sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

番外編 1

これはフリスクと呼ばれる人間がフィリア砂漠に来る前の……遠いようで、最近起こったこと。



___________________________




「この古代文字の法則。私にはよくわからないんだ。なんの暗号だろう」


薄暗い地下の部屋。


ここは【叛逆の遺跡】と呼ばれる場所。


なぜ叛逆などと言う物騒な名前なのかは分からない。
気が付いたらそういう名前になっていたのだから誰もその理由を知らないし、知る必要もないし、知ろうとも思わない。


その一角で、ランプを持った影が壁に書かれている文字とにらめっこをしていた。



「…全く…意味が分からない文字だ…」



ポストのような絵、どくろのマーク、◇に□のマーク、様々な文字が並んでいる。



全く意味がわからない。
そもそも文字と呼んでよいのかもわからない。ただの子どものイタズラ書きにも見える。


「……はぁ…これじゃいくら書き記して解読しようとしても意味がない…この文字?さえ分かってしまえばこの砂漠から出られるヒントを得られるかもしれないのに…」


狭い室内に大きなため息が響く。


壁に書かれている文字をノートに書き記していく。


「早く帰らないと日が沈んでしまうな…どうしようか…みんな研究に没頭しすぎてピリピリしてそうだなぁ…帰るの気が重いなぁ…。なにか食べ物くらい持って行けば少しは…またカップ麺になるのか…。おいしいけどホットランドまで買いに行くのとても面倒なんだよな…」


さっきほどではないがため息を吐く。


ポペトチッスプでも買って帰るべきか…。


別にお腹が空かないのが僕たちモンスターなのだけど、食べ物は娯楽だから気を紛らわせるのに最適なものなのは変わりない。



研究員は【4人】


互いに、思いあいながら生きている。


そういえば、セカンドが言っていた。


「僕たちの生きる過程において重要なのは【誰かを想う心】… でも思わない? もし、その心を失った時、モンスターはどうなるのか」


あれはとても興味深い話だ。
人間と違い、食事や水を取らなくても生きていけるその原理。
そのことに誰も疑問として問うことがなかったから。


モンスターの死、人間との争いがなくなってからは寿命で亡くなるのがほとんど。
子が大人になるまで。子どもに自分の持つ力を与えてから死ぬ。


だから、アズゴアが死ぬ時…それは新たな王の誕生を意味する。


そう、アズリエル・ドリーマー王の誕生である。


死んだ者は塵へと還る。
埋葬はこの砂漠の砂とともに生きれるように…と塵を風に乗せて砂へ還す。
そうすれば、塵は砂漠の砂となり、みんなを見守るとされている。
死んだのではない、砂漠の砂となっただけだ。


それが、この世界の習わしだ。


「…仕方ない、帰りながら考えるか…」


影はランプを持って、叛逆の遺跡を後にした。



………………………。



『古代文字にはこう刻まれている』



☹♏⧫ ⧫♒♏ ⬧⧫❒□■♑♏⬧⧫ ◻♏❒⬧□■ ⧫♏●● ⧫♒♏ ⧫❒◆⧫♒ □♐ ⧫♒♓⬧ ♎♏⬧♏❒⧫



『最も強き者に、この砂漠の真実を知る権利を与えよう』




彼らは知らない。これから起こることも。
自分たちの存在が消えて、新たな存在が誕生することも。


それが【Gaster】と言う名になることも。



番外編 first followerの記憶    end

戦う理由


……。


今度は階段を上がっていく。


キャラがついてこない。当たり前だろう、サンズが止めたのだから。


長い…長い階段。


長かったようで短いこの冒険が終わる。


何を成し遂げようとしているのかさえ分からなくなるほどに長い道。


終わりが全く見えない道。


トリエルと出会って数日は二人で暮らし、帰ってきてと約束をした。


キャラに出会ってパピルスとサンズと出会って、花を探す約束をして。


アンダインに追われ、流砂に飲み込まれ老父とキッドに出会い遺跡のことを教えてもらった。


砂が鳴くオアシスでメタトンに出会った。


アルフィスの研究所で傘をもらってコアに向かった。


思えばいろんなことがあった。


その全てが大切なことだったのか、それは分からない。



そろそろ階段を上がり終える。


近くに大きな扉が見えた。
あそこが玉座だろう。


フリスクの身長の倍以上ある大きな扉。


手をかける。大きいが重くはない。


重々しい音と共に扉が開いていく。



誰かがいる。



夕日に照らされた玉座の前。


誰かが背中を向けている。



扉が開いた音で気づいたのか、こちらに振り向いた。



「………」



紺色のマントに肩に金色の装甲。
頭に生えた二本の大きな角。金色の髪と髭が生えていて、とても優しそうな黒色の瞳はじっと人間を映していた。


「…君は…人間だね」


敵意がないように見える。
すぐに戦うというわけではないのかもしれない。


「…何を話したらいいかわからないね。あ…まずは自己紹介でもしておくべきかな…」


目の前のモンスターは大きく息を吸って、吐き出した後、こう言った。



「私の名前はアズゴア・ドリーマー。この砂漠の王。私の娘……キャラが世話になったようだね。ありがとう」



アズゴアは自分が王であるにも関わらず、人間に深々と頭を下げた。


「…君の事はアンダインとサンズから聞いている。何をしにここまで来たのかもね…ついてきなさい」


アズゴアはフリスクに背を向けると奥の部屋に入っていった。


今ならポケットのなかのお守りで背後から刺し殺すことができるだろう。
だが、そうしないのはまだ人間の心が残っているからか、慈悲深いだけなのか。


フリスクも続いて玉座の奥へ進んでいく。



「…奥の部屋につくまでは歩きながら話でもしようじゃないか」


アズゴアはそう言うと、フリスクの歩くスピードに合わせで歩き始めた。


「…私はね、キャラやアズリエル、妻がいなくなった後、あることをしていたんだ」


「……あること?」


「君は植物を育てた事はあるかい?」


「……ないけど…」


「そうか…とても生きがいになるよ。砂漠化の進むこの場所じゃ、たとえ私が雨ごいの魔法で雨を降らせても新たな命が芽吹くことはない。木の苗もたくさんあるわけじゃない。砂漠に植えたとしてもすぐに枯れてしまう。どうすればよいか、私はずっと考えていた」


「…………」


「ある日、ある植物を見つけたんだ。それはキャラの…本当の両親が持っていた遺品なんだ。二人とも砂嵐から赤子を庇うように…覆いかぶさって…亡くなっていた…。私は弔いとしてキャラの肉親とそれを埋めた。そうするとどうだろうか…そこから新しい命が芽吹いたんだ。私はそれを紋章に刻まれた希望を意味するものだと思ったんだ」


話の区切りがついたところで、大きな扉に差し掛かる。


「君も見てみるといい」


アズゴアが扉を開けて見せた場所。部屋だった。家具もない。


夕日が差し込み、一見なにもないように見える。




部屋一面に咲く金色の花を除いて。




「ここは人間たちの墓場なんだ。この砂漠に来た人間を埋葬する場所…。…ここで死んだ人間の遺体を埋め続けてから不思議なことに花が咲くことに気づいたんだ。私はこの花で砂漠化を止めることができないか…考えていたんだ。もしかするとここに来た人間は私たちモンスターにくれたプレゼント…なのかもしれないと。その命を賭けた…私たちへの…と」


アズゴアがフリスクから目を逸らす。


………………。


………………………………………………。


………………………なにそれ。




…まるで僕がモンスターに捧げられるための供物だって言ってるようなものじゃないか。




そんな理由でこの砂漠に来たわけじゃない。


そんなつもり一切なかった。


頼むからここで死ねって?


お願いだから死んで砂漠を救ってくれって?


そう言っているの?


冗談じゃない。


僕の命は僕だけのものだ。



フリスクはポケットからナイフを取り出した。



アズゴアはフリスクの殺気を感じても微動だにしない。目すら合わせない。


「……ソウルはあと一つ。君ので最後だ。7つあれば砂漠から出られる。そうでなくとも君を埋めれば花が芽吹いてくれる。それだけの話だ…」


どこか寂しそうに、でも覚悟を決めたようにアズゴアは右手を振り上げると金色の花を模した赤い槍を魔力で形成する。



「……さよなら」



______________________________




「う………」


最後の回廊。


サンズとキャラが、ただフリスクが行ってしまった先を見ていた時だった。
突然キャラが苦しみ始める。


それを見てサンズが駆け寄り、背中をさすった。


「大丈夫か?」


胸を押さえて苦しんでいるようだった。


「…フリスクが…フリスクが…苦しんでる……一人で戦って…何度も死んでいる…」


「キャラ…? なにを言っている…?」


「フリスクが…つらいって…悲しいって…死にたくないって…ずっと……感じる…」


「………………………」


冗談を言っているように見えない。
ずっと兄妹として暮らしていたサンズだが、その言葉にどう答えるのが正解か、分からなかった。


「………フリスク…」


彼女はただ、片割れのロケットペンダントを握りしめて祈っていた。




______________________________




「あーあ。いいの? 殺さなくて」


話したのはフラウィーだった。
その様子を緑色の瞳が睨んだ。


「どうせ君が殺すんだ。僕がどうこうしようが問題じゃない」


その発言でフラウィーは一瞬笑みが消えたがすぐさまうねうねと体をひねらせ嬉しそうに話し始めた。


「きゃはは!!!よく分かってるじゃん!! ………………………」




「君さぁ…一体何週目なわけ?」




フラウィーが不気味に口を歪ませる。
それを冷たい目で見降ろした。


「……忘れたよ」


人間がポケットから何かを取り出した。


バタースコッチシナモンパイ。


トリエルの遺跡からここまで来るのに様々な騒動があったのが原因だろう。サクサクとした生地もなにもかも潰れてしまって冷たい。


金色の花畑に座り、潰れたバタースコッチシナモンパイのラップを外して素手のままつまんで食べる。
潰れてしまったせいで食感は悪く、なぜだか味がしない。


トリエルと一緒に食べたときはとても美味しかったはずなのに。


いつの時だったか…キャラと一緒になにかを食べた時があったような気がする。


サンズと一緒になにかを食べていて…サンズの分も食べてしまったような気がする。


思い出せない。


思い出せない。


思い出せない。


それはいつの記憶?


それは大切だった思い出?


忘れてしまうほど重要なことじゃなかった?



「……そろそろ君はResetをしないといけないね」



フラウィーが告げる。


Resetの意味。Resetをする方法。


それを二人は知っている。


「……残念だけど、Resetしてしまえば僕はまた君のことを忘れる。もう一度、あのルインズのベッドの上から始まることになる。そして僕は君にハウディ!!って言うんだ…」


人間はなにも答えずにパイの欠片を花畑にこぼしながら、口にパイを運ぶ。


「…ほら、これを忘れちゃResetできないだろう?」


フラウィーが手渡したもの。




折りたたみ式のサバイバルナイフ




これはフリスクがフィリア砂漠に来る前から持っていた物。


フリスクのお守り。


ないと安心できなかった物。


相手を殺すためのもの。


自分を護るためのもの。



「…君はなにかを変えようとしたんだろう? でも”今回も”ダメだった。どうしてか…分かる?」


「……」


沈黙が肯定だと思ったのだろう。フラウィーは話し続ける。


「君は…モンスターを殺しすぎた。殺していなくとも…怖がらせすぎた。このナイフのせいでね」


「…………」


パイがもう残り少ない。
…もう味のしないものなど食べても意味がないのかもしれない。
パイを捨ててフラウィーの持っている自分のナイフを手に取る。


「…”もし”、変えたいと思うなら…このナイフは一度捨てるべきなんだと思う。ナイフそのものが…君の運命を変えていたのかもしれない。”次は”心からモンスターたちに信頼してもらえるように…このナイフを使うのはこれで最後にしてほしい」


夕日はすでに落ち、星空が瞬いている。



両手で逆手にナイフを高く持ち、構える。



狙いは



自分の首の動脈。



躊躇いも戸惑いも今まで出会った者の想いも



全部



無に還す。




*決意




………………………。


………………………………………………。



金色の花畑に赤色が舞う。


月明りに照らされて輝く花が赤い花に変わる。


まるで絵具でも落としたかのように。



その様子を、フラウィーと星空だけが見ていた。



そして、


彼の瞳から小さな雫が伝って落ちていった。




______________________________






__________Resetが完了しました__________





______________________________





*初めから進める?





→はい




______________________________




「~♪」


キッチン用具がたくさん置かれた部屋で誰かが機嫌よくパイを作っているようだ。
白い毛に頭に二本の角……トリエルだ。



そこに、静かに近づいてくる者がいる。
その気配に気が付いたのか振り向き、少し驚いた後、微笑んだ。



「! あら、目が覚めたのね?怪我は痛む?」



「うん…大丈夫だよ。ママ………ただいま!」







これは金色の花を探す人間の物語。






SANDTALE     戦う理由  Nルート  end



Nルートが、終わりました。


何を書いたらよいか迷います。
そうですね……。投稿した今日…2月8日。
この日はSANDTALEが産声をあげた日です。
そして、アズリエルとキャラの誕生日でもあります。設定上ですが…。
この日にNルートを終えることは元々決まっていました。
思えば、派生として生まれたにも関わらず、この物語の登場人物たちに…作者は情を持ちすぎたのかもしれません。まだエンディングではありません。完成への第一段階を踏んだだけです。これから先、もっと優しくて残酷な世界が待っています。
そうです…PルートとGルート…これはこの物語の真実を知る…いわば真骨頂となります。
Nルートは原作に沿っただけ。伏線でしかありません。


AUを通じてたくさんの人と出会ったこと、この作品を通して築き上げたもの。
確かにAUは派生です。お金だって一銭ももらっていません。ただの趣味で物語を書いているだけです。それでも愛してくれていることを胸に秘めて、完結させることを改めて決意しなければなりませんね。



『……いい加減、よそよそしい口調はやめようか。』


『この先はPルート。誰もが幸せになるルートだ』


『そう。”誰もが”幸せになる。そういうルールに基づいた世界。幸せで満たされていて…それでいて退屈な世界』


『今までのあとがき全部ぼくだったの分かる人、絶対にいないと思うなぁ…』


『ぼくが誰なのか分かる? でも…すでにこの物語に登場してはいるんだよ。知らなくていいけど』


『暇なら探してみたら?』

涙は愛に変わる


【お前さんは今までしてきたこと全部が正しかったのだと】


【嘘偽りなく話す事ができるか?】


その問いに、僕は………。



___________________________________





まるでトリエルと一緒に暮らしていた時と同じ家だ。


リビングがあって、キッチンがあって、子ども部屋もある。


リビングにはソファが置いていて、そこでトリエルが本を読んでくれたのを思い出す。
遠いようで近い過去。
本当は遠い遠い過去の話なのかもしれない。



それが分かるのはResetの力を持つ人間…フリスクだけだ。



本棚にある本を手に取る。


【砂漠に緑を与えるために】【砂漠化を止める手段】【だれでもできるお菓子作り】


砂漠に関する本が大半、わずかにお菓子作りのための本。
お菓子作りの本には色とりどりの付箋が所せましと貼られている。
使い古しているのだろうか。


中を開くとところどころ汚れている。まるで生地を落としてしまったかのようだ。読める所と読めないところがあり、その汚れを取ろうとしたのか、ページがくしゃくしゃになっている。


特に目を引いたのが”バタースコッチシナモンパイ”だ。


これはトリエルがフリスクに作ってくれたもの。
思い出の深いお菓子だ。
このページだけたくさんの付箋が貼られている。
付箋には”焼きすぎ注意” ”前はここで失敗した”など書かれている。勉強熱心なのだろうか。


しばらく本に目を通して、キャラを見る。


キャラはテーブルを見つめていた。
トリエルと一緒にいた場所にはテーブルに椅子が3つあった。
ここには椅子が4つある。子供用の椅子が二つ。


椅子の一つに腰かけてキャラは深くため息をついていた。


ここはキャラにとっての本当の家。なにか思うことがあるのだろう。
声をかけず、そっとしておくことにした。



キッチンへ向かう。


ここも、トリエルと暮らしていた家と変わらない。
違う所があるとすれば、とても汚いことか。なにかがこぼれている。おそらくさっき見たお菓子の生地かなにかだろう。白い粉…小麦粉だろうか、それすらも床にばらまかれて放置されている。


トリエルくらいの大きさでなければシンクの上になにがあるかが分からない。椅子を引っ張ってきてもいいが…どのみち役に立つものはないだろう。
ナイフなら、このポケットに入っている。
このキッチンに必要になるものはない。


リビングに戻ると、キャラが立ちながらうつ向いたままフリスクを待っていた。


「………………………」


キャラはなにも話さない。


「……キャラ?」


フリスクの声にも反応しない。
ただ自分の手を自分で握っていた。
そして振り絞るように、声を出した。


「…っ……あのね……自分の部屋に行きたいの…私一人じゃ…入れなくて…それで…」


キャラがまたうつ向いた。
それもそうだ。ここはキャラの家ではあれど、苦い思い出も多い。
アズリエルが一緒にいたあの部屋に一人で入るのはとてもツライだろう。


「いいよ。行こう」


キャラの手を繋いで先を歩く。


さっきまで手を繋ぐことに抵抗があったのはフリスクのはずだ。
だが、今自分から繋いだ。そのほうがいいと思ったから。



子供部屋。
元はキャラとアズリエルの部屋。


真ん中に大きな窓がある他、部屋の両端にベッドが二つ、鏡合わせのように置かれている。窓の外は夕焼けで満ちている。
ここは地下のはずだ。日の光が届くようになっているのだろうか。
机に、プレゼントの箱が二つある。


キャラの机に一つ、アズリエルの机に一つ。


白い箱に赤い紐。かわいらしくリボン結びをして置かれている。


キャラの机にあるプレゼントは開けられているようだが、アズリエルの机のプレゼントは開けられていない。


「…それね…誕生日プレゼントだったの。私が赤ちゃんの時に、この砂漠に来て…その日にアズリエルが生まれたんだって。私の本当の両親は死んじゃったんだって。だから私の誕生日が分からなくて……生まれてきたアズリエルと同じ誕生日になったの。2月8日。それが私とアズリエルの誕生日」


キャラがマントの中からあるものを取り出した。


変な形のペンダント。雫の形にも似ている。
金色のペンダントは夕焼けに照らされて輝いていた。


「これは、私がここで暮らした最後の誕生日にくれたものなの。パパったら”誕生日にはサンタという摩訶不思議な赤いモンスターがプレゼントを届けて来てくれるのだ!!”って言っててね。パパの部屋に赤い服あるの分かってるのに。アズリエルはそれを信じちゃって…ママは少し呆れながらパイを焼いてくれるの」


楽しそうに話していたのに、途端に暗い表情へ変わる。
楽しかった思い出を前に今の現状はもう戻ることのできない過去なのだと告げているような気がした。


それでもキャラは話す。



「…もし…金色の花を見つけたらお願いをするんだ……」



「私の家族ともう一度幸せな時間を過ごしたいって。アズリエルもパパもママも…私も…みんな帰ってきて美味しいごはんを食べるの。そうしたら、サンズもパピルスもマフェットも砂漠にいるみんな、ここに呼んでパーティするんだ」



声が震えている。


「………」


どう声をかけるべきなのか分からない。
フリスクにはその楽しかった時もなにも、この砂漠には来ていない時なのだから。


「…あのプレゼントの中…開けてみよう」


出た言葉はそんなことだけだった。


「……そうだね」


アズリエルの机の上のプレゼント、箱自体は小さく、手のひらサイズといっていい。
長時間放置されていたせいか、リボンも箱もほこりをかぶっているようで、フリスクは少し手で掃ってからゆっくりと箱を開けた。


中にあったのはクッションの上に置かれた、キャラの持つペンダントと全く一緒の物。
金色で、夕日に照らされ、輝いている。




雫のペンダントだった。



「…私と同じ。もし…同じなら…。フリスク…そのロケット、中を開くことはできる?」


言われてみるとこのペンダント…もといロケットには側面に横線…溝がある。
そこに爪をひっかけ、力を加える。
力を加えられたロケットはあっさりと中を見せてくれた。


中を開くと、雫の形だったものはハートの形になった。小さいが、写真を入れることができるようだ。
そして、文字が刻まれていた。



【あなたに砂の加護があらんことを】



「…やっぱり私のと同じだ」


キャラも自分の持つロケットを開く。
同じ言葉が刻まれていた。キャラのものにも写真を入れるためのスペースがある。ただ、写真を入れていないようだ。


「…二つで一つのものだったのかもね」


フリスクの言葉にきょとんとした表情を見せる。


「ほら、これ」


アズリエルとキャラのロケットを閉じ、くっつける。


雫の形だったロケットは少しだけ歪なものの、開いた時と同じようにハートの形に変わる。


そして中を開いて二つをくっつけると、四枚の花びらのようにも見える。



「……フリスクってロマンチストなの?」


「え…いや…そんなことはないとは思うけど…」


少し怪訝そうな顔をして質問する彼女。
思ったことをやっているだけなのに…そんなに変だっただろうか。


「でも…そうだね。アズリエルと私は二人で一人だったのかもね」


窓に向かって歩いて、そう言った。


「本当に…どこに行ったんだろうね」


その答えをフリスクが知っているのだろうか。
少なくとも答えを知っていても教えることはないだろう。



彼女がフリスクに振り返る。



夕日のせいか、顔が見えずらい。



「そのロケットは君が持っていて。私はもう持ってるからね…もし、アズリエルに会ったら言って欲しいんだ。”このバカ弟。早く帰ってこい”……ってね。頼んでいい?」



「…わかった」






*片割れのロケットペンダントを手に入れた。






*装備する?





→はい






一度、ゴーグルとフードを取り、首に下げた。


あと思い残すことはないだろう。


向かうべきは、この城の地下。


長い階段のように思える。


あの出来事があったからと言って足取りが軽くなったわけでもない。


いくら信頼を得たところで心が軽くなるわけでもない。


進んでいくごとに空気が徐々に重くなり、息苦しいようにも感じる。


長いと錯覚するような階段を降り、その先に、光が差し込む回廊に出た。



ステンドガラスが夕日に照らされ、回廊をオレンジ色に染める。



二人の人間の足音だけが回廊に響き渡る。


ここにいるのは二人だけ。二人の人間だけ。



そのはずだった。



コツコツ……コツコツ……


足音が聞こえる。


真向かいから。誰かがこちらに歩いてくる。


回廊にある柱が影を落とし、それが一体誰なのかを隠している。



それも束の間、歩いてきたそれは黒い足を見せた。




「………………………よう」




サンズだった。


片手をあげ、挨拶でもするかのように飄々とした態度で目の前に立っていた。


「…サンズ? どうしてこんな所に?」


キャラが少し驚いて彼を見る。


「実際、お前さんがどう言おうが、俺には関係ないんだ」


「…どういう意味?」


キャラの問いにサンズは小さくため息をついて頭を掻いた。


「でも仕方ねぇじゃん、そうやって話せって言われてんだから」


「話せ…って誰が…」


サンズはその質問を無視し、話し続ける。
まるで自分に言い聞かせるような言い方なのが気になったがフリスクもそれを聞かなかった。


「これからお前は王に会う。この世界の行く末はお前次第だってことさ。…お前さんは今までしてきたこと全部が正しかったのだと…嘘偽りなく話す事ができるか?」


「………………………」


「いつから心を失った?」


「………………………」


「いつから自分自身を遠ざけた? 」


「………………………」


「いつから自分が傷つかなくなったか、覚えているか?」


「………………………」


「……フリスク…? サンズ……?」


キャラが心配そうに顔を覗かせている。
それでもサンズは続けて話す。


「……答えられねぇならそれでもいいさ。その沈黙が答えだ。この薄汚い兄弟殺しが


一瞬だけ、サンズの目が真っ黒になった気がした。
二人の顔を何度も何度も見合わせておどおどとするキャラは蚊帳の外にいるかのようだ。
それでも動じないフリスクにサンズが首を横に振ってため息をついた。


「…”カマかけた”ってんのに、お前、何にも喋らないんだな…。俺の言おうとしている事からは何も学べそうにないってか?え? …お前さんの瞳には何が映っている?」


それでもフリスクは答えない。


「…ま、さっき言った通り…どう答えようが重要なことじゃないんだ。大事なのはお前さんが自分の心に正直か否かだ。自分の心に正直で生きる限り、正しいことができる。お前さんが持つものがLOVEか…それも含めてな」


フリスクは何も言わずにサンズを横切っていく。


一瞬だけ、目が合った。


影のなか、藍色の瞳が静かにフリスクを見つめて光っていた。


いくら仲良く接していたとしても彼はモンスターだ。
その瞳は真意を問う瞳。心から信頼していたわけではなかったのだろう。
今まで、勝手に仲が良いと思っていたのはきっと自分だけ。


死んでしまえば全て忘れられてしまうのだから。


ろくな会話もできていないにも関わらず、フリスクが奥に行ってしまい唖然としていたキャラは慌ててついていこうとすると、それをサンズが止めた。


「キャラ、お前はダメだ。この先には行ってはならない」


「………どうして?」


純粋に分からないという顔をしてサンズを見上げていた。
サンズはフードを深くかぶり、マフラーで口元を隠す。


「なんでも。ここでは俺が絶対だ。いくら王族のお前でも通すことはできない」


「だめ。フリスクが危ない目に遭うかもしれないんだよ。いいから通して」


「ダメだ」


「………………………」


走ってサンズを通り抜ける。
止めるかと思いきや、あっさりと通した…かと思われた。


「ガアアアァァァァァァァァァァ………………………」


なにかが唸る声。


影で見えなかったのか、いつからいたのか…。
そこにコアの入り口に似た竜の姿の骨が大きな体でキャラの前に立ちはだかっていた。


「どけて」


竜はそれでも退くことがない。


「どけてって言ってるの…!!」


「無理だぜ。そいつ、俺の言う事しか聞かねぇから」


背後から声がする。サンズだ。


「なら早くどけてって命令して」


キャラは少し苛立っているように見えた。
そのせいか、サンズは威圧を感じていた。
跪いてキャラに進言する。


「…申したはずですキャラ王女。ここでは私が絶対。誰であろうと」


「………………………そう」


キャラは竜の先にある扉を、ただ、見つめていた。


「…信じるしか…ないんだね」


フリスクは向かう。
最後の戦いへと。




涙は愛に変わる             end


お待ちかねの審判でした。サンズの審判を待っていた方はかなりいたのではないでしょうか。
しかし、どのルートを辿ったのかが分からなくなってしまうのがこの小説の長所であり短所でもあります。
ですがどのルートへ行こうとも矛盾が起きぬよう書かせて頂きました。皆さまの解釈でお楽しみください。
そしてようやく片割れのロケットペンダントが出てきました。
念願のロケットです。作者は最初ロケットのことを宇宙に行く方のロケットと勘違いをしていました。ロケットの着ぐるみを装備したのかと…。(それはそれで可愛いですね)
本家UNDRETALE、クリスマスの期間にアズゴアの部屋のクローゼットを調べると…?
お分かりですね。そんな小ネタもUNDRETALEには残っていたりします


日本ジョークで【愛】と【藍】をかけていますツクテーン
これだから日本語は面白いです。日本人でよかったなって思います。