいことがあった。


「サンズ!僕にも稽古教えて!」


濁りのなく訴えてくる子供を直視することができずに目を逸らす。


「あー……今はそんな気分じゃないんだ。悪いなフリスク」


「ずるい!パピルスには教えてたじゃん!僕もサンズみたいに強くなりたい!」


フリスクはマントを掴んでサンズを揺するが、彼は目を合わせてくれない。むしろ困っているようだ。


サンズがフリスクの掴んでいたマントを離させるように勢いよく掴んで引っ張る。
フリスクの手からマントが離れるのを目で確認した後、フリスクに背を向けて全速力で
Grillby'sのある方向へ走って逃げて行った。


「あっ……!ちょっと…!サンズ!!」


フリスクも自分の持てる全速力で走るも大人(?)であるサンズに、しかも足場の悪い砂漠で運動神経がいい骨に勝てるわけがなかった。
膝と手をついて、はぁはぁと息切れしゲホゲホと咳がでた。
パピルスが後ろから付いてきていた。彼は息切れをしていない。スタミナはあるようだ。
雨はとうにあがってしまった。


「フリスク、そんなに強くなりたいのか?」


「ぜぇ…ぜぇ……う……うん…だって…げほげほ……僕だって男だもん」


「うーん…どうしてサンズは教えてくれないんだろうね?フリスクが子供だから?」


パピルスが背中をさすってくれている中、息切れしていた。
かっこよくいえずに情けない気持ちになる。


パピルスはなにかを考えたあと、思いついたように、グーにした右手を左の手のひらにポンッとのせる。


「フリスク、準備ができたら走ってきた場所と逆の方向に進んでくれ。理由はあとで分かる」


そう言うとパピルスは自分の家の方向へ走っていった。


はぁはぁとまだ息切れしている。
ザッザッと砂を踏む音が聞こえる。


「フリスク!お水は持って行かないと、これからとても暑くなるから危ないよ!」


キャラの声だ。
未だ、手をついて息切れするフリスクの側にしゃがみ、水の入った水筒を渡す。
フリスクは水筒の蓋を開けて水を飲む。
今日はまだ何も口にしていなかったこともあり、とてもおいしく感じる。


「なんだか、パピルスがあっちに走っていったけどなにかあったの…?まぁ、いっか。サンズは…たぶん、サンズはフリスクのこと心配なんだよ。だからやらせたくなかったんじゃないかな?」


水を飲んだからか、呼吸も落ち着いてきた。
キャラの言い分も分かる。


「でも、僕だって強くなりたいよ。誰かを守れるくらいに……」


砂漠に来たばかりのころはこんなこと一回も考えなかっただろう。
そう考えるに至るには色々なことがありすぎた。
後悔も、きっとあっただろう。
だからこそ強くならないとと二人の稽古を見て思ったのだ。
キャラはなんのことかわかってはいないものの、頷いた。


「私もね、守りたい人…いや、モンスターがいるんだ。弟なんだけどね。誰よりも甘えん坊で誰にでも優しくて、自分よりも他のモンスターを助けるようなお人よしだったんだ。ある日ね、理由はわからないんだけどパパとママが喧嘩することが多くなっちゃって、それで…聞いちゃったんだ。金色のお花を見つけて、手に入れることができればどんな願いも叶うんだって」


金色の…花…?
フラウィー…?


金色の花と聞いて真っ先に思いついたのはフリスクに対して嫌味のように卑下する花。
あの花のことを言っているのだろうか。
だとしたら……。
キャラが話を続ける。


「だから弟はパパとママが仲直りできますようにってお願いするんだって言ってそのお花を探しに家を出て行っちゃったの…。でも何日経っても戻ってこなくて……だから、私も家を飛び出してきちゃったんだ…」


「その金色の花、知ってるよ」


咄嗟に言葉が出た。
声を出したことよりも先にフリスクの発言に目を見開いてとても驚いていた。


「知ってるの!?見たの!?どこに!?」


切羽詰まったような顔をするキャラ。その表情に多少なりとも引いているフリスクは、指を指した。


「あそこ、Grillby'sの前に”いた”んだ」


Grillby'sはすぐ目の前にあった。
キャラはすぐに立ち上がり、フリスクに言葉を残した。


「ありがとう!その水筒、使って!私、周りを探してみるから、先帰ってて!」


素早く身を翻し、走っていった。


サンズには逃げられ、パピルスは向こうで準備すると言っていなくなり、キャラは金色の花の話をするといなくなりで、フリスクは取り残されてしまった。


…………これからどうしようか…。
そうだ、パピルスが言ってたな。走ってきた方とは逆にこいって。
Uターンすればいいのかな。


幸い、水を飲んだおかげで気力は回復した。
急がなくても大丈夫だろう。
雨の降っていた雲はすっかりなくなり、日差しが強くなってくる。
まだ暑いというほどではないが、これから辛い暑さになると考えると憂鬱になる。


砂の上を進む。今考えると白い砂というのは確かに雪にも似ている。フリスクは本でしか見たことはないから確証があるわけではない。
昨日の夜や、さっき走っていたときには見えなかったが、ようこそ!スノーフルへ!と書かれた看板がある。
スノーは雪という意味だが、この白い砂を雪に見立ててスノーフルと呼んだのが名前の由来だろうか。


パピルスは名前にはちゃんと意味がある、と言っていた。このことだろうか?
僕の名前にも意味はあるのだろうか?
いや、考えるのはやめよう。
今はパピルスのところへ行こう。


家の前に来る。いまドアを開けたところで誰もいないだろう。


そういえば、まだ何も食べてない。お腹空いたな。こういう時はママがバタースコッチシナモンパイを作って……。
バタースコッチシナモンパイ!!
あれはどこにいったんだ!?


迷いなくドアを開けて、自分の寝ていたパピルスの部屋に行って周囲を見る。
テーブルの上にはラップのされたバタースコッチシナモンパイがあった。


あった!よかった。
鞄がないからポケットにでもしまおう。
今はまだ楽しみに取っておこう。
もう少しもらっていけばよかったかなと少し後悔した。
そう思うほど、このパイはおいしいのだ。



安心して家をでて、サンズを追いかけて行った方向とは逆方向に歩く。


強風が起き、砂が舞う。進んでいく度に砂が舞っているようだ。
怪我はだいぶ良くなったし、キャラからもらったマントがある。
だが、目が痛くなってくるため、ゴーグルを目につけた。


うん、よく周りが見える。
………?あれは……?


大きな影が見える。それにしては細い体だ。
あれは…パピルスだ。


なにをやっているのだろう?


近づいていくフリスクに気づきパピルスが話し始めた。


「よく来たな!フリスク!」


仁王立ちをしているパピルス。
その顔はなにやら誇らしげだ。


「キャラの友達にこんなことをするのは俺様にとってもつらい物があるが…フリスク!俺様がサンズに変わって稽古をつけてやろう!」


パピルスが急にそんなことを言うものだからフリスクはとても驚いていた。
といっても顔には出てないのだが。


「キャラと友達になったことでお前はひとりぼっちではなくなった…だが、俺様と友達になろうなんて考えないほうがいいぞッ!そんなことは許されないのだ……だって、人間を見つけたらすぐに知らせろってアンダインに言われてるし、仮にも俺様はロイヤルガードの一員なのだ…。だから……」


パピルスが顔を下に向けた。
そもそも、友達になろうなんてキャラにもパピルスにも言っていないし、そんな話を二人にした覚えがない。
妄言だろうか?
パピルスが顔を上げて、両手で自分の頬を叩いた。


「しっかりしろ!パピルス!俺様はロイヤルガード!もし、フリスクに稽古をつけて強くなれば、きっとこの先も大丈夫なはずだッ!キャラの友達をアンダインに渡さずに済むのだッ!そうすれば、もうキャラはあんな悲しい顔をしなくて済むのだッ!」


「ねぇ、パピルス。……つまりは、僕に稽古をつけてくれるの?」


フリスクの発した声に気づいて、パピルスは話続ける。


「あぁ!そうだ!ここは砂がよく飛んでいるから見つかりにくい!俺様のお気に入りの場所だ!……本当はベッドのほうが好きだけど…」


「さぁ!人間!戦う準備はできたか!?」


パピルスがどこからか、自分の身の丈と同じくらい長い骨の武器を取り出して戦闘態勢に入る。


稽古…ありがたかった。


フラウィーの言葉を思い出す。


”もし、もしだよ?誰かを殺してもリセットできてしまうことも、逆につまらないからリセットして殺しちゃうこともキミは出来るんだ。そんな力、たくさん使わないと…ねぇ?どうせ最初からに戻るんだから”



ポケットに入っているお守りを握る。



自分の中の誰かが微笑んだ。





snowdin     名前の由来       end


次回、パピルス戦!
今回も分岐ありです。
さて、心を癒し、救う道を選ぶか、自らの心を殺し修羅の道を選ぶか、はたまた二つともか、閲覧者様の選択になります。
サンズがフリスクに稽古をつけない理由、それはフリスクが持っているあれも原因の一つだと思います。

snowdin  兄弟


目が眩む。きっと暗い一室から扉を開けた時、光で目を傷めたのだろう。


…本当に目が開かない。眩しすぎる。


5秒ほどだろうか、閉じていた瞳をなんとか開ける。
地面が、白い。


雪、にしてはさらさらとしている。これは砂か?
でなければおかしい。ここは暖かい、いやむしろ暑すぎる。
この暑さの原因はおそらく太陽のせいだろう。
ナプスタと出会った場所より凹凸が少ない。
それどころか歩きやすいようにも見える。


だが光は白い砂と反射して上からも下からも直接目に攻撃してくるかのようだ。


風が吹いて砂を巻き上げる。


「いっ……」


火傷跡に砂がかかった。あの時はあまり痛みを感じなかったのかもしれない。
今になって痛みが襲う。
風は思っていた以上に強く、砂が舞い上がりフリスクにかかるたび、傷が痛む。


どこか早く屋内に入らないと、痛くて仕方がない。
フリスクは白き砂舞う砂塵を急ぎ足で進んでいく。
帽子も何もつけていない、最初に砂漠に来た時と全く同じ服装。


「なんだがこういうの前にもあったなぁ。」


まるで他人事のように呟く。周りには誰もいない。


そう、思っていた。


向かい風の砂煙でよく見えないが茶色のマントを着ている誰かがこちらを見ていたのだ。


「……あ…どうしたの…?……!!」


何かに驚いているようだ。顔がよく見えない。


「きみ!人間!? あ!! ひどい怪我してる!」


可愛らしい声だ。女の子だろうか?
誰かが僕に近づいてくる。遠ざかろうにもHOMEから出て、トリエルと戦って、今に至った疲労からなのか足が動かずにいた。


今、この場で攻撃でもされたらもう立ち上がることはできないだろう。
近づいてくる誰かに抵抗することなく覚悟を決める。


目の前で砂を踏む音がする。
あぁ、もうだめだ。


…?


ガサゴソと何かをしているようだ。
自分の左右で手の気配を感じる。下に向けていた目をぎゅっと瞑った。


ふわっ


なにかが僕を包んだ。



なにが起きた?


「待ってて!今、パピルスとサンズを呼んでくるから!」


そう言うと女の子?は踵を返して走っていったようだ。足音が遠ざかっていく。
状況を整理する。


これはマントか?
多少の砂埃は防げそうだ。茶色い色をしている。さっきのモンスター?がくれたものだろうか?


なんというか…外は暑すぎるくらいなのに、胸の辺りが温かくなっているような感覚だ。


眠たい。
それに蹲っていれば、砂が傷に当たるのも防げる。
あとは、ただただ疲れた。


フリスクは膝をついたままマントで隙間に砂が入らないように全体を覆い、体をうつ伏せにして丸め込んだ。


少し眠ろう。疲れた。
理由も、なにもかも考えたくない。
マントに包まれたまま、目を閉じた。
眠るに時間を使うことなくゆっくりと夢の中に入り込んだ。




温かい。これは最初にHOMEで眠っていたのと同じ感覚を思い出す。
後頭部はふかふかとしていて、体は布団かなにかで包まれている。
ここは室内のようだ。


目をゆっくりと開き、首を動かすと窓が見えた。
窓から外を伺うと日はすっかりと落ちていて真っ暗な夜になり、星々がところどころ大きく光っていたり、小さく光っていたりとキラキラを輝いていた。


体を起こす。どのくらい眠っていただろう?
頭の中がすっきりとしているとしていて、思考がきちんと働いていてよく眠った気がする。


もう一度周りをよく見る。窓の横に扉があってその逆の隣には、ずいぶんと大きいサイズのパソコンが置いてある。
自分が眠っていたであろうベッドのよこのテーブルには桶とたくさんのフィギュアがある。
しかも服はそれぞれ違うのに顔が似ている。
一番に多いのはオレンジのスカーフに黄色のバンダナを付けているものだが、ほかにもオレンジのパーカーをきたもの、人相の悪いもの、トリエルが着ていたローブによく似た服を着たもの、様々だ。


ベッドをよく見るとなにやらファンタジーにでてくようなベッドだ。
切株や草原など木の模様が描かれており、布団はウサギ模様でとても可愛らしい。


僕はここに連れてこられたようだ。
タオルが近くに落ちている。まだ冷たい。火傷跡に当てていたものだろうか。


状況が整理出来てきたころ、窓の隣のドアとは反対側のドアの向こうからなにやら声が聞こえる。よく聞き取れない。


行ってみようかな。


幸い、まだ痛むものの気にするほどじゃない。
ファンタジーなベッドから降りて声のするほうへ進んでいく。


「キャラ!もういい加減寝ないといけない時間なんだぞっ!俺様が人間の面倒を見るからキャラは寝なさーいっ!」


「いやーーー!!私が見るのーーー!!パピルスだって早く寝ないとお化けに連れていかれるんだからね!サンズがそう言ってたもん!!」


「にぇっ……!?お化け…!?ふ…ふふん、そんなこと言ったって俺様は驚かないぞ!」


なにやら喧嘩しているようだ。
ドアをほんの少し開けようとする。


「よう、人間」


!?


部屋の中が静かすぎただけに普通に話すはずの声量に体がびくっと跳ねる。


声をかけられた。しかも後ろから。誰もいなかったし、物音だって聞こえなかったはずなのにどうして後ろから声がするんだ…?


「こんな夜中に起きてるとは、どうやら俺に連れていかれたいようだな?」


もしかしてさっきの二人が話していたお化けなのか…?
ってことはこんな遅くに起きている僕は連れていかれてしまうのか…?
体の指先から冷えて動悸が止まらない。なにかに血を抜かれていくような気持ち悪い感覚。どうしたらいいんだ。
後ろで足音が聞こえた後、耳元で息を吐く音がする。


「まぁ、そんなに怯えるなよ。ここでのあいさつの仕方を教えてやる」


「こ っ ち を む い て 俺 と 握 手 し ろ」


バァァァン!!


一気にドアを開いて全速力で逃げようとする。
逃げ道はどこ!?
ドアを出てすぐの階段を降りていくと先ほど大声で喧嘩していた二人が驚いた顔でフリスクを見ていた。


そんな二人の間をを遮って走る。ドアがある!あそこから逃げれる!


「heh 逃げられると思ったか?」


青色のフードを深めに被った人物が行く手を阻んだ!


この声はさっきのお化け……どうしよう連れていかれちゃう!
他に逃げ道は…だめだどこにもない!なら窓から逃げれば…!
あぁぁぁぁ取っ手がないから開けられない!!


慌てふためいて必死に逃げ道を探すフリスクを見て、なにやら楽しそうにしているお化け。


「…サンズ、俺様が怒る前に、人間をからかうのはやめた方がいいと思うぞ」


後ろにいる、喧嘩していただろう人物がフードのお化けに言った。


「はいはい、分かったよ。パピルスは怒ると怖いもんなー」


フードのお化けは少しだけフードを手で後ろに下げると顔が見えてきた。
白い肌ににやりと笑う口元、目は僕よりも大きく、空洞になっているようでそこから白い目が見える。それに手も白い。骨…?


「悪かったなちびっこ。脅かすつもりはなかったんだよ」


「またそんなこと言って!誰かで遊ぼうとするそういうとこ、俺様嫌いだからな!」


「はいはい」


え?お化け…じゃないの?あれ、でもお化けっぽいよね?
だって骨だし、脅かしてきたし…?


意味の分かっていないフリスクを放って会話する二人。
青いフードを被った方がサンズ、だろうか。
青緑色のマフラーがまず最初に目について、青いフード付きのマントで右腕を隠し、中に藍色の大きいチャックが特徴的なパーカーを開けてその中に白い服を着ている。黒のズボンに同じ黒色のブーツに入れている。


後ろを振り返る。そこには背の高い骨の姿をしたモンスターがいた。
このモンスターがパピルス、だろうか。
オレンジのスカーフに黄色いバンダナ、白いTシャツの鎧…?に赤いパンツを履いている。へその部分だろう場所までは白い鎧?で隠されていない。黒いインナー、赤い手袋とブカブカのブーツを着ているようだ。
部屋に会ったフィギュアと同じ姿だ。それに僕をあのサンズというモンスターから助けてくれた。そのせいか、まるでヒーローにでも会ったような気分になる。


パピルスの服装を下まで観察していると彼の後ろに隠れて足をぎゅっと掴んでいる女の子の姿があった。さっき言っていた、キャラという子だろうか?……人間?
薄茶色の髪、部屋の光に反射して輝く赤い色の瞳、頬はほんのり赤いように見える。薄水色のワンピースには黄色い線の横縞模様が一本、デザインされている。
黒いタイツに茶色の膝下までのブーツを履いている。


フリスクの顔を見るなり、女の子は思い出したように顔を赤らめて顔を下に向けてしまった。
力強く足を掴んでいることに違和感を覚えたパピルスが足元の少女に声をかける。


「キャラ、どうしたんだ?あの人間と友達になりたいんじゃないのか?」


「…………」


「お年頃ってやつかもな。こういうのは出来れば手を貸してやるのが一番なのさ。なぁ人間、お前さん名前はないのか?」


サンズがフリスクの目を真っすぐ見て質問する。
あまり真っすぐと見られたことがないから多少違和感を覚えるも嫌ではない。


だから僕もサンズの目を見てちゃんと答えることにした。


「僕の名前は、フリスク」


「フリスクか…なかなか変な名前だな?」


「サンズ!!名前を馬鹿にするな!ちゃんと名前っていうのは気持ちや意味が込められていたりするんだよッ?」


「はいはい」


おちゃらけた態度をとるサンズとそれを叱るパピルス。
骨と骨…。兄弟なのだろうか。


兄弟か………。


もう一度、視線を少女に向ける。


どうやらフリスクが骨兄弟を見ている間にこちらの様子を伺っていたが、目が合うとまたすぐに下を向いた。


思い出してみる。HOMEを出た後、駆け寄ってマントをくれた声とさっき喧嘩していた声、よく思い出してみるとやはり同じ声だ。


ということはこの子が僕を助けてくれたのだろう。
歳は僕と同じくらいだろうか?


……まだ目を合わせてくれない。嫌われること、僕の知らないうちにしちゃったかな?
いや、それはないかな。寝相はいい方だし、さっき喧嘩してるとき「私が面倒みる」って言っていた。あれはきっと僕のことだろう。


「あ! そうだ!」


なにかを思い出したような顔をしたパピルスがフリスクのほうに体を真っすぐと向けて、
んんッと咳払いしてからはきはきとした声を出す。


「挨拶が遅れたな!フリスク、俺様はあの有名なロイヤルガードの一員!パピルス様だッ!そんな偉大な団員の一人に出会えるなんてお前は幸運の中の幸運…大幸運だ!さぁ、光栄に思えッ!」


「……あ…うん。すごいね…」


なんか…そんなキラキラした目と嬉しそうな表情で言われてもそんな言葉しか出てこない。


「ふふん!グレートすぎる俺様に言葉が出ないのか?これはもうさすがに俺様でも自惚れてしまうくらい誇らしいことだッ!…でもまだ下っ端だし、アンダインからはお前は”ますこっと”だからお前は何もしなくていいって言われてるけどね。…”ますこっと”ってなんだろうね?」


僕に対して質問しているように聞こえてくる。


「わかんない」


とりあえずそう返す。だって本当にわからないし。
二人の会話を聞いてプクククと笑う声がする。サンズだ。
笑われていることに気づいてパピルスはムッとした顔をする。
そのことに気づいたサンズはなんとか笑うのを堪えてフリスクに向かって挨拶する。


「プッククク…………はぁ、面白かった。…あぁ、俺はサンズ、スケルトンのサンズさ。よろしくな。さっきは脅かして悪かったよ。パピルスとは兄弟なんだ」


本当に悪いと思っているのか、それにしては笑い涙が目から出ているし、堪えようとしていてもクククと笑い続けている。


「ほんとサンズはからかうのが好きだよね。全く、こんな兄ちゃんを持って弟は苦労するよ」


未だに笑っているサンズに白けた視線を向けた後、兄を無視して自分の足を掴んでいる少女に声をかけた。


「キャラ。ちゃんと挨拶してみるんだ。大丈夫!悪い奴じゃないぞ!この偉大なパピルス様が保証するッ!」


少女はまだ足を離そうとしない。
パピルスの細すぎる骨の足では全身を隠すことはできていないようで薄水色のワンピースの横縞模様もはっきり見えている。


顔は見えないがなんだか不安そうにも見える。
この三人に害はなさそうだ。近づいてみると少女はわずかに後ろへ下がろうとする。
パピルスは掴む力が強まっていることを感じて痛そうにしているが、あえて痛いとは言わずキャラをニコニコと見つめている。
まだ下を向いたまま、もはや頭のつむじが見えている。
まるで深々とお辞儀をされているかのようだ。


あまり距離を詰めすぎないように、逆に離れすぎないようにと適切に距離を縮める。
手を伸ばしても届かない距離。このぐらいがちょうどいいのかもしれない。


息を吸った後、フリスクは声をかけた。


「えっと…初めまして、フリスクです。キミは…あの時マントをくれた子?」


少女はこくりと頷いた。


……………。


………………………。


どうしよう、沈黙が続く。


フリスクも沈黙に耐えられなくなって視線を逸らす。


後ろでサンズが小さく「青春だねぇ」と言ってクククッと笑っているのが少し苛立たせた。


それならこの静かすぎるこれになにか言ってほしいよ…。


そんな心の声がフリスクの中に生まれている。
少女がほんの少し顔を上げた。まだ顔を見て話をすることはできないようだが、口元が動いているのが分かる程度には頭を上げている。


「…っ………私の…名前は……キャラ………」


可細い声、この距離まで近づかなければ聞こえなかっただろう。
そのあとすぐにまた頭のつむじが見えるほどまで頭を下げた。


「!! キャラ、すごいぞ!ちゃんと挨拶できたッ!これでお前たちはお互いの名前を知ることができたッ!これで友達だ!」


パピルスは自分の事のようにとて大きく喜んで、キャラの頭をわしゃわしゃと雑に撫でて、サンズはとても感心したように大きくうなずいて嬉しそうに笑っていた。


「よしよし、よく頑張ったな。さすが俺の兄弟だ」
サンズがキャラに近づいて左手で頭をポンッと撫でた。


フリスクからでは見えないがキャラは顔を真っ赤に赤らめながらも褒められたことを嬉しそうにしていた。


なんだか三人の間でものすごく和んだ雰囲気になっている…?
僕、置いてけぼり?
…?人間の姿であるキャラを兄弟って呼んだ?


不思議に思うフリスクに気が付いたのか、その疑問に答えたのはサンズだった。


「ん? なんで人間とスケルトンが兄弟って言ってるか、不思議そうだな?」


そもそもフリスクは表情が読み難いにも関わらず的確についてくる。


「あー、キャラはお前と同じでフィリア砂漠に迷い込んだんだよ。しかも赤んボーンの時にな。今は俺たちスケルトンと暮らしてるってわけ。ボーンだけにってか?」


…?
新手のギャグだろうか?
ニシシと笑っているサンズを放ってキャラとパピルスは白い目で見ている。


なんだかトリエルと似たジョークを使うなぁ。


「それはともかくだ。フリスク、お前怪我はないのか?」


パピルスが心配そうに体を曲げてなんとかフリスクの目線に立とうとしている。
足元にキャラがいるため、かがむことをせず、腰を90度くらいに曲げている。


まじまじと見られているようだ。なんだかくすぐったいように感じていた。


「うん、見た目は大丈夫そうだな!でも、今日は夜も遅い!今夜は俺様の部屋でぐっすり眠るといいぞッ!もしかしたら森の中でうさちゃんに会う夢を見れるかもしれないからな!」


森にうさちゃん。あのベッドのことだろうか?
………夢は見てない。ぐっすり寝ていたみたい。
でもそのことは彼が気づかないように言わないでおこう。


「ん、そうなるとパピルスの部屋で三人とも寝るのか?狭いだろ。誰か一人くらい俺の部屋で寝た方がいいんじゃないか?」


「サンズの部屋は別次元だからダメだぞ!俺様の部屋で寝かせるからな!」


「オッケー。じゃあ後の事はいいな?ちょっと俺はグリルビーズにでも行ってくることにするよ」


そういうとサンズは出入口のドアから出ようとする。


「あ、そうだ、お前さんもくるか?」


…? どうやら僕に言われているようだ。


「サァァンズ!フリスクは俺様のスパゲッティを食べるんだ!……とは言ったものの、本人がどっちにするかだよな。フリスクはどっちに行くんだ?」


え…これはどちらか選べって事?
スパゲッティかグリルビーズ?グリルビーズがよくわからないけれど、気になるから行ってみようかな。


好奇心というやつだろう。悩みはしたがすぐに解決した。


「えっと。じゃあサンズについていく」


一人は勝ち誇った顔をして弟を見る。一人は気に食わなさそうに兄を見ていた。


足を掴んでいたキャラが思い出したようにパピルスから離れ、階段を上がりフリスクが眠っていた部屋に入っていった。


骨の弟がなにやら言い争っているが兄は平然と言葉を受け流している。


しばらくしてからキャラが部屋から出てきた。
なにかを持っている。茶色のマントに縁の黄色いゴーグルだ。
キャラがそれをフリスクに手渡した。先ほどよりは顔が上がって表情が若干わかるが、まだ確信を持って言えるまでは見えない。


「これ、使って。もともと私が使ってたんだけど、新しいのはパピルスに作ってもらってて、明日にはできるみたいだから……」


くれるということだろうか?


茶色のマントとゴーグルをもらった。


「おう、ちびっこ。一応着て行ったほうがいいぞ。砂漠は昼こそ暑いが夜は極端に寒い。雪が降る事もあるから風邪をひいちまうぜ?」


サンズに続いてパピルスも同意して言う。


「サンズの言う通りだぞ。まぁ、俺様は夜になったら外にはで出ない!寒いから!それにお化けが出るらしいからね」


お化け。


フリスクはその言葉に反応して咄嗟にサンズの方を見る。
もともとニヤニヤとした顔では意思は読み取れなくて目が合う。


「……大丈夫だって。お化けなんて本当はいないから」


本当にいない…?
あ、そうだ、ナプスタだってお化けだった。なんだ、簡単な事だった。


そっと胸を撫で下ろす。


「まぁ、そういうことだ。ほらさっさと着替えてこい」


マントを着ようとした際、キャラが何かに気づいた。


「待って、短パンじゃ寒いよ。待って、新しいタイツがあったはず!持ってくるから」


また踵を返して部屋に戻るキャラ。
部屋に入ったのを見計らってか、パピルスが口を開く。


「あのキャラがあんなに嬉しそうな顔をするの、俺様初めて見たかもしれない」


「奇遇だな、俺もだ。同じ人間ってだけでこうも反応が違うもんなんだな」



「ここに来たばかりの時はとっても暗い顔をしていたんだ。なんか、兄弟を探しているんだって。なんて兄弟思いな子なんだろうね…。きっとその兄弟は幸せ者に違いないぞ」


「ん?確か、探しているのは金色の……」


ガチャ


サンズが言おうとした途端、部屋のドアが開く。キャラが真っ黒のタイツを持ってきてくれていた。


「フリスク、今の話はキャラには内緒だぞ」


こそこそとパピルスが耳打ちした。
階段を降りてタイツをフリスクに渡した。
最初に会った時のようにはきはきと声を出して、はっきりと顔を見て言葉を吐き出した。


「これ、使って。あと、その靴だと砂が入っちゃうからこの靴も使って」


玄関にある黄色のブーツも出した。


「じゃあささっと着替えておいで、俺は待ってるから」




少しして着替えが終わった。
茶色のマントに青い服に2本の紫色の横縞の入ったストライプの長袖、焦げ茶色の少しブカブカした短パン、中には黒タイツを履いて黄色いブーツを着ている。


三人は似合ってる似合ってると少し盛り上がっている。


ゴーグルはどこに着けたらいいかな?


悩んでいると、キャラが声をかけてくれる。


「それは頭につけておいた方がいいんじゃない?」


そういうと茶色のマントについているフードの上からキャラがつけてくれた。


「これなら風でフードが飛ばされないでしょ?」


この家に来たばっかりのときとの対応の違いに戸惑う。
そのことにキャラも気づいたか、手を止めて口を大きく開いて顔を真っ赤にさせる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ごめん!つい弟に似ていたから!癖で……!」


キャラが叫び声で全員がびっくりし、叫びをあげた当人はすごいスピードでパピルスの後ろに隠れた。


あれ、この状況、さっきも見たな。
でもお礼は言っておかないといけない。


「キャラ、服ありがとう。大事にするね」


声に反応してキャラがフリスクの顔を今度はきちんと真っすぐ見る。


「…………うん!」


返事をしてくれたことに嬉しさがこみ上げた。




「じゃあ、行ってくるね!」


お留守番をするパピルスとキャラに声をかける。


「うん!行ってらっしゃい!」


キャラがとてもにこやかに見送ってくれた。


ドアを開けるととても攻撃的な風が吹きつける。
昼の時とは違う強烈な寒さ。キャラからマントをもらって正解だった。
でなければこの寒さには耐えられなかっただろう。


「悪いな。本当はショートカットができればよかったんだが、何度も使うと疲れてしまうから今は使えないんだ。ちょうどグリルビーズは近いし、歩いて行ける距離だからなー」


サンズの隣を歩いていくと砂を踏む音がする。
寒いけれど、やはりここは砂漠のようだ。


「フリスク、寒くはないか?」


心配してくれているのか、声をかけてくれる。


「うん、ちょっと寒いけど大丈夫」


とは言うものの寒い。体全体がガタガタと震えていた。
サンズは首に巻いているマフラーを解き、フリスクに巻いた。


「馬鹿だな。大丈夫っていうやつが一番大丈夫じゃないんだよ」


マフラーがとても温かい。でも彼のマフラーはとても長くて身長の低いフリスクではぐるぐる巻きになっても引きずってしまう。


………うーん。


「サンズ、少ししゃがんで」


「ん?」


身長はサンズのほうが少し高いくらいなのだが、しゃがんでくれたほうがやりやすい。
フリスクは長すぎるマフラーの半分をサンズにかける。


「……!」


サンズは少し驚いたようで、笑みが若干消えたが、すぐさまいつものにやにやとした顔に戻る。


「heh なんともませたことをするもんだ。こういうのは好きな子にやればいいのだろう?」


「勘違いしない。これ、長すぎるんだよ。それにサンズだって寒いでしょ?」


「ふっ…ありがとな、フリスク」


マフラーを半分こずつに巻いて夜の砂漠を歩いていく。
なんだか特別になったような感じがする。


歩いていくとGrillby'sと書かれた看板が見えた。
どうやらHOMEと同じで残った遺跡を改装したようにただずんだ赤色の多めの建物だった。


「ここだ」


ガチャ


ドアを開くと、そこはバーのようだった。控えめの照明は青色に光っており、真っ先に目についたのは照明とは対照的に赤色に燃えるバーのマスターであろう人型をした炎のモンスターだった。
そのほかに客がいるようで、犬の姿をした二息歩行のモンスターの兵士が6匹、ポーカーで賭け事をしているようだ。景品は、ほねっこジャーキーの様子だ。
魚の姿をしたモンスターが2匹、その他もろもろ。
繁盛しているようだ。


犬のモンスターの一匹がサンズに気づく。


「あら、サンズィじゃない!今日もきたのね。ポーカーでもしない?いつも相手が同じだからつまらないのよ」


「いや、今日はいいや。今はこいつとデートタイムだからな」


そう言ってウインクをする。


「キャー!サンズィってば本当にそうやっていつも私のアプローチを躱すんだからー♡」


えっとここではサンズは人気者なのかな?


「ほら、フリスク、こっちだ、座れよ」


互いに同じマフラーを巻いているため首が締まらないように誘導するサンズ。
促されるまま、サンズの隣へ座る。


「グリルビー、オレンジジュースを1つくれ。あとは、フリスク。お前シチューは食えるか?」


シチュー?なんだそれ?


「なにそれ?」


思ったことを口にすると思いがけない返答にサンズは少し混乱した。


「お前、食ったことないのか?……分かった。グリルビー、シチューを2つ追加だ」


炎のモンスター、グリルビーはこくりと頷いて、ドアの向こうへ行った。


「こういう寒い夜に食うシチューはうまいんだぞ?しかもグリルビーは料理がめちゃくちゃうまいときた。お前さんも癖になると思うぞ」


料理には食材が必要なはずだ。砂漠の中、そのところはどうなっているのだろう?
聞いてみることにした。


「砂漠なのに食料はあるんだね」


「いや?食料なんてあんまりない。そもそもの話、人間と違ってモンスターは別に食わなくたって生きていける。食事なんて娯楽に似たものさ」


「食べなくても生きていけるの?どうやって…?」


「あぁ……そもそもの話。俺たちモンスターの生命の源は誰かを想う心だ。誰かを想いあってこそ存在できるんだ。それが、どんな形であれ…な。おっと料理が来たみたいだぜ?口に合うといいんだがな」


話し込んでいるうちにグリルビーがオレンジジュースとシチューを持ってきてくれた。
野菜が入っている。芋に赤い野菜に…液体が白い。


スプーンで口に運んでみる。お腹が空いているため躊躇なんてしない。


…ん、なめらかでおいしい……!!トリエルが作っていたパイも美味しかったがこれも美味しい……!


がつがつと食べる様子をサンズは頬杖をついて微笑んで見ていた。
マフラーはまだ半分こに巻かれたままだ。


「美味しいみたいでよかった。まだ足りないなら俺のも食っていいぞ」


……!!


そのことが嬉しかったのか、自分の分を食べた後すぐにサンズの分を一気に胃に流し込み、食べつくした。最後に残ったオレンジジュースを大事そうに飲んでいる。


「あーさっきの話だが、確かにここは食料が少ない。パピルスが得意とするスパゲッティだって小麦はあるから麺を一から作ってるんだ。それに水だって使う。だからわざわざオアシスまで行って水辺にモンスターたちに何度も頼み込んで水を貰っているんだ。みんなに食べさせて元気になってもらうんだってな。あとは、あいつは物を作るのが得意でな。ある博士と服を作ってる。パピルスの部屋のあのフィギュアだって手作りだ。デザインは俺が教えた。いや、正確には俺が考えたわけじゃないけどな」


ストローでオレンジジュースを飲みながら話を聞く。


「キャラも色々あって、今は俺たちの世話になってるが、とても働き者でな。家の家事はほとんどあいつがやってる。あれはいい主婦になるぜ?掃除に洗濯にパピルスの寝る前の絵本の読み聞かせもできるときた。そのくせ家事が楽しいらしくてな」


「本当に俺の兄弟たちってクールだよな」


……自慢話かな?


その後もキャラとパピルスの良い所をいっぱい話しているうちにフリスクのオレンジジュースはカラになっていた。



「さてと、もう夜も遅い。さっさと帰るか。グリルビー、つけといてくれ」


マフラーが半分ずつに巻かれているため、ゆっくりと慎重に椅子から降りる。
サンズが何かを思い出したようで自分のかかっているマフラーをフリスクにぐるぐると巻く。


「悪い、フリスク、用事を思い出した。俺はちょっと寄る所があるが、帰り道は分かるな?」


「うん」


「ならいい。そのマフラー、ちゃんと返せよ?パピルスが作ってくれたものだからな」


その言葉を残してサンズはグリルビーズを後にする。


それに続いて、フリスクもバーを後にした。


外はやはり寒い。サンズから借りたマフラーがとても温かい。
周りを見渡すもサンズはいなかった。


その代わり、金色の花がこちらを見ていた。


「………やぁ」


フラウィーだった。
会うのは3回目だが、なんとなく不機嫌なように感じる。


「あのにやにやしたごみ袋に関わらない方がいいよ。あいつは危険だから」


そう言うフラウィーは、視線を下に向けている。
フリスクはしゃがんで話を聞くことにした。


「どうして?」


「……いずれわかるよ。あいつはここにいる誰よりも危険なんだ。だから言っているだろう?僕と一緒にここから逃げるんだ。僕はもうあの時みたいに強制しない。どうする?」


懇願するような瞳。
逃げようと言われても状況が整理できていない。
それにあんなに兄弟を想うサンズを信用できないわけがない。
答えは一つだ。


「フラウィーがサンズに対してどう思っているかはわからないけれど、サンズはいいモンスターだよ」


「キミは分かっていないからそんなこと言えるのさ。あいつだけじゃない、側にいるキャラもキミにとっては危険な存在なんだよ」


「ううん、違うと思う」


自分の意見を否定されたせいか、フラウィーは声を荒げる。


「うるさいな!!どうせリセットの力があるからってそんなことも試そうっていうのか!?馬鹿じゃないの!?一回痛い目をみたら!?僕は忠告したからね!」


フラウィーが背中を向ける。
そのまま地中に潜るかと思ったが、フリスクの方へ振り向いた。


そして、こういった。
歪な笑顔で。


「あぁ、じゃあさ、もしキミに好奇心っていうのがあったなら、もし、もしだよ?誰かを殺してもリセットできてしまうことも、逆につまらないからリセットして殺しちゃうこともキミは出来るんだ。そんな力、たくさん使わないと…ねぇ?どうせ最初からに戻るんだから」


アハハハハ!!と声を高らかに上げてフラウィーは地中に潜っていった。


リセットの力?最初から戻る?意味がわからない。
そんなこと気にしても仕方ない。家に帰ろう。


寒い砂漠の夜を、ただ一人、神に似た力を得た子供は歩いていく。





snowdin      兄弟    end


ずいぶんと長くなりました。ただ会話しているだけなような気が…。
やっとキャラ、サンズ、パピルスが登場しました!長かった!
兄弟らしく仕上がっていれば幸いです。
あ、パピルスの部屋のフィギュアでピンッと来た方は多いかもしれませんね。
それになぜサンズがそんなことを知っているのか、語られることはあるのでしょうか?
あと、大事なキーワード、モンスターたちが生きれるのは誰かを想う心。これは覚えていて損はありません。