sandtale-fromのブログ

UNDERTALE AUになります。砂漠化の世界、救うのは一輪の金色の花

あなたはいつでも私の太陽でいてくれる


メタトンが私に言ってきたこと。



自分を肉体へ完全に憑依させることのできる体がほしい。


今のみんなは人間が勝手に仕掛けてきた戦争で疲れている。


もう、生きる希望すら失いそうなほどに。


人間は私たちモンスターの力を恐れた。


戦争なんて人間が自分たちの都合の良いように話しているだけ。


ただの一方的な攻撃だった。


人間の勝利と言って真実は消えた。だけどそのおかげで、もう誰も死ぬ必要がない。


なのに、みんな暗い顔ばかりで家に閉じこもり塞ぎこんでしまうモンスターもいた。


もう戦争は終わったんだ。


だから過去のことばかりではなく、未来へ私たちは進まないといけない。


そのために自分ができること


一歩。


たった一歩だけでいい。


進んでいかなければ、なにも変わらない。


変われることに気づかなければ、なにも変わらない。


だから、私がみんなを元気づけるんだ。



メタトンの姿は実体もないゴーストの姿で、私よりもまっすぐな瞳で訴えていた。
彼の勇気を…否定することができなかった。
だから作るしかなかった。


それがメタトンにとってどれだけ重圧になってしまうかも、それで私がみんなから認められるからという邪な理由で作っていることも心のどこかで分かっていながら…。



私にはなにが正解なのか分からない。
それでも進むしかないの…?



確かにメタトンの体を作ったことで私はみんなから認められるようになった。


「ゴーストを憑依させる体を作った天才科学者アルフィス」


そう呼ばれて嬉しかったのはほんの僅かだけ。
どこか心の中は迷いと本当にこれでよかったのかというプレッシャーがあった。


メタトンは頻繁に私のもとへ訪れるようになった。
それは感謝に溢れていた。


「アルフィスのおかげでみんな元気を取り戻しつつある。みんなアルフィスに感謝してるんだ。だから一緒にみんなの所に行こう。王様もアルフィスに会いたいって言ってるんだ」


みんなが元気づけられているのは私のおかげではなくメタトンのおかげなのに…。
…王様に呼ばれ、私は行くしかなかった。
王様は緊張させないようになのか、物腰の柔らかいままお茶を出してくれた。


王座にも座らず、どこの家にでもあるテーブルと椅子。椅子に腰かけてたわいない会話をした。


「この砂漠で苦しい事はないかい?」


「いいえ、王様が頑張ってくださっているおかげで特に不便なことはございません」


「そうか…それならよかった」


王様は私の答えに心底安心したようで、微笑んだ。
とても優しい目だった。私には眩しすぎるほどに。


出されたティーカップに浮かぶ金色の小さな粒がひらひらと水面を泳いでいる。
水面に私の顔が映った。


あ! しまった目やにがついたままだった…!!
顔も洗わずに来てしまったから…!! 王様の前なのに!!


急いで目頭についた目やにを取る。さすがにバレてしまうと恥ずかしいので目をこすったフリをして取る。



「アルフィス…と言ったね」


「…はい」


「単刀直入に言おう。君を、ぜひ王国研究員として就いてもらいたいんだ」


「王国研究員…?」


それは研究員でも高位とされる地位。
そして王からの勅命。


「無論。無理強いするつもりはないが…」


「あ…いいえ! あの…私では微力かとは思いますが王様のお力になれればと思います…!」


…断れるはずがなかった。


それから私は研究所を任されることになった。
前任者は行方不明になってしまったらしい。
いきなり研究所の管理を任されて困惑したけれど、ここの資料や材料はここの研究員になる前と比べてとても豊富で、これからはより一層研究が捗りそうだと思っていた。
私は研究よりも機械をいじったり洋服を編んだりするほうが得意分野だったから他の研究者と比べてしまうと、本当にこの国に貢献できているのかは分からない。


私にできること。
メタトンは「それを探すといいよ」と言っていた。
……できることよりも承認欲求が勝ってしまっている私に一体なにができるというのだろう。


メタトンの体を作ったのはメタトンのためじゃない。私のためなんだ。
彼の願いを、私の欲で塗りつぶしてしまっただけなんだ。




情けない。




こんな弱い自分が。


メタトンの想いを無下に扱ってしまっただけ。


私は偉くなんかないの。


すごくなんかないの。


それを打ち明ける勇気もない。



ただ日々を過ごしている。


机に大量に積まれた布。
あれは砂漠に住むみんなが昼の暑さや夜の寒さに耐えられるような服の布地。


ただ布を縫い合わせてそれにみんなからもらった魔力を付加させて…そんな日々。



そんな時、研究所に一匹のモンスターが来た。


青いフード付きのマントに身を包んだモンスターだった。


「…こんにちは」


「あの…こんな夜遅くにどちら様でしょうか…?」


「あ、悪い悪い。こんばんは、か。この時間じゃないとさーパピルスが寝ろってうるさいんだ」


深くかぶっていたのだろうフードからは白い肌が見えた。
いえ、あれは肌ではなく骨のようでした。
緑色のマフラーを身に纏い、にやりと白い歯を見せながら友好的な顔で笑っていた。


「俺はサンズって言うんだ。お前さんアルフィスだろ? 王国研究員の」


「…あの、えっと……はい、そうです」


「よかった。アルフィス、単刀直入だが頼みたいことがあるんだよ。これ…直すことできるか…?」


サンズと名乗った彼は懐から茜色の小さな機械の破片を持ってきた。
それは手のひらに収まるほど小さな破片だった。


「…これは?」


「…とある友人だった奴のものなんだ。壊れちまってな……直せるか?」


破片をよく見てみる。
きっとこれは機械の一部なのだろう。
これは…直すには相当な時間が必要になるかもしれない。
それに…なにか不思議な力を感じる。


「直すにもこれが一体どういうものなのかも分からないから難しいと思います…」


「変に敬語を使わなくていい。これ、設計図なんだけど…」


彼はマントの中から筒状に巻かれた設計図を取り出した。


「これは…?」


「とりあえず直してもらえるとありがたいんだ」


机の上が乱雑に散らかっている。それを適当なところへ除けた後、設計図を置き、広げる。
四角い形状をしている。とても奇妙な機械。


「…あの、こういうのもあれなんだけど……これが一体なんなのか…その…分からないのなら直すのは、無理…だと思うわ」


「…」


彼は黙ってしまった。…私の力不足なのかもしれない。だけどこの機械が一体なんなのか分からなければ直したところで機能しない。


「…お前さん、この研究所で一体なにが行われてきたか知ってるか?」


「…え?」


「ここは研究施設であると同時に、保護施設でもある。ついてきてくれ」


そう言うと彼はバスルームと書かれた部屋へ入っていく。
そこは私も使ったことがある。お風呂に入ってすっきりしたい時もあったから。


サンズは壁にあった小さな穴を見つけるとそこに銀色の鍵を差し込んだ。


一体なにをしているのか分からなかった。


彼が手首をひねる。
鍵も彼と一緒に同じ動作をする。


するとどうだろうか。


ガチャリ


そんな音をバスルームに響かせて扉が開いていった。
開けた後、にししと笑いながら自慢げな顔をして私を見ている。


「じゃじゃーん。なんと隠し扉があったのだー!」


「え…気が付かなかった…どうしてこんなところに…?」


「イケてるだろ?」


「え…えぇ………」


困惑を隠しきれない。


「こういう所にお宝が眠ってることもあるかもしれないんだから少しはワクワクするだろ?」


「………それもそうね!!」


少しワクワクしながら中へ入っていくとそこはエレベーターの入り口だった。


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それからは驚いたことばかりだった。
いなくなったと思っていた住民がまさかあのような姿でこんな暗い地下にいたなんて。
サンズは彼らに恐怖したり差別したりすることなくたわいない会話をしている。だけど白い異形とサンズの会話は全くと言っていいほど成り立ってはいなかった。


「あの…サンズ…ここは………」


「ここは研究所さ。お前さんの前任者たちが使っていた真の研究所。だーれも知らない秘密の場所」


「誰も知らないならどうしてサンズは知ってるの…? あの鍵は…?」


「あ、そうだそうだ。ここにな、ポペトチッスプがあるんだ、食うか?」


サンズがポペトチッスプと書かれた袋を渡してきた。


「…」


暗い室内にポリポリと食べる音が響く。
話したくない…ということなのでしょうか…。


「おそらく、お前さんはここの管理も頼むことになる。こいつらの世話もな」


白い異形はゆっくりと私に近づいてくる。



ぺちゃり


ぺちゃり



そんな音を響かせながら。


顔だろう部分はぽっかりと空き、その空洞から白い液体を床に垂らしている。


私は怖かった。


王国研究員という華々しい地位がこんなにも…おどろおどろしいだなんて。


白い異形は腕のような細く、長い触手を私に差し出してくる。


それに逆らえばどうなるのかなんて考えたくない。私は手を差し出した。


するとどうだろうか。白い異形は奇妙な声を発して私の手を上下に激しく振り回した。
驚いて耳を澄ますと奇妙な声のなかにキャッキャと笑う声が聞こえてきた。


「お、喜んでるみたいだな。それもそうか。この場所に新しいモンスターなんて滅多にこないからなおさらだよな」


「こ…これ喜んでるの?」


「そうだよ、よく見れば分かるだろ? 分かんなくても一緒にいれば分かるようになるさ」


目の前の異形はア"ーという声を発し、顔の空洞から出てくる白い液体をぼたぼたと落とし、体を小刻みに震わせている。


…喜んでいる…んだ。これが喜んでいる姿…。


「…アルフィス、お前さんには申し訳ないが…しばらくこいつらを任せることになりそうだ」


「…え?」


予期せぬ発言にサンズの顔を見た。


彼は申し訳ないとも誰かにこの責務をなすりつけようとも思っていないような…いえ、正直な所、私には分かりません。そもそもモンスターと話せないコミュ障なのだから。
他人の心理なんて読めるわけがない…。


「そのまんまの意味。俺も頻繁にここへ来られるわけじゃない。これから俺は”審判者”としての仕事がある。たまにでいいんだ。こいつらの遊び相手になってあげてくれないか」


やることってなに?


私はこの子たちと一緒にいないといけないの?


まだ怖いのに?


この子たちは一体なんなの?


そんなことも言えない。


「…大丈夫だ、こいつらは悪いやつらじゃない。ただの被害者なんだ。…どうしてこんな姿になってしまったのかはこの研究所の記録に記載されてる。それを見てくれ。こいつら…俺は”アマルガム”と呼んでいる」


アマルガムと呼ばれたその異形は私の手をひいて、とある一つの部屋へと…。


……その部屋にあった記録は今まで形作ってきた私の世界に僅かなヒビを加えた。


_______________________



記録を全て見られるほど、私の心は強くなかった。


”誰かを想う心”


それが私たちモンスターが生きていく上で必要不可欠なもの。


どうしてそれが必要なのか考えた事もなかったし、遺跡に書かれた古代文字だって解読しようだなんて思わなかった。


これ以上、見てはならない気がした。


それは、この世界の真実に近づくものだったから。


知ってしまったとして、私はそれからどうするのだろう。


その答えすら持てない。


私は結局のところ、他人の言う事に流されて生きていくしかないのだから。


たとえ利用されていようが、私にはそれしか存在できる理由がないのだから。



現実逃避をするように布を糸で縫い合わせる。
このほうが何も考えずに済むから。



そんな毎日を繰り返していた頃だった。



一匹のモンスターが訪ねてきた。



研究所の扉をガンガンと強く叩く音。


「暑い!!!! 暑すぎる!!!!!!!!! 誰かここにいないのか!!!!!!」


今は白昼。
日差しの強いこの太陽の下ではモンスターですら命の危険にさらされてしまう。


未だにガンガンと研究室に鳴り響く音。


ドアに手をかけようとして、手が止まった。



もし、真の研究所がバレてしまったら?


アマルガムを見られてしまったら?


私は住民をあんな惨たらしい姿にした元凶としてみんなから非難されるかもしれない。


たとえ私ではないと否定したところで誰も信じてなんてくれない。



とても恐ろしかった。真実を知られてしまうことが。
真実を知れば、みんなが私を見る目が変わってしまう。


「鎧が…暑すぎる……」


その言葉を最後に声と扉を叩く音がなくなった。


…帰ったのだろうか…?


そっと扉に手をかけ、開いた。



…誰もいない?



そう思った時、下を見てみるとこの暑さからか倒れているモンスターがいた。
黒の甲冑を身に纏い、茜色の長い髪が日に照らされている。


…干からびているようだ。


こんな白昼で甲冑。しかも太陽の光を吸収する黒色だなんて自殺行為にもほどがある。
早くしなければこのモンスターは体中の水分を失って死んでしまうだろう。


すぐに私はこのモンスターを研究所の中へ運んだ。
入り口の近くに倒れていたのは本当に幸運だった。
こんな重い甲冑を私一人で数メートルまで運ぶのは無理だったから。


扉を閉めて、研究所内の冷房を最大出力にする。
寒い夜には暖房に切り替わる万能システム、これのおかげで毎日過ごしやすい。


さすがにこの甲冑を外さなければソファまでは運ぶことができない。


茜色の長い髪、ヒレのような耳…これだけ見てもこのモンスターが魚人であることは明白だった。


甲冑を外し、冷凍庫から氷を持ってくる。
オアシスの水を凍らせたものだから、きっと良くなる。
その氷で簡易的な枕を作り、ソファの上へ寝かせた。


起きたとき、体の水分やミネラルを取れるように塩と冷たい水も用意する。


あとは起きるのを待つだけ。
少し眠ろうと思った。最近はずっと研究所のアマルガムのこと、世間の目ばかり気にしていて眠れない日が続いていたから。


視界が徐々に黒く染まっていく。
瞼が視界を覆い隠す。


体の力が抜けていった。



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夢を見た。


誰かが、私のことを好きだと言ってくれた。


こんな惨めな私を好きだと、私でなければ嫌なのだと。


ずっと一緒にいようと。


それで…私は…………………。



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ふと、目を覚ます。
視界は研究所の天井を映していた。


なぜかソファに横たわっている。


確か…魚人のモンスターをソファに運んで…それで眠ってしまって…。



…夢にしても、ずいぶん夢物語を見た。



ただの憧れだ。叶うわけがない。
だけど、久々によく眠れた気がする。


あのモンスターは帰ったのだろうか?


ゆっくりと体を起こすと、調理場に誰かいた。
あの魚人のモンスターだった。


彼女は私が起きた事に気が付くと白い歯を見せる笑顔を向けてきた。



「あ! 起きたのか! いやー…ごめんな、暑くて倒れちゃって……あ、これ飯作ったんだけど食べるか?」



そう言ってお皿に乗った真っ黒な物体を渡してきた。
これは……?
よく見ると彼女の茜色の髪がところどころ焦げたように黒くなっている。
そして、調理場が誰かに荒らされたかのように物が散乱していた。


「飯…? ごはんって……これですか?」


「そうだ!! でもやっぱり台所はダメだな!! なにやっても飯が真っ黒になる!!! 台所はアタシのことが嫌いなんだな! でもアタシは台所が好きだ!! なんたって食材と戦える唯一の場所だからな!!!!!!」


「……鍋が穴が開いてる」


「そりゃそうだ!! だってアタシの槍で串刺しにしてやったからな!!」


「………まな板が真っ赤」


「これは憎きトマト野郎をこの手で握りつぶしてやったからだ!! 爽快だったぞ!!!」


「え、えぇ……」


とても自慢げに話してくる。
新しい調理器具を買った方がいいのかもしれない…。
前任の研究者さんが使っていただろう鍋が……顔も知らない前任者さん、ごめんなさい…。


「お世話になったからな! このぐらいの恩返しはしないとな!!」


「い…いえ、お気遣いなく…むしろあなたの方が客人なのに申し訳ないです…」


「きゃくじん? きゃくじんってなんかしないとダメなのか?」


「何もしなくて大丈夫ですから!! …そうだ、体は大丈夫なんですか?」


「え? 体? 大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ。アタシ元々体強いし」


彼女は黒のタンクトップにジーンズの姿だった。
鎧を脱いだおかげだろう、身軽そうに見える。


「それにしてもどうしてあんな鎧で外にいたんですか…?」


「へ? そりゃアタシはロイヤルガードだからな!!!」


「ロイヤルガード…? あの?」


「なんだ? お前知らないのか? 王国親衛隊のことだぞ? そしてこのアタシ、アンダインはその隊員の一人ってわけだ!」


ロイヤルガード。精鋭のモンスターのみが入ることができる部隊。
アンダインはそのロイヤルガードに所属している戦士…?


「ともかくだ!! あんのクソ骨隊長をぶっ飛ばしてやろうと思っていつも挑んでるのにさー、全く勝てないんだよ。いっつも一蹴りで飛ばされんの!!! だからさ、今日こそは!!って思って重い服着てればいける!!!ってようやく気が付いたのに戦う前に倒れちまった…」


あのクソ骨…? 隊長…?
私の知っているなかではサンズしか知らないのだけれど…。


「あの…砂漠でそんな鎧着込んでいたら誰だって倒れてしまうと思うわ…」


アンダインは自慢げな顔からきょとんとした顔で、まるで純粋にわからないと言っているように見えた。


「へ? そうなのか? でもアタシ服って言ったってこれしかないし…」


「服、作ってあげますから…」


「え、ほんとか!? いいのか!? イヤッホー!!」


「少し待っててください」


「あ、アタシお金とか持ってないんだけど……」


アンダインの顔に焦りが見えている。ぼったくられると思っているのだろうか…。


「…大丈夫です。お代はいりませんから。」


「え…いいのか…? 後で怖いモンスターたち連れて家に来るとかない…?」


「………ないです」


「分かった!!!!!」


「とりあえず座って待っててください。本棚に暇をつぶせる物がありますから」


確か、余っていた糸があったはず。黄色と緑の布もある。
…この布の量じゃ陽の光は防げない。どうしたものか…。


…!!
そうだ。前にサンズが持ってきたあの茜色の機械の欠片…あれを使えば…。


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どれくらい経っただろう。


のめりこんでしまうと今が何時なのかも分からなくなってしまう。
曲がってしまった腰をゆっくりと後ろへ伸ばす。


服は出来た。
あとはこれを渡せばいいのだけれど…。


アンダインはなにやら真剣な表情で漫画本を読んでいた。
それは険しい顔をしては花が咲いたように笑ったり、ぐすぐすと泣き始めたり多種多様だった。


「あの…アンダイン?」


「あ…あんた、これ…すごいんだな……」


「すごいって…漫画が? それはフィクショ…」


「まさかみゅうみゅうがあんな…あんなことになるなんて……だって無実の罪で城の地下牢に閉じ込められてるのに諦めていないなんて……アタシ…アタシ…」


あれ、そんなシーンあったっけ。


……待って、アンダインが持っているそれは私がキスキスキューティみゅうみゅう2が気に入らなくて勝手に描いた本では。


「こんなことが現実で起きてるなんて可哀そうにもほどがあるぞ!!! ロイヤルガードであるアタシが助けに行かなきゃならないな!!!!」


現実と漫画は違うのよ!?
そう言いたかったけれどアンダインの熱意が伝わっていて言う機会を失ってしまった気がする。
話を逸らさなきゃ。


「あの…これ、服できたの」


「服?」


布が少ないため、胸を隠すことしかできなかった服に緑色の短パン。
こんなものしかできなかった。


だけどアンダインはその服を見て、目を輝かせた。


「これ…作ったのか? すごいな…!!!さっそく着てみる!!」


アンダインはその場で服を脱ぎ始めたため、私はとっさに目を手で覆った。


「ほら、目開けていいぞ」


先ほどの黒いタンクトップにジーンズの姿と違い、さらに軽装になったようだ。
布が少なかったため、首元や腹部、足、様々な所が露出している。とても砂漠で生きられるような服装ではない。


「これいいな。動きやすい。あのズボン、すっごい暑かったんだよね」


「それならよかった…あと、これも」


「なんだそれ」


茜色のペンダント。雫に穴が開いたのような形をしている。


「服だけじゃ昼の暑さに耐えられないと思ったの。だからこれに魔力を付加してあげればあんな鎧なんか着なくても、このペンダントがあなたを護る鎧になってくれる」


「…つまりどういうこと?」


「これを付ければ暑くないってことです」


「え!!? ほんとか!? スゲーんだな!! ありがとな!!!」


彼女は濁りのない無垢な笑顔で私に話してくれる。
それからというもの、アンダインは毎日のように私のもとを訪れるようになった。



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彼女は私に敬語を使うなと言った。


私は致し方なく、敬語を使わないようになった。


アンダインはそのことにとても喜んでいた。


アンダインは私のことを友達だと言ってくれた。


アンダインは私の事を好きだと言ってくれた。


それがどういう意味の「好き」なのかは分からない。


ずっと私のそばにいてくれた。



彼女はいつでも、私の太陽でいてくれた。



ある日のこと、早朝に散歩をしていた。
朝ならば夜のように寒さで凍えることもなく昼の暑さで倒れる心配もない。


最近はみゅうみゅうが彼女の中では流行りになっているようで、ここ最近ずっと話している。
けど私の描いた妄想漫画のことも話題に出るので「あはは…」と笑う事しかできない。


「なぁ、アルフィーはさ、こーんな砂漠にいて楽しいか?」


アンダインが話題を変えてきた。
いつもなら私が変えることが多いのに。


「…どうしたの?」


「ん、いやー…だってさ、こんなに面白い漫画がいっぱいあるんならさ、人間たちのいる場所はもっと面白い漫画がいっぱいあるんだろ? 人間ばっかりずるいと思わない?」


「確かにね…でも私たちモンスターは人間から追われてこの砂漠にたどり着いたんだから私は別に不満ってわけじゃないの」


広大な地平線を見る。建物なんてものはなく、ただあるのは砂と日が昇ってきそうな太陽、そして雲だけ。
それを私とアンダインは見ている。


「そうか? アタシはこんな砂漠に居続けるなんて嫌だな」


「どうして?」


アンダインの顔を見ても、彼女はただ広大な砂漠の地平線を見ていた。


「確かにこの砂漠は広い。だけどな…暑いんだよ…それに夜は寒い。めちゃくちゃ寒い。どんな服を着たらいいかわからん!!! …って言ってもアタシは夜は家の中にいるけどな! 寒いところは好きだけど、夜は寝ないといけないからな!!!」


正直なところ、私にとってこの砂漠から出たいかと言われると、分からない。


「アンダインは日差しの暑さ苦手だもんね。でもアンダインも太陽みたいに明るくて素敵だと思うわ」


「たいよう?」


地平線を見ていたアンダインが首をかしげてこちらを見てきた。


「そう、太陽。アンダインはいつも明るいでしょ? みんなアンダインのその明るさに救われていると思うの」


本当に救われているのは私だけどね。


「太陽って熱いじゃん。アタシはそんな熱い奴じゃないぞ?」


「アンダインだって熱いじゃない。こう…志が」


「アタシが熱すぎたらみんな溶けちゃうだろ!?」


「溶けないよ!! 例えよ例え!! 比喩!!」


「ひゆ? なんだそれ」


「あ~えっと…なんて言えばいいか…」


「それじゃあさ、アタシが太陽ならアルフィスは雲だな!」


「え? 雲?」


雲。…陰気臭いってことだろうか…私だから当然なんだろうな…。
そう考えて下を向いてしまった私に気づいたのかアンダインが私の両脇を掴んだ。


「へ?」


驚く間もなく、足が浮いていく。
これは抱えられているみたいで浮かび上がった先にアンダインが私の目を見て微笑んでいた。


「アタシが太陽って言うんならアルフィスが雲。太陽であるアタシがみんなを暑くしすぎるだろ? アルフィスはそんなアタシからみんなを護る"雲"ってことだ!」


…まさかそういう解釈で来るとは思わなかった。
彼女はいつも私を導いているような気がした。


「みんなを護る雲?」


「そうだ。アタシいっつも言われるんだよ。周りが見えてないって。それに雲と太陽だったら同じ空にいるだろ? アイツらも絶対仲良しに決まってる!」


「…そうね、きっと仲良しに決まってる」


「アタシたちもアイツらみたいにさ、仲良しでいよう。今もこれからもさ! だってアタシたち友達だろ?」


今まで世間の目を気にしていた私にとって”友達”という言葉ほど甘美な言葉はなかった。
でも信じていいのでしょうか…いいえ。信じよう。彼女を。アンダインを。


「そう、友達。私たちはずっと友達」


「お前がなにを考えているかなんて、ほとんどアタシにはどうでもいい。アタシが好きなのはお前の情熱、分析的思考だからな!! 対象にお前はそれに心を注ぐ。全力で。…だからもうなにかを抱えなくて悩まなくていい。アタシも一緒に背負ってやる」


「アンダイン…」


「アルフィー、アタシはお前が自分を好きになる手伝いをしたい」


「…私ばかりでずるい」


「そう?」


「だから、アンダインが危なくなった時、今度は私があなたを助けに行く」


「わかったわかった」


「…信じてないでしょ」


「信じてるって。アルフィーの言う事を信じなかったことある?」


「ない…」


「だろ?」


「なら私の言う事も信じてよね」


「だから信じてるってば」


そんなことを繰り返しながら、私たちは朝日照らす砂の上を歩いているのだった。



________________________



あなたはいつでも私の太陽でいてくれる      end


今回はかなり長編でした。それと過去にない暑さが続き、体調も壊してしまいました。
更新を待っていた方々には大変申し訳ないです。これから体調管理はしっかりします。
そんなことより


アルフィスの独白です。
サンズの次に秘密を抱えているキャラクターだと思っています。
公式日本語版では「アルフィー」
非公式日本語版、英語表記では「アルフィス」
と呼ばれていますが、皆さまはどちら派でしょう?
今は公式が主流になっているので「アルフィー」が多いでしょうね。
サンテではそれを利用して名前を「アルフィス」
アンダインだけは名前を呼ぶとき「アルフィー」
と呼びます。愛称のようなものです。かわいらしい愛称だと思っています。


「アンダインが危なくなった時、今度は私があなたを助けに行く」


さて、それはいつなんでしょうね。

秘密のパスワード



………………………。



………………………………………………。



「あのさ…幼稚園児じゃないんだからさ………」



最後の回廊。
重々しい沈黙の中、彼が人間を引くような目でようやく言葉を発した。
目の前の人間はただ顔の筋肉も動くこともなくボソボソと言っている。


「なんだ……”ぼくは伝説のおならマスターだ”って……」


………………………………………………。


………………………………………………………………。


また重々しい沈黙が続く。


人間の隣にいた少女、キャラもいきなりの意味不明な発言に困惑しているようで、モンスターと人間の顔をせわしなくキョロキョロと見比べている。続いたままの沈黙に耐えきれなくなったのかキャラが勇気を出して話し始めた。


「あ、えっと、きっとフリスクは暑さでやられちゃったんだよ!! そうだよ! ね、フリスク、少し休もう? ずっと歩きっぱなしだったもんね? ほらお水もあるよ?」


水筒からコップに水を移そうとして自分の服の袖にかけてしまい、ずぶ濡れになっているようだ。しかも気づいていない。ドバドバと水が袖に向かってこぼれている。
きっと心の中では混乱したままなのだろう。


それもそうだ。サンズから「最後の審判」と言われ、身構える場面にも関わらず、唐突に場違いなセリフを言ったのだから。



「お前さん…どうしてそれが秘密のパスワードだと思ったよ?」



糸目の少年は顔を上げて口を開いた。


「言ったでしょ? ”もしここに帰ってくる時があったら言え”って”秘密のパスワードだ”って」


その言葉を聞いてサンズは少し驚いた顔をしていた。


「あ…いや、俺、確かにパスワードなんだけどさ。その他にもあるんだよパスワード。秘密の秘密のパスワードさ」


まだあるのか…フリスクは表情筋も動かさず深いため息を吐いた。
まるで「またか」とでも言いたげな深いため息だ。


「…今のが秘密の秘密のパスワードさ。ほらよ」


サンズが近づいてくる。呆れていたフリスクの手を掴み、開かせては手のひらに何かを握らせた。
見てみる。それは藍色の小さな鍵だった。


「それ、俺の部屋の鍵。お前さんが望む”本当の真実”に近づくためのやつさ」


鍵を見ていた瞳がサンズのほうへ向けられる。


「これがあれば分かるの?」


「…お前さんが何を知りたいのかは知らん。その質問をしたいならまず何が目的なのか話すべきだな」


その言葉でフリスクはキャラを見た。一瞬だけ。
キャラは気づいていない。


「……サンズには分からないよ」


「だろうな。お前さんが秘密のパスワードを知ってるってことはそういうことなんだろ」


「じゃあ…”後で”ね」


「あぁ…”後で”な」


踵を返し最後の回廊から駆け足で出て行ってしまう。
キャラは二人の会話を理解できないまま、フリスクの後に続こうとしてサンズに声をかけられた。


「キャラは待て。お前さんには行く権利はないぞ」


「え…? どうして?」


「フリスクはあの鍵を手にするまでの権利を得た。だがお前さんにはないってこと」


サンズの言葉に、嫌な顔をすると思っていた。
だが彼女は目をきょとんとさせて唐突にこう話した。


「……ねぇサンズ、こんなこと前にもなかった?」


「こんなことって、このやり取りがか?」


「うん、なんとなく…前にもここでサンズに止められた気がする。誰かがいて…先に行っちゃって、ついていこうとして、サンズに止められて……」


考え込んでいるキャラの頭に細い指が伸び、ニヤニヤした顔でまるで子どもをあやすようにぽんぽんと頭を触る。


「すごいなキャラは、予知能力でもあるのか?」


「ん、少しだけあるって言ったらどうするの?」


少しムッとした後、何かを企んだのかキャラはイタズラっぽくニッと笑う。
傍から見れば、最後の回廊で笑う二人の表情が似ている。本当の兄妹のようだ。
血や種族が違っていても一緒に住んでいれば表情の出し方や態度が似てくるのだろうか。


「はは…そりゃ悪い冗談だな。しばらくはフリスクを信じて待ってやれ」


「どうせ行こうとしても止めるんでしょ? あの大きな骨の子使ってさ」


「どうやらお前さんは相当俺の事が好きなように見える」


「当たり前だよ。兄妹なんだから。私のもう一つの家族だもの」


最後の回廊でそんな会話をする二人を照らしているのはステンドガラスから差し込むオレンジ色の黄昏の光だった。



________________________



サンズの部屋。


何度Resetを繰り返しても入る事ができなかった場所。


きっとここに本当の真実がある。


そう確信する。



スノーフルにある家に入ると頭に橙色のバンダナをつけた長身の骨が出迎えた。


「ん!! おかえり! フリスクもう帰ってきたのか? 今度はちゃんとうまい料理を作ってやるからな!! アンダインもパーティの準備をしてくれているのだ! あ! なんのパーティかは聞いちゃだめだからね!! このパーティはある人間の歓迎会なのだ! だから秘密なの!!」


パピルスの話が終わる前に階段を駆け上がりサンズの部屋の鍵を開ける。


急げ、急げ。


ここに本当の真実があるんだ。


ドアを開ける。
中は真っ暗だ。


歩く。歩く。歩く。歩く。


……ずいぶんを長い廊下だ。


歩く。


歩く。


早く着きたくて走る。


走る。


走る。


まだ着かない。まだか。


………………………。


………………………………………………。



は…走りつかれた。



息が切れる。足がもつれる。汗が砂漠の熱気で水蒸気となって流れる間もなく空気となって消えていく。


油断していたのだろう。つま先が床に躓いた。


そのまま体は重力に逆らえず床に…



ガシッ



…なにかに頭を掴まれた。
床とおでこがぶつかる前に誰かが抱えたのだろうか?


「…お前、なんでこんなところで走ってんだ?」


顔を上げる。


そこにいたのは茜色の髪とペンダントをしたアンダインだった。
どうやら転ぶ前に頭を掴んだようだ。足が宙に浮かんだまま脱力している。


ふと周りを見る。先ほどまで真っ暗だった空間は電気がついている。
カーテンの閉まったままの窓に棚、寝るためのベッドに置かれた布団はたたまれずに乱雑なまま放り投げられている。床はなにかの資料がしわくちゃになって敷き詰められているようだった。
自分の瞳に目の前のベルトコンベアーが映る。それはウィーンと機械音を立てて動いていた。


「…そんなに運動がしたかったのか? それならそのランニングマシーンじゃなくてロイヤルガード隊長のアタシが相手になってやったんだぞ?」


アンダインはフリスクの頭を掴んだまま、ニッと笑った。


…アンダインの稽古はスノーフルを50周とか槍の素振り5000回とかあるから嫌だなぁ…。


「あ、えっとそれはいいや…」


「サーンズ!!!!!! 俺様のフィギュアはどこあるか知らないか! オレンジのパーカー着てる気だるそうな俺様!! あと最近教えてもらった、青くて羽の生えてるイケてる俺様と、”王立交響騎士団”のクールな俺様と、頭にハチマキ巻いたホットな俺様と、ハートのエプロンしたグレート料理人の俺様……ってなにやってるの?」


パピルスがじとーっとアンダインとフリスクを見た後何かに気づいたようだ。


「あ~……どうせ兄ちゃんにからかわれたんでしょ。兄ちゃんってばそういうなーんか見越したようにからかうから、俺様そういうとこは嫌いだぞ…ところで俺様のフィギュア…あ!! 思い出したぞッ! 俺様の部屋の棚の上だ! ニェッヘッヘ!! 俺様って、ホント、天才!」


ニェッヘッヘという笑ったまま部屋から出て行ってしまった。
アンダインと、そのアンダインに頭を掴まれたままのフリスクとウイーンと音を鳴らしたままのランニングマシーンが残された。


「…」


アンダインがそっとフリスクを下ろした。
そしてしゃがんでフリスクと同じ目線になり、なぜか憐れんだ顔をした。


「…お前も大変だなぁ…あ、そうだ。お前に頼みたいことがあったんだ」


アンダインがポケットから一通の手紙を渡してきた。
…とても分厚い。分厚いというか、硬い。石か? それとも鉄かなにかか?
しかも重い。


「これ、アルフィーに渡してくれないか? ちょっとアタシからは…ね?」


口を尖らせてもじもじとしているように見える。
アルフィー?


「アルフィーって誰?」


「アルフィーはアルフィスだよ!!! みんな”アルフィス”って呼ぶけどアタシは”アルフィー”って呼ぶんだ! あ!! お前はそうやって呼ぶな! この名前はアタシとアルフィーだけの特別なんだからな!」


アルフィス、あのトカゲのようなモンスターのことだ。
結局、メタトンのショーで告白中継をしたために砂漠中どこもかしこも「結婚式の準備だ」「おめでたい」「はやく披露宴しよう!」「ドレスは? 2人分? 早く作らなきゃ!」とお祭り騒ぎときた。


アルフィスはあの後みんなに担がれてアンダインの所に連れられて再度告白して無事、ハッピーエンド…なのだがその後、彼女は研究所に引きこもってしまって出てこない。
アルフィス本人曰く「ま、まだ心の準備してるの」とのこと。


そう言われてしまうと強要ができず、アルフィスの心が、準備できた!と言った時すぐに行えるように結婚式の準備をしているそうだ。多くのモンスターは共生の神殿にいる。


アンダインもそのことを考慮しているようで、そのための手紙なのだろう。


「いいか!! その手紙の中は見るなよ! 恥ずかしいからな!」


そう言うと重い手紙をニッと歯を見せて笑って部屋を出て行った。



*おもいが詰まった手紙を手に入れた。



…どこからかツクテーンという音が聞こえたような気がするけど無視した。


ランニングマシーンを見てみる。
張り紙が付いているようだ。


【一つ真実を教えましょう。急がば回れって言葉知ってるか? つまりはだ、あなたはからかわれています。バーカバーカ】


…見透かされているような気がする。もしくは監視でもされているのか…?
辺りをキョロキョロとするも誰もいない。
…それはそうとして、この部屋に来たのだから探し物をしなくては。


ベッドの上には特に何もない。
床に転がったしわくちゃの資料を拾ってはしわを伸ばしつつ集める。


これは量子力学のものか。
哲学的な言葉が並んでいる。それにサンズが研究者だからか、とても綺麗な文字とは言えない。解読するには時間がかかりそうだ。


資料をパラパラと開いて読んでいく。


……。


………………………。


要点をまとめると



【時間が巻き戻る可能性がある】


【私たちは未来へと進んでいるが同時に過去へ進んでいる可能性がある】


【未来で起きたことが過去に影響を及ぼすこと】


【これを逆因果と呼ぶ】



時間は一方通行に進んでいるように見えて、実はぐるぐると回転するように進んでいるのではないか。という結論だった。


そして


【もし逆因果が起きた場合…それはResetの力を持つ者が現れたとき】


【因果が壊れることのないように、その力を正しく使えるか否かを判断しなくてはならない。もし正しくないと判断した場合、それは】


これ以上のことは書かれていない。
棚を見てみる。引き出しの中に、ポツンと一つだけ紙に敷かれた銀色の鍵が入っていた。


鍵? ここ以外に使う場所なんてあっただろうか?


鍵を手に取る。なんの変哲もない鍵だ。
一緒に寂しく置かれていた紙を裏返してみる。なにか書かれていた。


【その鍵についてはアルフィスに聞くといい】


…やはりサンズは僕がここに来ることを見越していたのだろうか?
とりあえず次の行き先は決まった。


アルフィスの研究所だ。


人間はホットランドへ足を進めていった。


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人間とモンスターの戦いが終わり、砂漠へ追いやられたものの、私たちは生き残った。


でも私たちは次々と凶刃に倒れて塵になった。


戦争が終わったというのに、約半数の命が消えていった。


…ここまで何匹ものモンスターが死んでいった。


どうしてだと思う?


私たちが死ぬとき…それは自分の子が大人になった時。
子どもに自分の持つ力を与えてから寿命で死ぬ。


モンスターはそうやって出来ている。


子どものいないモンスターが次々に死んでいく。
寿命などではない。


私たちは死んだ。


一人はおもちゃのナイフを
一人はグローブを
一人はバレエシューズを
一人はノートを
一人はフライパンを
一人はおもちゃの拳銃を


私たちに振り下ろした。


そして塵になった。


だけどこうして生きている。


僕たちは生きている。


俺たちと一緒に。


けんきゅうしゃ。


彼らはそう言っていた。


彼らは僕たちを助けてくれた。


俺たちを護ってくれた。


私たちを殺したあの子たちも、ただ怖かっただけなんだ。


もう少し、接し方を治したほうがよかったのかもしれない。


ハミングをしてあげればよかったのかもしれない。私は歌が得意だから。


話合えばよかったのかもしれない。でももう俺はからかわれたくない。


息子の真似をして、ジョークで場を和ませてあげられればよかったのかもしれない。


疲れて眠ってしまった時、温かい布団をかぶせてあげればよかったのかもしれない。


みんな一緒になった。みんな家族になった。


騒がしいけど、とても賑やかになった。


だから恨んでなんかいない。


願わくはあの6人の子どもたちに未来ある世界を。




アレ  前ニモ コンナ事 アッタ ヨウナ。





オナカ スイタ アルフィス ドコ?





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秘密のパスワード       end


SANDTALEの闇が少しだけ見えた気がしますね。
私はもともと原作の解釈が大好きな人間なので、今回も、その解釈が含まれています。
個人的なものなので強制はしませんが、もし皆さまが原作の解釈をされる際は、量子学を勉強することをお勧めします。時間や次元について書かれているものが多いのです。それに本家サンズがどの研究をしていたのか、その過去を追う事もできます。
つまり、量子学を知れば、本家の謎を紐解ける…と私は思っています。
あくまで個人的な意見です。量子学、とても面白いですよ。

「 星 」



『思い出して』


『きみが今まで見てきたものを』


『きみが今までしてきたことを』




『これはきみの走馬燈』




『諦めるにはまだ早すぎる』





    『さぁ、決意を抱くんだ』




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    エラーメッセージ


    名前はすでに決められています。




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「フリスク!! 今日は俺様が腕によりをかけて作ったスパゲッティを食べてもらうのだ!!」


ここはスノーフルにある一つの家の中。


今は夜になっていて、サンズとグリルビーズに行くか、それともパピルスの手料理を振舞ってもらうかという話で後者にした後の話。


サンズはフリスクの返答を聞くと「そっかー残念だな」と言って外へ行ってしまった。


「待っててね、ちょっとパスタを作るのに時間がかかるもので…あ、いや、俺様のようなグレートなモンスターがいればこのくらい朝飯前なのだッ! ……もう夜だけど。 あ、フリスクはソファに座っていてくれ、大急ぎで作ってくるからなッ!!」


そう言うとカタカタと骨を鳴らしながら、キッチンへ向かっていく。


ソファに座る。三人が座れるほどの大きさ。とてもふかふかとしている。
…ところどころ白い毛が混じっているようだ。トリエル…の毛ではなさそうだ。
ソファのすきまに何かが光っている。


30Gだ。メモも挟んである。


”おめでとう! これでシチューを買ってサンズにあげるといいことがあるぞ! byサンズ”


ツケくらいこれで払えばいいのに…。
…見なかったことにしてお金も戻しておいた。


上でトタトタと階段を降りる音がする。
黄色の横縞の入った水色のワンピースを着た人間の少女、キャラだ。


「あ…」


フリスクと目が合ったことが分かるとすぐに目を逸らし、キッチンへと走っていった。
それもそうだ。まだ打ち解けていない頃なのだから。
ソファに座って待っていると、キッチンで話声が聞こえた。


「キャラ、人間とはお話できたのか?」


「う……」


「モンスターには気軽に話せるんだから、人間だって話せるよ。だって同じ種族なんでしょ?」


「…だって私以外に人間なんて初めて見たもん…本でしか見たことなかったし、どうやって話したらいいの?」


「んーーーーー。そりゃ?」
「俺様みたいに?」 
「友達がいっぱいいるモンスターなら分かるだろうし…」


「パピルス、教えてくれるの!?」


うつ向いていたキャラの顔がその言葉によって勢いよく持ち上がる。


「え?」


「だって今、”俺様みたいに友達がいっぱいいるモンスターなら分かる”って言ったじゃない! ねぇねぇ教えて!!」


「え、え、ちょっと待って……それは…えっと……」


キャラが目を輝かせている。
もう言い逃れはできないようだ。


「そうだ!! そういう時はスパゲティを振舞えばいいのだ!!」


「スパゲティ? あれってみんな不評じゃない?」


「そんなことはないぞ!!! サンズだってちゃんと全部食べてくれるぞ!!」
「サンズってばキャラの分も食べちゃっていつもキャラは食べてないだけだッ!!」


「そうなの? 食べさせてくれないだけかと…」


フリスクには丸聞こえだが、あえてツッコまないでおこう。




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俺が見たものを書いておこう。
Resetが行われてもその干渉を受けない場所。
それはここにはない。


ここはコインで言うならば表の世界。



誰も死ぬ必要のない世界。



そして裏の世界がある。
それは………今はやめておこう。


話が逸れた。
Resetの干渉を受けない場所。それはコインの中だ。
コインを形成する物質そのもの。
それは確率の中で現れる。
俺たち研究者の間では【Fan値】と呼ばれるもの。
幾度も行われる時間の中、その確率にかけるしかない。



砂を踏む。



砂は風に乗り、移動していく。



今は夜だ。
凍えてしまうような寒さ。氷点下はあるだろう。
マフラーを少し厚めに首に巻く。
人間にこの寒さは下手をすれば死に至る。
肺はないが口から白い息が夜を彩っているように見える。
俺は、ただ砂の上から自分の家を見ている。


人間への審判を下すために。


しかし…なんだ?
あいつは見たことがあるような、そんな雰囲気だ。
まぁ、きっとあいつはResetの力を持つ人間なのだろう。
この物語も、何度目なのだろうか。


家の中からにぎやかな声が聞こえてくる。
パピルス、キャラと分かり合えたのだろう。窓からは楽しそうに笑っている姿が見える。
……なぜか全員スパゲティだらけになっているのは気にしないでおこうか。




次の日の朝、アンダインと対峙した。


パピルスがアンダインを止めたようだった。


「あいつはいい人間だっ!!! アンダインとだって分かり合える…!!」
と、兄弟らしい台詞だと遠目で見ていた。俺の出る幕はなさそうに見える。


パピルスの根気で負けたのか、アンダインはフリスクを家に招き入れたようだ。


……中に入れないがどんな状況になったのかは…なんとなく分かる。


理由は、二人とも頭がアフロのようになっていて、家の中が火の海だったから。




昼、太陽の日差しが容赦なく照りつける。


アルフィスと会ったようだ。


さすがに研究所の中までは干渉できない。
出てくるのを待つしかないだろう。


しばらくして白い水玉の傘を持ったフリスクが出てきた。
通信機を持って耳に当てているようだ。



~♪



プルルル……プルルル……


自分の通信機の音だ。



「もしもし?」


「俺? 俺だよオレオレ。ミックスオレ」


「そう、オイラの名前はイチゴオレさ」


「え? さっきと名前が違うし一人称も違うから直せって?」


「ただのジョークだぜ? そうだ、僕はミルクオレが好きなんだ。乳製品は美味しいんだぞ?」


「え? それはミルクオレじゃなくてホットミルクだって? 勉強になったよ」



…そんな話もほどほどに、通話を切る。
そろそろホットランドに着く頃合いだろう。
”アレ"の準備くらいしないとな。


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「ん? この望遠鏡いいだろ? 覗いて見るか?」


ホットランドへの入り口である竜骨の前でサンズがいた。


旅の途中であるフリスクが声をかける。


今は嫌になるほどの快晴だ。それもまだ昼。
それなのに望遠鏡を立てている。


「あ、大丈夫だって。これは特殊な望遠鏡なんだ。太陽を見て目が焼けることはないぜ」


人間は促されるまま、望遠鏡を覗き込む。


………。


…青い空に星が見える。


これは…夜空なのだろうか。まだ昼なのに月と星が輝いて……いない。
よく見ると月も星も…なぜか粗い……これは…落書きか。
青い紙にクレヨンで描いたようだった。
望遠鏡から顔を放す。


「すげぇだろ? プッ……ククククククク……」


サンズがなぜかお腹を押さえて笑っている。
なぜなら人間の左目周辺が円を描くように紫色になっていたから。


当の本人は気づいていない。表情からでは読めないが、サンズが笑っていることを不快に思っているようだった。


「いいだろ? 星は。むかし、こう言っていたやつがいたんだ」


サンズは笑う事を止め、空を仰いだまま静かに話し始めた。とても落ち着いた声で。


”ほしってなあに? さわれるの? おいしいの? ころせるの? ぼくたちはほしなの?” ってな。もうそいつは今の姿じゃないけど、俺はその答えをずっと探しているんだ。そしてたどり着いた」


空を見ていた目が下を向き始めた。彼の目には憂いを帯びているような、懐かしそうに口端をわずかに釣り上げて笑っているような、そんな雰囲気があった。


「俺たちは星の一部で、何億の星は俺たちと同じなんだって。同じように光っていて…それでいて違う存在。そして、月は俺たち星の原点なんだってな」


フリスクはその演説をただ真っすぐ聞いていた。
そのことを分かっているようで、サンズはフリスクを見下ろした。


身長の差でいえばサンズの方が高い。フリスクが手を伸ばしてようやくサンズの頭を触れるほどの差だ。
それに気づいたのかサンズは「よいしょ」と言ってフリスクの目と同じ高さになるように膝を曲げた。まるで種族の違う人間とモンスターが対等に話しているかのように。


サンズは自分とは種族の違う人間の子どもに問いかける。


「お前さんもいずれ、本当の真実を知る時が来る。その時、お前さんは星と友達になることができるか?」


「そういうサンズは星と友達になれるの?」


フリスクが問いに問いで返してきた。
少し驚いたサンズだが、気にする様子もなく答えを出す。


「さぁな。星の一部がここに落ちてきたら俺は忙しくなるし、一部の星からは嫌われてるからどうかな」


「…サンズの言う”星”っていうのがイマイチ分かっていないのだけど…」


「今は知らなくていいのさ。これを知る時は本当の真実を話す時だからな。そうだ、この先にキャラがいたぞ。俺が送ったけどな。会いに行ってやるといい」



紫の跡が左目の周辺についているのを止めもせずにホットランドまで見送る。
この後キャラと出会って、メタトンのショーを盛り上げて…。


アイツは最後の回廊で俺の審判を受けるのだろう。



その時に………。




サンズの持っている鍵が月明りに照らされて小さく光った。




________________________



「 星 」              end


*「ほし」ってなあに?  *星ってなに?
*さわれるの?      *さわれるの?
*おいしいの?      *たべられるの?
*ころせるの?      *ころせるの?
*…           * ...
*あなたはほしなの?   *きみは星なの?



原作の解釈をするにあたってとても難解なセリフでした。
非公式と公式の翻訳を駆使しましたが、結局このモンスターが何を伝えたいのかが分かりません。とても意味深だなと今でも思っています。星に関連した話をするのは本当に数少なく、願い事の話もこのセリフとは接点が見当たりません。
なのでこのセリフだけで解釈しなくてはいけなかったのです。
誰か教えて欲しいレベルです。


星ってなんでしょうね。
太陽と月を除くすべての発光天体に与えられた名称…らしいですが、あのモンスターが聞きたいのはそういうことではないのだと思います。
もしかすると人間のことを「希望の星」と呼んでいたのかもしれません。
その答えを私には出せませんが…。


SANDTALEでは独自の解釈をさせて頂こうと思っています。
もっとも…これを知るのはまだ先の話。